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エピローグは、新しい二人 ①
18時に仕事が終わって、私はまっすぐ電車に乗り込む。行き先は、もうガールズバーじゃない。
伯母さんに、もうここでのアルバイト辞めてもいい? と少し尻ごみしながら聞いた時、伯母さんは口の端をあげてニマニマと笑っていた。
「はるちゃん……ひょっとして、彼氏でもできたんじゃない?」
「いや、あの……実は、そうなるんだけど……」
「やっぱりぃ!」
「何でわかったの?」
私が聞くと、伯母さんは胸を大きく張って答えた。
「うちみたいな職場で女の子が辞めるって言い出した時は、大体は周りにバレたか男ができたかのどっちかなのよ」
「そうなんだ」
「例外もあるけどね? で、どんな人なの?」
伯母さんは私にぴったり体を寄せて、じりじりと聞き出そうとする。その勢いに負けて、私はポツポツ答え始めていた。
「職場の上司で……」
「あらやだ、普通に仕事している人?」
「何、その言い方! 伯母さんと言えどもそれはひどいよ!」
「だって、はるちゃんの彼氏って何人か話に聞いてるけど、プー太郎かフリーターのどっちかじゃない? 大した稼ぎもないくせに、この子変な男にばっかり貢いでって……私、結構心配してたのよ!」
「う……」
ぐうの音も出てこない、いくら記憶を遡ってみても、歴代の彼氏で真っ当な職業についている人はいなかった。
「はるちゃんのママもこれで安心ね、結婚するの?」
「どうだろ? わかんないや」
「まあ、付き合いたてみたいだし……ゆっくり考えたらいいんじゃないかしら? そうだ、その人ははるちゃんがこんなお店で働いてたの知ってる人? もし後でばれたら大変じゃない?」
私は頷いた、知ってると言うよりもわたしがここに働いたおかげで、ご主人様……悟志さんとのお付き合いが始まったのだから、馴れ初めはここでしたと大声で叫んでもいいくらいだ。……絶対やらないけれど。
伯母さんは私のそんな様子を見ながら、優しそうに笑いながら私の頭を撫でる。
「今度こそ、ちゃんとやるのよ」
「わかってるよぉ……」
悟志さんのマンションには、ガールズバーで働いていた頃と同じ曜日、毎週金曜日の仕事終わりに必ず寄っている。そして、そのまま二泊お泊まりをして、自分の家に帰る。言うなれば、半同棲状態になっているのだ。
私はカバンから鍵を取り出して、部屋のキーシリンダーに差し込んだ。この鍵も、お付き合いが始まってすぐ彼から貰ったものだ。悟志さんはほんのり?をピンク色に染めながら、私の手を取り手のひらに鍵を置いたのだ。
「これからは、好きな時に来ていいですからね」
と、言葉を添えて。
でも、折角悟志さんの家に行っても彼がいないのはとてもつまらない。
私は静まり返った部屋に入って、リビングとキッチンの電気をつける。冷蔵庫の中身を確認して、持ってきているエプロンを身につけちゃちゃっと晩御飯の支度に入る。悟志さんが帰って来る前に、手早くご飯の用意をするのが、最近の私の金曜日のお勤めだ。
8時近くなった頃、ドアが開く音が聞こえてきた。パタパタと音を立てて駆け寄ると、悟志さんが靴を脱いでいた。
「おかえりなさいっ!」
私が飛びつくと、悟志さんはきゅっと優しく抱きしめ、耳元で「ただいま」と甘い声で囁く。その声を聞くたびに、私は身も心も、とろん、と溶けてしまいそうになる。
「晩御飯、なんですか?」
「トマトとナスのパスタです!」
「ああ、良かった。ナス買ったはいいけど、使い道がなくて困ってたところでした」
悟志さんは、「着替えてきます」と言って寝室に消えていく。私は出来上がったばかりのパスタをお皿に盛り付けて、ダイニングテーブルまで運んだ。
湯気がゆらゆらと立ち上る中、悟志さんはすぐに着替えを終えて戻って来る。キッチリしたスーツ姿でも、ラブホテルの簡易的なバスローブでもなく……ゆったりとした部屋着姿で。そんな気の抜けたスタイルでも、惚れた欲目でとってもカッコよく見えてしまうのだ。
「美味しそう」
「どうぞ、お召し上がりください」
「はい、いただきます」
悟志さんは丁寧にパスタをフォークに巻きつけ、ゆっくりと味わうように噛んでいく。そして、一口食べるたびに「おいしいです」とにっこり笑いながら言うのだ。それがたとえ、微妙に美味しくないときでも必ず……その度に、どうしてこんなに優しくて素敵な人が私と付き合ってくれるのだろう? と不思議に思っていた。
