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1章 奪う力と与える力
プロローグ
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――奪われるくらいなら、奪うべきだ――
――それが大切なものであれば、あるほどに――
「それでは!続きまして!キーブレス王国第五王女!ピアーチェス・キーブレス様!」
金色の美しい髪を揺らして、1人の少女が前に出た。そして、階段を下りはじめる。
カツン、カツン……
今年で15歳になるその少女は、ウェディングドレスのような純白のドレスを身に纏い、優雅な足取りで祭壇まで歩いて行く。
ピアーチェス・キーブレス。僕の姉さんだ。姉さんは、自慢の金髪をいつものように縦ロールで巻いていて、でも、その神妙な面持ちから、いつもの意地悪な様子は伺えない。きっと彼女も緊張しているのだろう。
ブルンッ。祭壇に姉さんが到着し、姿勢を正すと、その豊満な胸が揺れる。
「おぉ……」
それを見た貴族のオッサンが小さな歓声をあげたのが聞こえてきた。僕の姉さんをそんな目で見るな、穢らわしい。しかし、そんな怒りなんて比較にならないような言葉が続けて聞こえてくる。
「ほぅ、あれが噂の恵まれない王女か」
「見た目だけは良いようだが……この授与式で醜態を見せれば、奴隷落ちもあるかもしれぬな」
「ふふ、生娘のように緊張してるではないか。どうせクズスキルしか授与できないだろうに」
「たしかに、授与される相手も気の毒なことだ」
クスクス。観客席にいる貴族たちの笑い声が聞こえてくる。
黙れ、姉さんをバカにするな。
僕は密かに両手を握りしめ、でも、彼女がこれから成し遂げることに集中することにした。こんな雑音、すぐに掻き消えるだろう。
なぜなら――
「それでは!ギフトの授与を執り行う!クリオ南部、ブーケ子爵が三男、セーレン・ブーケ殿!前へ!」
姉さんがいる祭壇に、反対側から若い男が上がってきた。僕と姉さんよりも年上の若い男だ。メガネをかけた華奢な身体の男で、緑色の長い髪を後ろで結っている。彼がセーレン・ブーケ、これから姉さんにスキルを授与される男だ。セーレンさんがゆっくりと祭壇の上を歩き、静かに姉さんの前にひざまづく。
僕はその様子をギフト授与式会場の2階から手すり越しに眺めていた。
「よし……」
予定通り、セーレンが授与対象になったことを喜ぶ。あとは、姉さんが力を、新しい力を披露するだけだ。
「では!ピアーチェス様!ギフトの授与を!」
「……」
姉さんはゆっくり、ゆっくりと前に進む。セーレンさんの前に。そして、両手を跪いている彼の頭に掲げた。
いつもの意地悪な人が発する声とは思えない。澄んだ声が祭壇から響いてくる。
「我、ピアーチェス・キーブレスは、キーブレス王国の名の下に、汝に祝福を授けよう。汝の培ってきた才、育ててきた才、それを超えるものを与えよう。目覚めよ、何にも代え難い才覚よ。《ギフト・キー》」
姉さんが詠唱をおえると、両手の間から金色の光の粒が発せられた。その光はどんどんと大きくなっていく。
ザワザワ。
「な、なんだあの光は……」
「あれでは……第二王子様並みの……」
前評判とは異なる光景に観客たちは目を奪われる。そしてなにより、詠唱した本人が1番驚いているのが、僕にはわかった。そして、大きく目を見開いた姉さんの前に、虹色に輝く美しい鍵が顕現する。
そっと、その鍵を両手で包み込む。
「……セーレン・ブーケ」
「はっ!」
「汝に祝福を」
そっと、姉さんが膝を折って、セーレンの心臓にむけて、虹色の鍵を差し込んだ。
カチッ。小さな、鍵が開くような音が聞こえてくる。それと同時にセーレンの身体から緑色の光が発せられた。とても大きな、そして優しい光だと感じた。
「……そ!それでは!スキルの鑑定を行う!」
姉さんが数歩後ろに下がったあと、神官服をきた司会の老人が水晶を持ってセーレンさんに近づいた。
セーレンさんに向けて、「スキル鑑定」と唱える。そして、その結果を口にする。
「これは……セーレン・ブーケ殿に与えられたスキルは……治癒魔術……Sランク……」
「Sランク!?Sランクだと!?そんなバカな!!そいつは恵まれない王女!!落ちこぼれのはずだ!!」
今まで静かにしていた男が突然騒ぎ出した。王族のみが座ることを許された座席から立ち上がり、怒り顔で大声を発している。僕の兄にあたる男だった。
「クワトゥル第四王子!今は神聖なギフト授与式の最中ですので!静粛に!!」
「くっ!!」
司会にたしなめられる兄さん。たとえ、兄さんであっても儀式の中断は許されないはずだった。しかし抗議の声を発し続ける。
