まんぷくっ! -となりのアイドル(と)ごはん-

indi子/金色魚々子

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3 「(自慢したいから、認めさせたいから)お弁当、作って!」(湊人視点)

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***

 ダンスレッスンの日、穂花サンが朝、俺の部屋を訪ねてきた。彼女がこっちの部屋に来るのは初めてかもしれない。玄関のドアを開けると、紙袋を持った穂花サンがちんまりと立っていた。

「これ、お弁当……」
「おぉ! ありがとう!」

 ずっしりと重たい。紙袋を覗くと、紺色の風呂敷で包まれている弁当らしきものが入っている。これだと中身が何か見えない、昼休憩が楽しみになってきた。

「あの、美味しくなかったら捨てて構わないから……お弁当箱、使い捨ての容器だし」
「大丈夫だって! みんな絶対気に入るから!」

 俺は胸を張るが、穂花サンはなんだか不安そうな様子だった。そそくさとドアを閉め、自分の部屋に帰っていく。どうしてあそこまで自分の料理に対して自信がないのだろう? あんなに美味しいのに。俺だっていつも美味しいって言っているのに、それが彼女の胸の奥に届いていないようだった。

 スタジオに着くと、もう航太も洋輔も着いていた。航太は俺を見るなり「遅い」と文句を言うので、俺は「道が混んでたんだよ」と言い返す。洋輔は「まあまあ」と航太をなだめている。

「二人は何してたの?」
「今度のアイドルジャパンフェスのセットリスト考えてたんだよ」
「そろそろ練習始めた方がいいだろ?」

 二人は俺たちの曲名が書いてある付箋を、あーだこーだ言いながら並べ替えたり、入れ替えたりしている。俺たちの持ち時間は30分程度。MCを含めると4~5曲ほどしかできない。今プロモーションを始めている新曲と、俺たちの曲の中じゃ一番広く知られているデビュー曲は必ず入れていきたい。それ以外の2,3曲をなると、難しい。俺も荷物をスタジオの端に置いて話し合いに加わる。洋輔は「フェスだし、ノリノリなやつだけにしたい」と言い、航太は「俺たちの違う一面を知ってもらうためにもバラードを入れたい」と言い、今度はこっちがもめそうだ。二人の間に割って入る。

「湊人くんはコレやりたいってある?」
「んー……そう言われると、そこまで希望はないんだけど……」

 セットリストを考えるのはほとんど航太で、俺は最後に「うん、いいんじゃない?」と言うだけ。

「エールソングあってもいいかも」

 ぽつりとそう呟くと、航太が「ふーん」と声を漏らした。

「……湊人がそうやって提案するの、珍しいな」
「まあ、たまにはいいかなって。いつも航太ばっかりに考えさせてるし」
「俺の負担を考えるなら、遅刻するのをやめて欲しいけどな」
「あはは! ほんとにね!」

 大笑いする洋輔を軽く小突く。航太は4番目にエールソングを入れる。これは俺たちのサードシングルで、ちょうど卒業シーズンに発表した曲。うつむいている誰かに届けたい応援歌だ。今、俺の中でその『誰か』は『穂花サン』に姿を変えていた。

「フェスって、もうチケット売り切れてるんだっけ?」
「あー、そうらしいよ」
「ふーん」

 それなら、穂花サンは見に来ることはできないかな。見て欲しかったけれど、ないものは仕方ない。
 ある程度のセットリストが出来て、流れを確認しては曲順を変えたり曲ごとを変えたり。そんな事をしている内にすっかり汗だくになり、昼の時間になった。

「あー。今日もまず弁当かー」

 航太が珍しくぼやいた。

「そのことなんですが、本日は特別なものを用意しております」

 俺は二人の前で仁王立ちになり、弁当が入っている紙袋を高く掲げた。マネージャーに頼んで今日の分の弁当はキャンセルしてもらっておいた。

「なにそれ」
「弁当」
「……まさか、湊人が作ったんじゃないだろうな?」
「そんな訳あるかよ、見ろよこの俺の傷一つない綺麗な手を」

 洋輔がまじまじと俺の手を見た後に「わかった!」と声をあげる。

「隣の家の人でしょ!」
「正解! お前らの分も作ってもらったんだ」

 風呂敷を広げると、弁当が3つ姿を現す。それぞれ『KOTAくん』『YOSUKEくん』と書いてある付箋が貼ってあり、その通りそれぞれに渡した。航太はとても怪訝そうな顔で俺と弁当を交互に見ていた。

「……毒とか入ってないだろうな」
「大丈夫だって」

 俺も初めて穂花サンの料理を食べる前、同じことを言った。今となってはとても懐かしい。航太はまだ信じ切っていないようなので、俺が先に蓋を開ける。半分はご飯、もう半分にはレンコンのはさみ揚げ、アスパラの肉巻き、ミニトマト、きんぴらごぼうにほうれん草の胡麻和え、卵焼きが入っていた。見ただけでうまそう。

「いただきまーす」

 ここに穂花サンはいないけれど、彼女に届くようにと大きな声で言う。卵焼きをパクリと食べると、口にほのかな甘みが広がった。俺がそうやって食べるのを見た二人も同じように弁当を開ける。

「……いただきます」

 航太の声がとても小さい。まだ警戒しているみたいだ。しかし、アスパラの肉巻きから食べ始めるとそれが次第に緩んでいくのが分かった。少しだけ、口角が上がったのが見えたから。
 洋輔を見ると、もう半分くらいなくなっていた。こいつ、食べるの早いんだよな。
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