あっという間に晩御飯を食べ終え、使った食器を洗っていると、背後に悟志さんがいるのに気づいた。
「はる、これ」
振り返ると、手に小さな紙袋を持っていることに気づく。「なんですか?」と聞くと、微笑みながら紙袋から中身を取り出した。
中には、ピンク色をしたかわいい『首輪』が入っている。
それを見た私の体は下腹部を中心に、火をつけられたかのように一気に熱くなる。
カレカノの関係になってからも、私たちの間には『ご主人様とペット』という名残が漂ってきた。それが、この首輪である。私たちは今でも時々えっちなことを始めるときはこの首輪を付ける。恋人同士のえっちだけでは物足りない時とか……たまに私が悟志さんをえっちに誘う時も、自らこの首輪を付けていることにしている。そうすると、悟志さんはすぐに気づいてくれるのだ。私が、今とっても『えっちなペット』な気分であるということに。
「今まで使っていたやつ、ずいぶんボロボロになってきたから……今日見つけて買ってきたんです」
「もう……」
私が?をピンク色にそめてもじもじと身体をくねらせると、悟志さんはその首輪を取り出して私の手に持たせた。
「お風呂でたら……ね?」
「はい」
小さく返事をすると、悟志さんは私の前髪をめくって軽くキスを落とす。そして、彼は一足先にお風呂場に向かっていった。
しばらくして私がシャワーを終え、髪の毛を乾かして……あの新しい首輪を付ける。首輪は前まで使っていた赤いものと比べて、少し細い……けれど、結構頑丈な作りだった。私がリビングに向かった時、悟志さんはのんびりと雑誌を読んでいた。私は悟志さんのシャツで身を包み、気づかれないようにそうっと忍び足で近づいていく。
「……はる」
「え? もう気づいちゃったんですか?」
「はるの気配はわかりやすいから……おいで」
悟志さんは私に向かって腕を伸ばす、私は悟志さんの膝に乗り、その広い胸にきゅっと身を寄せた。そんな私を、悟志さんは可愛がるように優しく頭を撫でる。
「ピンクも似合いますね」
「そうですか?」
「とっても可愛いですよ……俺のペットさん」
悟志さんは私の髪をかきあげ、耳をやわやわと食んでいく。その甘ったるい刺激に身をよじると、耳元で息を漏らすように悟志さんは笑った。
伯母さんに、もうここでのアルバイト辞めてもいい? と少し尻ごみしながら聞いた時、伯母さんは口の端をあげてニマニマと笑っていた。
「はるちゃん……ひょっとして、彼氏でもできたんじゃない?」
「いや、あの……実は、そうなるんだけど……」
「やっぱりぃ!」
「何でわかったの?」
私が聞くと、伯母さんは胸を大きく張って答えた。
「うちみたいな職場で女の子が辞めるって言い出した時は、大体は周りにバレたか男ができたかのどっちかなのよ」
「そうなんだ」
「例外もあるけどね? で、どんな人なの?」
伯母さんは私にぴったり体を寄せて、じりじりと聞き出そうとする。その勢いに負けて、私はポツポツ答え始めていた。
「職場の上司で……」
「あらやだ、普通に仕事している人?」
「何、その言い方! 伯母さんと言えどもそれはひどいよ!」
「だって、はるちゃんの彼氏って何人か話に聞いてるけど、プー太郎かフリーターのどっちかじゃない? 大した稼ぎもないくせに、この子変な男にばっかり貢いでって……私、結構心配してたのよ!」
「う……」
ぐうの音も出てこない、いくら記憶を遡ってみても、歴代の彼氏で真っ当な職業についている人はいなかった。
「はるちゃんのママもこれで安心ね、結婚するの?」
「どうだろ? わかんないや」
「まあ、付き合いたてみたいだし……ゆっくり考えたらいいんじゃないかしら? そうだ、その人ははるちゃんがこんなお店で働いてたの知ってる人? もし後でばれたら大変じゃない?」
私は頷いた、知ってると言うよりもわたしがここに働いたおかげで、ご主人様……悟志さんとのお付き合いが始まったのだから、馴れ初めはここでしたと大声で叫んでもいいくらいだ。……絶対やらないけれど。
伯母さんは私のそんな様子を見ながら、優しそうに笑いながら私の頭を撫でる。
「今度こそ、ちゃんとやるのよ」
「わかってるよぉ……」
悟志さんのマンションには、ガールズバーで働いていた頃と同じ曜日、毎週金曜日の仕事終わりに必ず寄っている。そして、そのまま二泊お泊まりをして、自分の家に帰る。言うなれば、半同棲状態になっているのだ。
