まんぷくっ! -となりのアイドル(と)ごはん-

indi子/金色魚々子

文字の大きさ
21 / 60
3 「(自慢したいから、認めさせたいから)お弁当、作って!」(湊人視点)

― 16 ―

 大きな声を出すと、穂花サンは文字通り飛び上がって驚いていた。胸を抑え「あわわ」と唇だけじゃなく体中を震わせる。想像していた以上に怖がらせてしまったみたいだった。

「ご、ごめん! ちょっと調子に乗り過ぎた」
「あ、わ、私の方こそ、ごめん、大丈夫だから」

 穂花サンは深呼吸を繰り返す。そのうちに震えていた体は落ち着きを取り戻していた。俺は穂花サンのペースに合わせるようにゆっくりと歩き始める。

「今日、ありがとう、弁当」
「う、うん、大丈夫だった? 変な味、しなかった?」
「大丈夫! みんな旨いって食ってたよ」

 そう言うと、穂花サンは心底安心したように顔を綻ばせた。

「良かったぁ」
「……あのさ、もしかして卵焼きの味、航太と俺たちで変えたりした?」

 尋ねると、穂花サンは頷く。

「KOTA君、雑誌のインタビューで甘いものが苦手って言ってたから……」
「あと、洋輔もレンコンのはさみ揚げ食べたかったって。ラジオ聞いてたの?」
「ううん。それは、ネットで調べたら出てきたの」

 穂花サンは「みんなの口に合って良かった」と小さく漏らす。

「うん、大丈夫だったよ。てか、穂花サンの料理普通においしいし。旦那も何で変な事言ってたんだろうね? マズいなんて、さ……」

 俺は、普通に雑談をしていたつもりだった。2,3歩進んでいくと、隣にいたはずの穂花サンの姿が見えなくなったことに気づく。振り返ると、穂花サンは真っ暗闇の中立ち尽くしていた。

「……穂花サン?」

 近づくと、彼女の体が小刻みに震えていることに気づく。その肩に触れようとすると、穂花サンは顔をあげて「イヤッ!」と小さく叫び、その身を捩った。彼女の顔は血の気を引いていて、ピンク色だった唇も、真っ青を通り越して真っ白になっていく。

「ごめん、穂花サン、ごめん」

 穂花サンはふらつき、塀にもたれかかっていく。体からはずるずると力が抜けて行き、いつしか座り込んでしまった。恐る恐るまた肩に触れると、今度は拒絶されることはなかった。手のひらに彼女の震えが伝わってくる。

「ごめん、俺が変な事言ったせいだ。大丈夫、大丈夫だから」

 せわしない浅い呼吸を繰り返す穂花サンを落ち着かせるために、俺は背中を擦った。時計の秒針よりも早く心臓が脈打っているのが分かった。
 俺が「ごめん」と「大丈夫」を何度も繰り返しているうちに、次第に彼女は落ち着きを取り戻していった。とても小さな声で「ごめんなさい」と言っているのが聞こえてきた。

「どうして穂花サンが謝るのさ? 悪いのは俺だろ、変な事言った」
「……でも、湊人君に迷惑かけた」
「そんなのどうでもいいよ。……アンタはさ、もっと自信もっていいんだよ。航太も洋輔もおいしいって言ってたのは嘘じゃないし、少なくとも俺はアンタの作るご飯好きだよ」

 穂花サンはゆっくりと顔をあげた。そして、ぎこちなく笑みを作る。けれど、その表情に俺は苛立ちを覚える。無理やり顔に貼りつけたような、感情の伴っていない笑い方。そんな顔、俺は何度も見ていた。テキトウな事を言って番組プロデューサーが俺の歌を褒める時、手鏡を見てまつエクを気にしながら「湊人君ってセックスうまいよね」と女が言う時、皆、同じ表情をしている。反吐が出るほど嫌いだ。

「……この前俺ら新曲出したじゃん」

 気づいたら、座り込んだまま俺は喋り出していた。穂花サンは不思議そうな顔で俺を見上げる。

「そのダンスも全部航太が考えるんだけど、最初に作ったやつって絶対洋輔が『ダサい』って言うんだよね。それでいっつも航太がむくれて、俺が機嫌取るの」

 穂花サンを見ると、きょとんとした顔をしていた。

「……そういえば、この前洋輔がさ、靴下左右逆で来たことあって。右足は黒いのに、左脚はショッキングピンクなの。履いてるときに気づけよって航太が言っててさ」
「……ふふっ」

 あぁ、ようやっと穂花サンが【ちゃんと】笑った。作り上げた笑みじゃなくて、心からの笑顔。柔らかく微笑むその顔を見て、ようやっと胸を撫でおろす。けれど、俺の中にはモヤモヤとしていったものが広がっていくのが分かった。これは【怒り】だ。穂花サンから笑顔を奪っていった彼女の旦那への怒り。ふつふつとそれがこみ上げているのが彼女にバレないように、俺はそれからしばらく、ずっとそんな話ばかりしていた。

 穂花サンが目の前で笑っている。どうでもいい話ばっかりしているのに、穂花サンは楽しそうにしてくれる。それだけの事なのに、なぜか荒れていたはずの俺の心が少しずつ凪いできているのが分かった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。