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3 「(自慢したいから、認めさせたいから)お弁当、作って!」(湊人視点)
― 16 ―
大きな声を出すと、穂花サンは文字通り飛び上がって驚いていた。胸を抑え「あわわ」と唇だけじゃなく体中を震わせる。想像していた以上に怖がらせてしまったみたいだった。
「ご、ごめん! ちょっと調子に乗り過ぎた」
「あ、わ、私の方こそ、ごめん、大丈夫だから」
穂花サンは深呼吸を繰り返す。そのうちに震えていた体は落ち着きを取り戻していた。俺は穂花サンのペースに合わせるようにゆっくりと歩き始める。
「今日、ありがとう、弁当」
「う、うん、大丈夫だった? 変な味、しなかった?」
「大丈夫! みんな旨いって食ってたよ」
そう言うと、穂花サンは心底安心したように顔を綻ばせた。
「良かったぁ」
「……あのさ、もしかして卵焼きの味、航太と俺たちで変えたりした?」
尋ねると、穂花サンは頷く。
「KOTA君、雑誌のインタビューで甘いものが苦手って言ってたから……」
「あと、洋輔もレンコンのはさみ揚げ食べたかったって。ラジオ聞いてたの?」
「ううん。それは、ネットで調べたら出てきたの」
穂花サンは「みんなの口に合って良かった」と小さく漏らす。
「うん、大丈夫だったよ。てか、穂花サンの料理普通においしいし。旦那も何で変な事言ってたんだろうね? マズいなんて、さ……」
俺は、普通に雑談をしていたつもりだった。2,3歩進んでいくと、隣にいたはずの穂花サンの姿が見えなくなったことに気づく。振り返ると、穂花サンは真っ暗闇の中立ち尽くしていた。
「……穂花サン?」
近づくと、彼女の体が小刻みに震えていることに気づく。その肩に触れようとすると、穂花サンは顔をあげて「イヤッ!」と小さく叫び、その身を捩った。彼女の顔は血の気を引いていて、ピンク色だった唇も、真っ青を通り越して真っ白になっていく。
「ごめん、穂花サン、ごめん」
穂花サンはふらつき、塀にもたれかかっていく。体からはずるずると力が抜けて行き、いつしか座り込んでしまった。恐る恐るまた肩に触れると、今度は拒絶されることはなかった。手のひらに彼女の震えが伝わってくる。
「ごめん、俺が変な事言ったせいだ。大丈夫、大丈夫だから」
せわしない浅い呼吸を繰り返す穂花サンを落ち着かせるために、俺は背中を擦った。時計の秒針よりも早く心臓が脈打っているのが分かった。
俺が「ごめん」と「大丈夫」を何度も繰り返しているうちに、次第に彼女は落ち着きを取り戻していった。とても小さな声で「ごめんなさい」と言っているのが聞こえてきた。
「どうして穂花サンが謝るのさ? 悪いのは俺だろ、変な事言った」
「……でも、湊人君に迷惑かけた」
「そんなのどうでもいいよ。……アンタはさ、もっと自信もっていいんだよ。航太も洋輔もおいしいって言ってたのは嘘じゃないし、少なくとも俺はアンタの作るご飯好きだよ」
穂花サンはゆっくりと顔をあげた。そして、ぎこちなく笑みを作る。けれど、その表情に俺は苛立ちを覚える。無理やり顔に貼りつけたような、感情の伴っていない笑い方。そんな顔、俺は何度も見ていた。テキトウな事を言って番組プロデューサーが俺の歌を褒める時、手鏡を見てまつエクを気にしながら「湊人君ってセックスうまいよね」と女が言う時、皆、同じ表情をしている。反吐が出るほど嫌いだ。
「……この前俺ら新曲出したじゃん」
気づいたら、座り込んだまま俺は喋り出していた。穂花サンは不思議そうな顔で俺を見上げる。
「そのダンスも全部航太が考えるんだけど、最初に作ったやつって絶対洋輔が『ダサい』って言うんだよね。それでいっつも航太がむくれて、俺が機嫌取るの」
穂花サンを見ると、きょとんとした顔をしていた。
「……そういえば、この前洋輔がさ、靴下左右逆で来たことあって。右足は黒いのに、左脚はショッキングピンクなの。履いてるときに気づけよって航太が言っててさ」
「……ふふっ」
