58 / 60
10 バツイチ女の新しい【恋人】(と書いて、推しのアイドルと読む)
― 46 ―
「それなら、航太君の家にお弁当持って行こうか?」
私がそう提案すると、湊人君はパッと華やかな笑顔を見せる。
「いいの!? 航太喜ぶ……あ、たぶん洋輔も来ると思うんだけど」
「三人分ね、大丈夫だよ」
「やった、ありがと。俺頑張ってくるから」
彼はそう言って、私の頬に可愛らしいキスをしてくれる。
「じゃ、遅くなると起きられないから俺もう寝るわ」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ。穂花サン、勉強頑張ってね」
「……ありがと」
湊人君が寝室に行く。私はそれを見送ってから、本棚に仕舞っていたテキストを取り出した。表紙には「フードコーディネーター資格教本」や「野菜ソムリエへの道」と書かれている。
なにか資格でも取ってみたら? と進めてくれたのは優奈だった。迷っている私の背中を押してくれたのは湊人君。新しい事を始めるなら今がチャンスだよ! と言ってくれて、私はその言葉に頷き、せっかくだし……と思い、料理について一から勉強してみようと決めた。その話をしたら湊人君もとても喜んでくれたし、航太君や洋輔君までも応援してくれるといてくれた。やる気に満ちた私は、こうやって夜な夜な勉強をしている。目標は次の試験に合格すること。
そして、いつかその資格を活かす仕事に就くことが出来たらと考えている。
***
引っ越しをしたから少し遠くなってしまったけれど、本屋でのアルバイトはまだ続けていた。湊人君は「俺が稼いでくるからいいよ」なんて優しい事を言ってくれるけれど、やっぱり自分で働くことは大事だし、それに、ここでの仕事はとても気に入っている。なぜなら……。
「あ! アイドルジャパンの最新号、もう出てるじゃん! Oceans表紙なんだよねぇ~」
そんな楽しそうな声が聞こえてきた。私は聞き耳を立てる。こうやって、たまにやってくるOceansのファンの人の様子を見るのが、仕事中の楽しみになっていた。彼らが表紙になっている雑誌を買って行くファンの表情はみんな嬉しそうで、それを見た私も何だか幸せのおすそ分けを貰ったみたいで嬉しくなってしまう。
「あれ? アンタ、もうOceansのファン辞めるみたいなこと言ってなかった? なんか不倫してたみたいなとき」
「あー、アレ? あれはもう終わった話だって! 去年のクリスマスの時にあった生配信見てない?」
私の心臓がドキリとざわめく。
「ううん。見てない」
「嘘―! アレマジで良かったよ! MINATOが相手の女の人にガチ告白してさぁ……なんか純愛見せられたっていうか、ちょっと感動しちゃったもん」
「へー、すごい事するね、そのアイドル」
「ね、マジでやばいよね。あー、私もあんな風に愛されたいなー。相手の女の人、どんな感じなんだろう? ホノカさんって言うんだけど」
実はここにいるんですよ……なんて声をかけたら、ただの不審者でしかない。私はそそくさとその場から離れてレジについた。Oceansのファンの女の子が雑誌を買って行き、帰っていくのを見送った。楽しそうな姿、湊人君たちに話したらきっと喜ぶだろうな。私はそんな事を考えながら仕事を終え、大急ぎでスーパーに向かう。湊人君と約束したお弁当を三人分、猛スピードで作って、航太君の自宅へ向かった。
インターホンを鳴らして出てきたのは、航太君でも湊人君でもなく、洋輔君だった。
「わーい! 穂花さんだ! お弁当だ!」
「あまり立派なものじゃないけど……」
忙しくても片手で食べられるようにとキノコの炊き込みご飯でおにぎりを作ったのと、から揚げと卵焼き、レンコンとニンジンのきんぴら、小松菜とちくわのあっさり煮。どこにでもありそうなおかずでも、みんな喜んでくれるのでありがたい。
「お腹空いてたんだ、ありがとう穂花さん」
洋輔君はお弁当を受け取り、にっこりと笑ってくれる。部屋の中からは湊人君と航太君が言い争うような声が聞こえてくる。
「音楽性の違いってやつで揉めてるところ」
「それって大丈夫なの?」
「あー、いっつもそうだから大丈夫だよ。最後にはお互いが作った曲を褒め合うんだ、それなら最初から喧嘩なんてしなきゃいいのにね」
ケラケラと笑う洋輔君を見ている限り、心配しなくても大丈夫そうだ。
「あ、ちょっと待って! 渡したいものがあるから」
そう言って洋輔君はリビングに行き、すぐに戻ってきた。手には封筒がある。
「これ、ツアーのチケット」
「え? だってまだ先行予約始まってないよ」
「招待枠ってやつ、いつも湊人君がお世話になってるから、僕と航太君からプレゼントです。二枚入ってるからさ、優奈さんと一緒に来てよ」
「……うん、ありがとう」
「どういたしまして。それじゃ、僕お弁当渡してくるね」
「うん、またね」
洋輔君も「またね」と手を振った。私はドアを閉め、帰路につく。いつか聞ける湊人君が作った曲。それに思いをはせる……これから先、生きてさえいれば楽しい事はたくさんあるに違いない。私の足取りは、一年前には想像できないほど軽かった。
「あ、優奈に教えておかなきゃ」
最近多忙を極める優奈に、チケットを貰った事とコンサートの日付を連絡する。しばらく間を置いてから返事が来た。返事はもちろん「OK」だった。何が何でもスケジュールを空けると、頼もしい一言で短い文章を締めていた。
