まんぷくっ! -となりのアイドル(と)ごはん-

indi子/金色魚々子

文字の大きさ
19 / 60
3 「(自慢したいから、認めさせたいから)お弁当、作って!」(湊人視点)

― 14 ―


***

 ダンスレッスンの日、穂花サンが朝、俺の部屋を訪ねてきた。彼女がこっちの部屋に来るのは初めてかもしれない。玄関のドアを開けると、紙袋を持った穂花サンがちんまりと立っていた。

「これ、お弁当……」
「おぉ! ありがとう!」

 ずっしりと重たい。紙袋を覗くと、紺色の風呂敷で包まれている弁当らしきものが入っている。これだと中身が何か見えない、昼休憩が楽しみになってきた。

「あの、美味しくなかったら捨てて構わないから……お弁当箱、使い捨ての容器だし」
「大丈夫だって! みんな絶対気に入るから!」

 俺は胸を張るが、穂花サンはなんだか不安そうな様子だった。そそくさとドアを閉め、自分の部屋に帰っていく。どうしてあそこまで自分の料理に対して自信がないのだろう? あんなに美味しいのに。俺だっていつも美味しいって言っているのに、それが彼女の胸の奥に届いていないようだった。

 スタジオに着くと、もう航太も洋輔も着いていた。航太は俺を見るなり「遅い」と文句を言うので、俺は「道が混んでたんだよ」と言い返す。洋輔は「まあまあ」と航太をなだめている。

「二人は何してたの?」
「今度のアイドルジャパンフェスのセットリスト考えてたんだよ」
「そろそろ練習始めた方がいいだろ?」

 二人は俺たちの曲名が書いてある付箋を、あーだこーだ言いながら並べ替えたり、入れ替えたりしている。俺たちの持ち時間は30分程度。MCを含めると4~5曲ほどしかできない。今プロモーションを始めている新曲と、俺たちの曲の中じゃ一番広く知られているデビュー曲は必ず入れていきたい。それ以外の2,3曲をなると、難しい。俺も荷物をスタジオの端に置いて話し合いに加わる。洋輔は「フェスだし、ノリノリなやつだけにしたい」と言い、航太は「俺たちの違う一面を知ってもらうためにもバラードを入れたい」と言い、今度はこっちがもめそうだ。二人の間に割って入る。

「湊人くんはコレやりたいってある?」
「んー……そう言われると、そこまで希望はないんだけど……」

 セットリストを考えるのはほとんど航太で、俺は最後に「うん、いいんじゃない?」と言うだけ。

「エールソングあってもいいかも」

 ぽつりとそう呟くと、航太が「ふーん」と声を漏らした。

「……湊人がそうやって提案するの、珍しいな」
「まあ、たまにはいいかなって。いつも航太ばっかりに考えさせてるし」
「俺の負担を考えるなら、遅刻するのをやめて欲しいけどな」
「あはは! ほんとにね!」

 大笑いする洋輔を軽く小突く。航太は4番目にエールソングを入れる。これは俺たちのサードシングルで、ちょうど卒業シーズンに発表した曲。うつむいている誰かに届けたい応援歌だ。今、俺の中でその『誰か』は『穂花サン』に姿を変えていた。

「フェスって、もうチケット売り切れてるんだっけ?」
「あー、そうらしいよ」
「ふーん」

 それなら、穂花サンは見に来ることはできないかな。見て欲しかったけれど、ないものは仕方ない。
 ある程度のセットリストが出来て、流れを確認しては曲順を変えたり曲ごとを変えたり。そんな事をしている内にすっかり汗だくになり、昼の時間になった。

「あー。今日もまず弁当かー」

 航太が珍しくぼやいた。

「そのことなんですが、本日は特別なものを用意しております」

 俺は二人の前で仁王立ちになり、弁当が入っている紙袋を高く掲げた。マネージャーに頼んで今日の分の弁当はキャンセルしてもらっておいた。

「なにそれ」
「弁当」
「……まさか、湊人が作ったんじゃないだろうな?」
「そんな訳あるかよ、見ろよこの俺の傷一つない綺麗な手を」

 洋輔がまじまじと俺の手を見た後に「わかった!」と声をあげる。

「隣の家の人でしょ!」
「正解! お前らの分も作ってもらったんだ」

 風呂敷を広げると、弁当が3つ姿を現す。それぞれ『KOTAくん』『YOSUKEくん』と書いてある付箋が貼ってあり、その通りそれぞれに渡した。航太はとても怪訝そうな顔で俺と弁当を交互に見ていた。

「……毒とか入ってないだろうな」
「大丈夫だって」

 俺も初めて穂花サンの料理を食べる前、同じことを言った。今となってはとても懐かしい。航太はまだ信じ切っていないようなので、俺が先に蓋を開ける。半分はご飯、もう半分にはレンコンのはさみ揚げ、アスパラの肉巻き、ミニトマト、きんぴらごぼうにほうれん草の胡麻和え、卵焼きが入っていた。見ただけでうまそう。

「いただきまーす」

 ここに穂花サンはいないけれど、彼女に届くようにと大きな声で言う。卵焼きをパクリと食べると、口にほのかな甘みが広がった。俺がそうやって食べるのを見た二人も同じように弁当を開ける。

「……いただきます」

 航太の声がとても小さい。まだ警戒しているみたいだ。しかし、アスパラの肉巻きから食べ始めるとそれが次第に緩んでいくのが分かった。少しだけ、口角が上がったのが見えたから。
 洋輔を見ると、もう半分くらいなくなっていた。こいつ、食べるの早いんだよな。
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。