あぁ、ようやっと穂花サンが【ちゃんと】笑った。作り上げた笑みじゃなくて、心からの笑顔。柔らかく微笑むその顔を見て、ようやっと胸を撫でおろす。けれど、俺の中にはモヤモヤとしていったものが広がっていくのが分かった。これは【怒り】だ。穂花サンから笑顔を奪っていった彼女の旦那への怒り。ふつふつとそれがこみ上げているのが彼女にバレないように、俺はそれからしばらく、ずっとそんな話ばかりしていた。
穂花サンが目の前で笑っている。どうでもいい話ばっかりしているのに、穂花サンは楽しそうにしてくれる。それだけの事なのに、なぜか荒れていたはずの俺の心が少しずつ凪いできているのが分かった。
「ご、ごめん! ちょっと調子に乗り過ぎた」
「あ、わ、私の方こそ、ごめん、大丈夫だから」
穂花サンは深呼吸を繰り返す。そのうちに震えていた体は落ち着きを取り戻していた。俺は穂花サンのペースに合わせるようにゆっくりと歩き始める。
「今日、ありがとう、弁当」
「う、うん、大丈夫だった? 変な味、しなかった?」
「大丈夫! みんな旨いって食ってたよ」
そう言うと、穂花サンは心底安心したように顔を綻ばせた。
「良かったぁ」
「……あのさ、もしかして卵焼きの味、航太と俺たちで変えたりした?」
尋ねると、穂花サンは頷く。
「KOTA君、雑誌のインタビューで甘いものが苦手って言ってたから……」
「あと、洋輔もレンコンのはさみ揚げ食べたかったって。ラジオ聞いてたの?」
「ううん。それは、ネットで調べたら出てきたの」
穂花サンは「みんなの口に合って良かった」と小さく漏らす。
「うん、大丈夫だったよ。てか、穂花サンの料理普通においしいし。旦那も何で変な事言ってたんだろうね? マズいなんて、さ……」
俺は、普通に雑談をしていたつもりだった。2,3歩進んでいくと、隣にいたはずの穂花サンの姿が見えなくなったことに気づく。振り返ると、穂花サンは真っ暗闇の中立ち尽くしていた。
「……穂花サン?」
近づくと、彼女の体が小刻みに震えていることに気づく。その肩に触れようとすると、穂花サンは顔をあげて「イヤッ!」と小さく叫び、その身を捩った。彼女の顔は血の気を引いていて、ピンク色だった唇も、真っ青を通り越して真っ白になっていく。
「ごめん、穂花サン、ごめん」
穂花サンはふらつき、塀にもたれかかっていく。体からはずるずると力が抜けて行き、いつしか座り込んでしまった。恐る恐るまた肩に触れると、今度は拒絶されることはなかった。手のひらに彼女の震えが伝わってくる。
「ごめん、俺が変な事言ったせいだ。大丈夫、大丈夫だから」
せわしない浅い呼吸を繰り返す穂花サンを落ち着かせるために、俺は背中を擦った。時計の秒針よりも早く心臓が脈打っているのが分かった。
俺が「ごめん」と「大丈夫」を何度も繰り返しているうちに、次第に彼女は落ち着きを取り戻していった。とても小さな声で「ごめんなさい」と言っているのが聞こえてきた。
「どうして穂花サンが謝るのさ? 悪いのは俺だろ、変な事言った」
「……でも、湊人君に迷惑かけた」
「そんなのどうでもいいよ。……アンタはさ、もっと自信もっていいんだよ。航太も洋輔もおいしいって言ってたのは嘘じゃないし、少なくとも俺はアンタの作るご飯好きだよ」
穂花サンはゆっくりと顔をあげた。そして、ぎこちなく笑みを作る。けれど、その表情に俺は苛立ちを覚える。無理やり顔に貼りつけたような、感情の伴っていない笑い方。そんな顔、俺は何度も見ていた。テキトウな事を言って番組プロデューサーが俺の歌を褒める時、手鏡を見てまつエクを気にしながら「湊人君ってセックスうまいよね」と女が言う時、皆、同じ表情をしている。反吐が出るほど嫌いだ。
「……この前俺ら新曲出したじゃん」
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「……そういえば、この前洋輔がさ、靴下左右逆で来たことあって。右足は黒いのに、左脚はショッキングピンクなの。履いてるときに気づけよって航太が言っててさ」
「……ふふっ」
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