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5 冬(と二人)のはじまり
― 23 ―
結構歩いたから休憩をしようと言ったのは湊人君だった。私たちはフードコートにあるジューススタンドに向かう。有名なお店らしく、列ができていた。並びながらメニューを見てそれぞれ何を注文するか決める。湊人君はクラフトコーラ、私はフルーツティーを頼むことにした。私の分まで会計をしようとする彼を必死になって止めて、ようやっとドリンクを受け取ったとき、湊人君は周りを見渡しながらこう言った。
「座るところ空いてないな」
「そうだね……」
フードコートは混み合っていて、座るところがない。湊人君は「あ!」となにが思い出したかのように声を上げる。
「そういえばココ、展望台あるからそっちで飲まない?」
「う、うん!」
エスカレーターに乗り、最上階にまで登っていく。湊人君の言った通り、遠くまで見渡すことのできる展望台があった。今日は寒いから外のデッキにでている人は少ない。窓から見てもとてもいい眺めが広がっていて、それを見ている人たちが多かった。私たちは空いていたベンチに座り、飲み物を飲みながら同じように景色を眺める。フルーツの甘味と紅茶の華やかな香りが混じり合い、とても美味しい。湊人君は相当喉が渇いていたのか、あっという間に飲み干してしまっていた。
「美味しかった? クラフトコーラだっけ?」
「うん。初めて飲んだけど旨かったよ。スパイシーで。そうだ、今度穂花サン作ってよ」
はにかむように笑い、湊人君は私を見る。
「いや、さすがにコーラは作れないんじゃないかな?」
「最近個人でもコーラ作ってる人いるらしいよ」
「へぇー」
私はストローに口をつける。フルーツティーの方がまだ気軽に作ることができそうだな。
「それ、美味しい?」
「う、うん」
「……ふーん。ちょっとちょうだい」
「え? あっ」
湊人君が私の手をカップごと掴み、自らの頭を近づけた。赤いストローは彼の唇に吸い込まれていく。私は呆気にとられ、彼の事を見ている他なかった。
「あ、おいしい。これでもよかったかも」
「……」
「穂花サン?」
「あ、あの、その……」
私の視線がストローと彼の唇、交互に動く。それを見て彼も気づいてくれたらしい。頬がピンク色に染まっていく。
「ご、ごめん!」
ふっと顔を背ける湊人君の耳まで赤くなっていく。なんで彼がそこまで照れてしまうのだろう?
「女の子といっぱい遊んでるのに……間接キスでそんなに動揺しなくても」
心の声がポロリと溢れ出した。彼はギョッと私を見てから、ため息をつく。
「……あれはあれ、これはこれなんだよ」
「違い、あるの?」
「あるある。大アリ……『アンタと』って言うのがデカい」
「え?」
尻込みしていく彼の言葉がうまく聞き取れなったから聞き返すと、湊人君は再びため息をつき、ポケットからティッシュを取り出した。そして「イヤでしょ?」と言いながら私のストローを拭き取っていった。
「はい! この話はもう終わり! あー、キレイな景色だなぁ」
湊人君の視線が真っ直ぐ前を向く。確かに空が高くて気持ちがいい。私は少し緊張しながら、ストローを自分で上書きする。
「こんな高い所来たの、久しぶりかも」
「俺、この間ロケでスカイツリー行ったよ」
「えー、いいな。私行ったことないの、あそこ」
結婚する前に一度だけ、藤野さんを誘ってみたことがある。けれど彼に『金の無駄』と一蹴されて、それっきり行こうなんて思うことはなかった。
「それなら、今度一緒に行く?」
「え゛っ!?」
思わぬ提案にまるで蛙がつぶれたような声が出る。湊人君は眉をひそめて「そんなにびっくりすることないじゃん」と言う。
「だって、急にそんなこと言われたら驚いちゃうよ」
「……別に、深い意味はないって。たまには今日みたいに出かけるのもいいなって思っただけだし。穂花サンが行きたいところ、全部行ってみようよ」
自由になった記念にさ、と彼は付け加える。1年前の私に教えてあげたい。あなたは今こんなにいい景色を見ながら、ゆっくりとお茶を飲むことだってできる。行きたいところ、どこにでも行ける。その清々しさと言ったら、春の風が吹き抜けていくよりも気持ちいい。その風に乗るように、湊人君は私に優しい言葉をかけてくれる。たとえそれが彼の気まぐれだとしても、私にはこの瞬間さえあれば十分だった。
「それなら、パンダの赤ちゃん、見たいかも」
「お、いいね! 最近生まれた子でしょ? 俺も見たいな」
湊人君の満面の笑みに、私の心が安らぐのを感じていた。少なくとも湊人君は、私の言う事を頭ごなしに否定することは絶対に言わない。こんなに優しい男の人もいるんだ。
***
買い物を終えて、私たちは帰りの電車に乗っていた。行きよりは少し混んでいて、私と湊人君の体は密着しそうなくらい近づいている。
「……晩ご飯、何にしようかな」
私のつぶやきは電車の走行音にかき消されたと思ったけれど、湊人君の耳はすぐさまキャッチする。
「何か温かいもの食べたいよね」
湊人君がそう言う。確かに、夕方になると冷え込みがぐっと増す。
「そうだねー。鍋とか。でもうち鍋できる道具ないし……」
今日買えばよかった。今更になって後悔する。
「うち、あるよ」
「え? なんで!?」
「なんでって……アイツらが置いていった奴、鍋パはなぜかうちでやるんだよね」
「そうなんだ、いいね。みんなで仲良く鍋なんて」
「だからさ、今日うちで鍋しようよ。二人で仲良く」
「……え?」