私がそう提案すると、湊人君はパッと華やかな笑顔を見せる。
「いいの!? 航太喜ぶ……あ、たぶん洋輔も来ると思うんだけど」
「三人分ね、大丈夫だよ」
「やった、ありがと。俺頑張ってくるから」
彼はそう言って、私の頬に可愛らしいキスをしてくれる。
「じゃ、遅くなると起きられないから俺もう寝るわ」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ。穂花サン、勉強頑張ってね」
「……ありがと」
湊人君が寝室に行く。私はそれを見送ってから、本棚に仕舞っていたテキストを取り出した。表紙には「フードコーディネーター資格教本」や「野菜ソムリエへの道」と書かれている。
なにか資格でも取ってみたら? と進めてくれたのは優奈だった。迷っている私の背中を押してくれたのは湊人君。新しい事を始めるなら今がチャンスだよ! と言ってくれて、私はその言葉に頷き、せっかくだし……と思い、料理について一から勉強してみようと決めた。その話をしたら湊人君もとても喜んでくれたし、航太君や洋輔君までも応援してくれるといてくれた。やる気に満ちた私は、こうやって夜な夜な勉強をしている。目標は次の試験に合格すること。
そして、いつかその資格を活かす仕事に就くことが出来たらと考えている。
***
引っ越しをしたから少し遠くなってしまったけれど、本屋でのアルバイトはまだ続けていた。湊人君は「俺が稼いでくるからいいよ」なんて優しい事を言ってくれるけれど、やっぱり自分で働くことは大事だし、それに、ここでの仕事はとても気に入っている。なぜなら……。
「あ! アイドルジャパンの最新号、もう出てるじゃん! Oceans表紙なんだよねぇ~」
そんな楽しそうな声が聞こえてきた。私は聞き耳を立てる。こうやって、たまにやってくるOceansのファンの人の様子を見るのが、仕事中の楽しみになっていた。彼らが表紙になっている雑誌を買って行くファンの表情はみんな嬉しそうで、それを見た私も何だか幸せのおすそ分けを貰ったみたいで嬉しくなってしまう。
「あれ? アンタ、もうOceansのファン辞めるみたいなこと言ってなかった? なんか不倫してたみたいなとき」
「あー、アレ? あれはもう終わった話だって! 去年のクリスマスの時にあった生配信見てない?」
私の心臓がドキリとざわめく。
「ううん。見てない」
「嘘―! アレマジで良かったよ! MINATOが相手の女の人にガチ告白してさぁ……なんか純愛見せられたっていうか、ちょっと感動しちゃったもん」
「へー、すごい事するね、そのアイドル」
「ね、マジでやばいよね。あー、私もあんな風に愛されたいなー。相手の女の人、どんな感じなんだろう? ホノカさんって言うんだけど」
実はここにいるんですよ……なんて声をかけたら、ただの不審者でしかない。私はそそくさとその場から離れてレジについた。Oceansのファンの女の子が雑誌を買って行き、帰っていくのを見送った。楽しそうな姿、湊人君たちに話したらきっと喜ぶだろうな。私はそんな事を考えながら仕事を終え、大急ぎでスーパーに向かう。湊人君と約束したお弁当を三人分、猛スピードで作って、航太君の自宅へ向かった。
インターホンを鳴らして出てきたのは、航太君でも湊人君でもなく、洋輔君だった。
「わーい! 穂花さんだ! お弁当だ!」
「あまり立派なものじゃないけど……」
忙しくても片手で食べられるようにとキノコの炊き込みご飯でおにぎりを作ったのと、から揚げと卵焼き、レンコンとニンジンのきんぴら、小松菜とちくわのあっさり煮。どこにでもありそうなおかずでも、みんな喜んでくれるのでありがたい。
「お腹空いてたんだ、ありがとう穂花さん」
洋輔君はお弁当を受け取り、にっこりと笑ってくれる。部屋の中からは湊人君と航太君が言い争うような声が聞こえてくる。
「音楽性の違いってやつで揉めてるところ」
「それって大丈夫なの?」
「あー、いっつもそうだから大丈夫だよ。最後にはお互いが作った曲を褒め合うんだ、それなら最初から喧嘩なんてしなきゃいいのにね」
ケラケラと笑う洋輔君を見ている限り、心配しなくても大丈夫そうだ。
「あ、ちょっと待って! 渡したいものがあるから」
そう言って洋輔君はリビングに行き、すぐに戻ってきた。手には封筒がある。
「これ、ツアーのチケット」
「え? だってまだ先行予約始まってないよ」
「招待枠ってやつ、いつも湊人君がお世話になってるから、僕と航太君からプレゼントです。二枚入ってるからさ、優奈さんと一緒に来てよ」
「……うん、ありがとう」
「どういたしまして。それじゃ、僕お弁当渡してくるね」
「うん、またね」
洋輔君も「またね」と手を振った。私はドアを閉め、帰路につく。いつか聞ける湊人君が作った曲。それに思いをはせる……これから先、生きてさえいれば楽しい事はたくさんあるに違いない。私の足取りは、一年前には想像できないほど軽かった。
「あ、優奈に教えておかなきゃ」
最近多忙を極める優奈に、チケットを貰った事とコンサートの日付を連絡する。しばらく間を置いてから返事が来た。返事はもちろん「OK」だった。何が何でもスケジュールを空けると、頼もしい一言で短い文章を締めていた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。