私はカバンから鍵を取り出して、部屋のキーシリンダーに差し込んだ。この鍵も、お付き合いが始まってすぐ彼から貰ったものだ。悟志さんはほんのり?をピンク色に染めながら、私の手を取り手のひらに鍵を置いたのだ。
「これからは、好きな時に来ていいですからね」
と、言葉を添えて。
でも、折角悟志さんの家に行っても彼がいないのはとてもつまらない。
私は静まり返った部屋に入って、リビングとキッチンの電気をつける。冷蔵庫の中身を確認して、持ってきているエプロンを身につけちゃちゃっと晩御飯の支度に入る。悟志さんが帰って来る前に、手早くご飯の用意をするのが、最近の私の金曜日のお勤めだ。
8時近くなった頃、ドアが開く音が聞こえてきた。パタパタと音を立てて駆け寄ると、悟志さんが靴を脱いでいた。
「おかえりなさいっ!」
私が飛びつくと、悟志さんはきゅっと優しく抱きしめ、耳元で「ただいま」と甘い声で囁く。その声を聞くたびに、私は身も心も、とろん、と溶けてしまいそうになる。
「晩御飯、なんですか?」
「トマトとナスのパスタです!」
「ああ、良かった。ナス買ったはいいけど、使い道がなくて困ってたところでした」
悟志さんは、「着替えてきます」と言って寝室に消えていく。私は出来上がったばかりのパスタをお皿に盛り付けて、ダイニングテーブルまで運んだ。
湯気がゆらゆらと立ち上る中、悟志さんはすぐに着替えを終えて戻って来る。キッチリしたスーツ姿でも、ラブホテルの簡易的なバスローブでもなく……ゆったりとした部屋着姿で。そんな気の抜けたスタイルでも、惚れた欲目でとってもカッコよく見えてしまうのだ。
「美味しそう」
「どうぞ、お召し上がりください」
「はい、いただきます」
悟志さんは丁寧にパスタをフォークに巻きつけ、ゆっくりと味わうように噛んでいく。そして、一口食べるたびに「おいしいです」とにっこり笑いながら言うのだ。それがたとえ、微妙に美味しくないときでも必ず……その度に、どうしてこんなに優しくて素敵な人が私と付き合ってくれるのだろう? と不思議に思っていた。
あっという間に晩御飯を食べ終え、使った食器を洗っていると、背後に悟志さんがいるのに気づいた。
「はる、これ」
振り返ると、手に小さな紙袋を持っていることに気づく。「なんですか?」と聞くと、微笑みながら紙袋から中身を取り出した。
中には、ピンク色をしたかわいい『首輪』が入っている。
それを見た私の体は下腹部を中心に、火をつけられたかのように一気に熱くなる。
カレカノの関係になってからも、私たちの間には『ご主人様とペット』という名残が漂ってきた。それが、この首輪である。私たちは今でも時々えっちなことを始めるときはこの首輪を付ける。恋人同士のえっちだけでは物足りない時とか……たまに私が悟志さんをえっちに誘う時も、自らこの首輪を付けていることにしている。そうすると、悟志さんはすぐに気づいてくれるのだ。私が、今とっても『えっちなペット』な気分であるということに。
「今まで使っていたやつ、ずいぶんボロボロになってきたから……今日見つけて買ってきたんです」
「もう……」
私が?をピンク色にそめてもじもじと身体をくねらせると、悟志さんはその首輪を取り出して私の手に持たせた。
「お風呂でたら……ね?」
「はい」
小さく返事をすると、悟志さんは私の前髪をめくって軽くキスを落とす。そして、彼は一足先にお風呂場に向かっていった。
しばらくして私がシャワーを終え、髪の毛を乾かして……あの新しい首輪を付ける。首輪は前まで使っていた赤いものと比べて、少し細い……けれど、結構頑丈な作りだった。私がリビングに向かった時、悟志さんはのんびりと雑誌を読んでいた。私は悟志さんのシャツで身を包み、気づかれないようにそうっと忍び足で近づいていく。
「……はる」
「え? もう気づいちゃったんですか?」
「はるの気配はわかりやすいから……おいで」
悟志さんは私に向かって腕を伸ばす、私は悟志さんの膝に乗り、その広い胸にきゅっと身を寄せた。そんな私を、悟志さんは可愛がるように優しく頭を撫でる。
「ピンクも似合いますね」
「そうですか?」
「とっても可愛いですよ……俺のペットさん」
悟志さんは私の髪をかきあげ、耳をやわやわと食んでいく。その甘ったるい刺激に身をよじると、耳元で息を漏らすように悟志さんは笑った。
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