湊人君はハッと自分で言った言葉に驚き、そして「いや、深い意味はないから」と付け加えた。
「たまにはうちでメシ食うのだっていいかなって思っただけだし」
「あはは。じゃあ、お邪魔しようかな」
帰りにスーパーによって、鍋の材料を買うことにした。
「座るところ空いてないな」
「そうだね……」
フードコートは混み合っていて、座るところがない。湊人君は「あ!」となにが思い出したかのように声を上げる。
「そういえばココ、展望台あるからそっちで飲まない?」
「う、うん!」
エスカレーターに乗り、最上階にまで登っていく。湊人君の言った通り、遠くまで見渡すことのできる展望台があった。今日は寒いから外のデッキにでている人は少ない。窓から見てもとてもいい眺めが広がっていて、それを見ている人たちが多かった。私たちは空いていたベンチに座り、飲み物を飲みながら同じように景色を眺める。フルーツの甘味と紅茶の華やかな香りが混じり合い、とても美味しい。湊人君は相当喉が渇いていたのか、あっという間に飲み干してしまっていた。
「美味しかった? クラフトコーラだっけ?」
「うん。初めて飲んだけど旨かったよ。スパイシーで。そうだ、今度穂花サン作ってよ」
はにかむように笑い、湊人君は私を見る。
「いや、さすがにコーラは作れないんじゃないかな?」
「最近個人でもコーラ作ってる人いるらしいよ」
「へぇー」
私はストローに口をつける。フルーツティーの方がまだ気軽に作ることができそうだな。
「それ、美味しい?」
「う、うん」
「……ふーん。ちょっとちょうだい」
「え? あっ」
湊人君が私の手をカップごと掴み、自らの頭を近づけた。赤いストローは彼の唇に吸い込まれていく。私は呆気にとられ、彼の事を見ている他なかった。
「あ、おいしい。これでもよかったかも」
「……」
「穂花サン?」
「あ、あの、その……」
私の視線がストローと彼の唇、交互に動く。それを見て彼も気づいてくれたらしい。頬がピンク色に染まっていく。
「ご、ごめん!」
ふっと顔を背ける湊人君の耳まで赤くなっていく。なんで彼がそこまで照れてしまうのだろう?
「女の子といっぱい遊んでるのに……間接キスでそんなに動揺しなくても」
心の声がポロリと溢れ出した。彼はギョッと私を見てから、ため息をつく。
「……あれはあれ、これはこれなんだよ」
「違い、あるの?」
「あるある。大アリ……『アンタと』って言うのがデカい」
「え?」
尻込みしていく彼の言葉がうまく聞き取れなったから聞き返すと、湊人君は再びため息をつき、ポケットからティッシュを取り出した。そして「イヤでしょ?」と言いながら私のストローを拭き取っていった。
「はい! この話はもう終わり! あー、キレイな景色だなぁ」
湊人君の視線が真っ直ぐ前を向く。確かに空が高くて気持ちがいい。私は少し緊張しながら、ストローを自分で上書きする。
「こんな高い所来たの、久しぶりかも」
「俺、この間ロケでスカイツリー行ったよ」
「えー、いいな。私行ったことないの、あそこ」
結婚する前に一度だけ、藤野さんを誘ってみたことがある。けれど彼に『金の無駄』と一蹴されて、それっきり行こうなんて思うことはなかった。
「それなら、今度一緒に行く?」
「え゛っ!?」
思わぬ提案にまるで蛙がつぶれたような声が出る。湊人君は眉をひそめて「そんなにびっくりすることないじゃん」と言う。
「だって、急にそんなこと言われたら驚いちゃうよ」
「……別に、深い意味はないって。たまには今日みたいに出かけるのもいいなって思っただけだし。穂花サンが行きたいところ、全部行ってみようよ」
自由になった記念にさ、と彼は付け加える。1年前の私に教えてあげたい。あなたは今こんなにいい景色を見ながら、ゆっくりとお茶を飲むことだってできる。行きたいところ、どこにでも行ける。その清々しさと言ったら、春の風が吹き抜けていくよりも気持ちいい。その風に乗るように、湊人君は私に優しい言葉をかけてくれる。たとえそれが彼の気まぐれだとしても、私にはこの瞬間さえあれば十分だった。
「それなら、パンダの赤ちゃん、見たいかも」
「お、いいね! 最近生まれた子でしょ? 俺も見たいな」
湊人君の満面の笑みに、私の心が安らぐのを感じていた。少なくとも湊人君は、私の言う事を頭ごなしに否定することは絶対に言わない。こんなに優しい男の人もいるんだ。
***
買い物を終えて、私たちは帰りの電車に乗っていた。行きよりは少し混んでいて、私と湊人君の体は密着しそうなくらい近づいている。
「……晩ご飯、何にしようかな」
私のつぶやきは電車の走行音にかき消されたと思ったけれど、湊人君の耳はすぐさまキャッチする。
「何か温かいもの食べたいよね」
湊人君がそう言う。確かに、夕方になると冷え込みがぐっと増す。
「そうだねー。鍋とか。でもうち鍋できる道具ないし……」
今日買えばよかった。今更になって後悔する。
「うち、あるよ」
「え? なんで!?」
「なんでって……アイツらが置いていった奴、鍋パはなぜかうちでやるんだよね」
「そうなんだ、いいね。みんなで仲良く鍋なんて」
「だからさ、今日うちで鍋しようよ。二人で仲良く」
「……え?」
湊人君はハッと自分で言った言葉に驚き、そして「いや、深い意味はないから」と付け加えた。
「たまにはうちでメシ食うのだっていいかなって思っただけだし」
「あはは。じゃあ、お邪魔しようかな」
帰りにスーパーによって、鍋の材料を買うことにした。
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