まんぷくっ! -となりのアイドル(と)ごはん-

indi子/金色魚々子

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5 冬(と二人)のはじまり

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「~~っ、へっくしゅん!」

 くしゃみと同時に目が覚めた。布団をかけていたはずなのに体が少し冷えていて、外からは木枯らしが吹く音が聞こえてきた。カーテンを開けていなくても、冬がすぐそこまで近づいてきているのがわかる。

「そろそろ布団もなんとかしないと」

 テレビの天気予報を見ると、寒気が日本全国を覆い、山間部ではこれから雪が降るらしい。気温も今日を皮切りにどんどん下がっていって、本格的な冬が始まると告げている。私は鼻をすすって、ため息をついた。

 私の家にあるのは夏用の布団。冬用の布団はいずれ買おうと思っていたけれど、いい加減用意しないとこのまま風邪をひいてしまう。幸いなことに、今日はバイトも休み。思い立ったが吉日、このまま買いに行こうかな。
 軽く朝食を取り、簡単に化粧をしてバッグを持ち、家の外に出る。それと同時に、隣のドアも開いた。

「あっ!」
「あ……」

 湊人君がスウェットの上下と厚手のカーディガンというラフな格好で出てきた。キャップとサングラスをかけているから、彼もこれからお出かけなのかな?

「穂花サン、かわいい格好してどこ行くの? デート?」
「へ?」

 ジーンズにトレンチコート、ショルダーバッグというシンプルな格好なのに、そんな風に褒められると顔に熱が集まってしまう。

「ち、違うよ、買い物」
「買い物? どこに?」

 ここから数駅先に新しくできたショッピングモールに格安家具のチェーン店があるって、この前キラモニッ☆でやっていた。そこに行ってみるつもり。そう言うと、彼は目を輝かせた。

「俺も行きたい!」
「えっ? し、仕事は?」
「今日オフ!」
「でも、予定があって外に出たんじゃ……」
「あー、コンビニ行こうと思っただけ。気にしなくていいよ、一日暇だから」
「それに、湊人君がそんなところに行ったら目立っちゃうんじゃ……」

 アイドルがショッピングモールになんて現れたら、人だかりができてパニックが起きてしまうに違いない。やめておいた方がいいよと言っても、湊人君は笑いながら「大丈夫だって」と繰り返す。

「俺も行く用意するからちょっと待っててもらっていい?」

 湊人君が自分の部屋のドアを開け、私もそこに滑るように入り込む。奥で待ってていいよなんて優しいことを言ってくれたけれど、それは恐れ多いので私は玄関で立ち尽くした。洗面所からは何やら賑やかな音が聞こえてくる。

 待つこと10分。

「ごめん、お待たせ!」

 姿を見せた湊人君は、違う人になっていた。私が驚きのあまり口をあんぐりと開けると、湊人君は首を傾げた。

「え? どこか変?」
「変っていうか……」

 彼のトレードマークになっていた金髪は真っ黒のヘアウィッグで隠され、それとは対照的に目には明るい茶色のカラコンが入っているみたいだ。ゆったりとしたジャンパーに黒いすっきりとしたパンツが、背の高い彼には良く似合っている。

「これならいいでしょ?」

 彼はさらにニット帽を被り、ウレタンのマスクで口元を隠す。確かに、これだとパッと見るだけでは、【Oceans】の【MINATO】とは気づかれまい。それくらいの変身っぷりだった

「よし! 行こう!」

 湊人君に引っ張られるまま、私たちは歩き出していた。

 湊人君とお出かけなんて、なんだか信じられない。電車に揺られながら、私の正面に立つ彼をじっと見つめる。変身はうまくいったけれど、やっぱり隠しきれないキラキラしたオーラ。不安になった私がちらちらと周囲を見回すと、湊人君は「大丈夫だって」と繰り返す。

「この格好で何度か出かけたけど、ばれたことなんて一度もないよ」
「でも……」
「木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中って言うでしょ?」

 そうかな? と言おうとしたとき電車がぐらんっと大きく揺れた。バランスを崩した私の体は転びそうになるが、間一髪のところで持ちこたえた。

「大丈夫?」
「え、あ、うん。大丈夫……」
 
 湊人君が私の腕をぎゅっと掴んでいた。もう大丈夫だよ、と告げると怪訝そうに私を見る。

「危ないから、俺の服掴んでなよ」
「え?」
「じゃないと、今度は転ぶかもよ」

 湊人君は「ほら」と促す。私がおずおずとジャンパーの端っこを摘まむと、今度は深くため息をつく。

「そうじゃなくってさぁ」
「ご、ごめんなさい」
「いや! 別に怒ってるわけじゃ……ほら、しっかり掴んで」

 私の手を取り、彼は自身の腕を掴ませた。私が驚いていると、湊人君はしっかりと頷いている。

「こっちの方が自然かな?」

 ジャンパー越しに伝わってくる体温で気が気でないのに、彼は涼しい顔をしている。私ばっかり彼の事を意識しているみたいで、何だか恥ずかしい。

(ち、違うことを考えよう!)

 彼から意識を反らすために、私は頭の中でカレーを作り始めた。ルーを入れる段階までたどり着いた時、目的の駅に到着する。降りていく人たちは、みんな同じショッピングモールに行くみたいだ。

「じゃ、あの人たちについて行けばいいね。行こう」
「うん」

 私は彼から手を離す。名残惜しさと、恐れ多さ。比較すると、後者の方が大きかった。
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