まんぷくっ! -となりのアイドル(と)ごはん-

indi子/金色魚々子

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2 (理想的な)家庭の味ってどんな味?

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「あとは何が必要?」
「えっと、あとは服かな。食器類は大体買ったし」
「まるでこれから、だれかと二人暮らしするみたいな買い方だったね」

 私たちはショッピングモールに来ていた。別居生活を始めてから、生活に足りていないものが増えてきた。あと、服も欲しい。そう優奈に話したら、その日は仕事も落ち着いてきたし休みも取らないといけないので、有給を取って付いてきてくれると言うのでその言葉に甘えた。

「だって、これから使うことも増えるし……」
「あー、例の人ね」

 優奈が『例の人』と表現するのは、アイドルグループOceansのメンバー、MINATO君の事。彼とした『私に自信がつくまで料理を食べてくれる』約束、今日がまさに木曜日だった。今日で終わらず、これからまた来ることがあるかもしれないし……彼が使う食器くらい買っておかないといけない。いくつかお皿やスープマグを選んで、重たいので宅配便に送る手続きを終えたところ。結構散在してしまったけれど、まだ貯金は残っている。

「服ってどんな感じがいいの?」
「動きやすい服がいいな、そろそろバイトも始めるわけだし」

 でも、そろそろ仕事を始めないと心もとない。幸いなことに優奈のお父さんに紹介してもらって、私は今度から本屋でアルバイトをできることになった。動きやすそうなジーンズやTシャツがいくつか欲しい。

「あーあと下着かなぁ」

 ふらっと立ち寄ったファストファッションのお店、私は下着コーナーで立ち止まった。

「今持ってるのほとんどボロボロだから買い換えたいの」
「……ふーん」

 私がシンプルなデザインの下着を手に取ると、優奈がその手をガッと力強く掴んだ。

「な、なに?」
「私がかわいいのプレゼントしてあげる。一人暮らし記念に」
「え?」
「ほら、服買って早く行くよ」

 優奈に言われるままカゴにいれた服の会計をさっさと済ませて、私は引きずられるようにランジェリーショップに来ていた。こんなに可愛い下着に囲まれていると、何だか不相応な気がして来てならない。……私みたいな奴がこんな所にいるなんて、なんだかみっともなくて恥ずかしくなっていく。優奈はどんどん奥に入って行って、店員に話しかけていた。

「あの、サイズ計ってほしいんですけどー、あ、私じゃなくてこっちが」

 優奈が私の肩を掴んでずずっと前に出した。店員はにっこりと笑って「フィッティングルームへどうぞ」と二重になっているカーテンを開ける。

「い、いいよ計らなくても。サイズなんてわかってるし」
「変わってるかもしれないでしょ? もしかしたら大きくなってるかもよ? ほら、行ってらっしゃい」

 下着なんて安くてシンプルなものでいいのに。私はそんな事を考えながらサイズを計測されていく。店員が付けている甘い香水の香りがふんわりと漂ってきて、何だか非現実的な空間にいるみたいだった。

「どうだった?」
「やっぱりサイズ変わってないよ」

 優奈にさっき測定されたばかりのサイズを告げる。

「まあ良かったじゃん。ねぇ、これはどう?」

 優奈が真っ赤な下着を私に見せる。

「服に隠れて見えないけどさ……ちょっと派手過ぎない?」
「そう? じゃあこれは?」

 真っ白で可愛らしいレースがあしらわれている。いいじゃん、と思って手に取ったら、ショーツのお尻の部分がスケスケだった。無言で優奈に突き返すと、彼女はいたずらっ子みたいに笑う。

「それならこれは?」

 優奈が手に取ったのは、花柄のレースが施された淡いピンク色の下着セット。パステルグリーンの葉っぱをかたどったレースが、ブラにもショーツにもついていて、可愛い。私が小さく呟くと、優奈はニコッと笑って「じゃ、これにしよう」と言ってレジに持っていってしまった。

「でも、何かかわいすぎるって言うか……私には合わないんじゃないかな?」
「そんなことないって! 可愛い上等! こんなに可愛いブラ付けてたら女としての気分もあがるでしょ? とりあえず試着しておいで」

 私は再びフィッティングルームに押し込まれる。ボロボロになっている下着を外して、新品のブラを身に着ける。鏡に映る私は背筋がシャンと伸びて、少しだけ表所が明るく見えた……確かに、優奈の言う通り、少しだけ高揚したような気分になってくる。たった一つの変化なのに、すごい。

『新しい下着が欲しい? お前、どこの男に媚び売ろうとしてんだよ』

 頭の中で、もはや呪いになっている藤野さんの言葉が蘇る。

 なにか自分のモノを一つ買うのにも、藤野さんの許可が必要だった。もちろん素直に買うことを許してくれることなんてごくまれ。下着なんて買おうものなら、一週間くらいこうやって罵倒され続けることになる。だから、私はいつしか買い物を諦めてしまっていた。

(なんか、自由って感じだなぁ)

 こんなに可愛いブラを付けていても、バカにされることなんてない。私は本当に、あの男の元から離れることができたんだって実感できた。私は服を着なおしてフィッティングルームを出る。

「どうだった?」
「サイズも問題ないみたい」
「じゃ、これにする?」
「……うん」

 優奈はそれを私の手から奪い取り、レジに置いて財布を開いた。

「いいよ、優奈。自分で買えるから」
「いいって! これくらいプレゼントさせてってば。……あ、例の人に見せちゃえば? 関係変わるかもよ?」
「そんな機会ないから!」
「あはは! ま、穂花には色仕掛けなんて無理よねぇ」

 MINATO君が私の下着姿を見るなんて……一体どんなシチュエーションになったらそうなるのだろう?

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