「鑑定ミスではないのか!?Sランクの治癒魔術だと!?そんな貴重なスキル!どう証明する!!」
ザワザワ。
「たしかに……」
「恵まれない王女がSランクなど、なにかの間違いではないのか……」
「静粛に!静粛に!」
司会が声を荒げるが、第四王子の言葉ということもあり、疑いの声が大きくなっていく。
姉さんがSランクのスキルを授与できるはずがない。みんながそう思っていることを解消しなければ、この場はおさまりがつかなそうだった。
「はぁ……やるしかないか……」
だから、僕は決心した。歩き出す、祭壇に向けて。
僕は、祭壇の前に立って、ピアーチェス姉さん、セーレンさん、そしてクワトゥル第四王子を見た。
「兄さん、治癒魔術の能力が証明できればいいんですね?」
「ジュナリュシア!貴様は黙っていろ!王族の恥晒しめ!」
「姉さん」
「ジュナ……」
「セーレンさん」
「ジュナリュシア様……」
「僕は、2人を信じています」
僕はそう言ってから、服の下に隠していたものに右手を添え、そして、そのまま抜き切った。
「なっ!?コイツを取り押さえろ!!反逆だ!!」
兄さんが焦った顔で僕のことを指差していた。それはそうだろう。神聖なギフト授与式の会場で短剣を抜いたのだから。
でも、これしか、これしかないんだ。
ごめん。
心配をかけることになるかもしれない。
それに、この行動で多くの人の人生を変えてしまうだろう。
でも、僕と姉さんがこの国で生きていくには、こうするしかないんだ。
そして、僕は覚悟を決めて、短剣を握る右手に力をこめた。
=====================
【あとがき】
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ピアーチェス・キーブレス。僕の姉さんだ。姉さんは、自慢の金髪をいつものように縦ロールで巻いていて、でも、その神妙な面持ちから、いつもの意地悪な様子は伺えない。きっと彼女も緊張しているのだろう。
ブルンッ。祭壇に姉さんが到着し、姿勢を正すと、その豊満な胸が揺れる。
「おぉ……」
それを見た貴族のオッサンが小さな歓声をあげたのが聞こえてきた。僕の姉さんをそんな目で見るな、穢らわしい。しかし、そんな怒りなんて比較にならないような言葉が続けて聞こえてくる。
「ほぅ、あれが噂の恵まれない王女か」
「見た目だけは良いようだが……この授与式で醜態を見せれば、奴隷落ちもあるかもしれぬな」
「ふふ、生娘のように緊張してるではないか。どうせクズスキルしか授与できないだろうに」
「たしかに、授与される相手も気の毒なことだ」
クスクス。観客席にいる貴族たちの笑い声が聞こえてくる。
黙れ、姉さんをバカにするな。
僕は密かに両手を握りしめ、でも、彼女がこれから成し遂げることに集中することにした。こんな雑音、すぐに掻き消えるだろう。
なぜなら――
「それでは!ギフトの授与を執り行う!クリオ南部、ブーケ子爵が三男、セーレン・ブーケ殿!前へ!」
姉さんがいる祭壇に、反対側から若い男が上がってきた。僕と姉さんよりも年上の若い男だ。メガネをかけた華奢な身体の男で、緑色の長い髪を後ろで結っている。彼がセーレン・ブーケ、これから姉さんにスキルを授与される男だ。セーレンさんがゆっくりと祭壇の上を歩き、静かに姉さんの前にひざまづく。
僕はその様子をギフト授与式会場の2階から手すり越しに眺めていた。
「よし……」
予定通り、セーレンが授与対象になったことを喜ぶ。あとは、姉さんが力を、新しい力を披露するだけだ。
「では!ピアーチェス様!ギフトの授与を!」
「……」
姉さんはゆっくり、ゆっくりと前に進む。セーレンさんの前に。そして、両手を跪いている彼の頭に掲げた。
いつもの意地悪な人が発する声とは思えない。澄んだ声が祭壇から響いてくる。
「我、ピアーチェス・キーブレスは、キーブレス王国の名の下に、汝に祝福を授けよう。汝の培ってきた才、育ててきた才、それを超えるものを与えよう。目覚めよ、何にも代え難い才覚よ。《ギフト・キー》」
姉さんが詠唱をおえると、両手の間から金色の光の粒が発せられた。その光はどんどんと大きくなっていく。
ザワザワ。
「な、なんだあの光は……」
「あれでは……第二王子様並みの……」
前評判とは異なる光景に観客たちは目を奪われる。そしてなにより、詠唱した本人が1番驚いているのが、僕にはわかった。そして、大きく目を見開いた姉さんの前に、虹色に輝く美しい鍵が顕現する。
そっと、その鍵を両手で包み込む。
「……セーレン・ブーケ」
「はっ!」
「汝に祝福を」
そっと、姉さんが膝を折って、セーレンの心臓にむけて、虹色の鍵を差し込んだ。
カチッ。小さな、鍵が開くような音が聞こえてくる。それと同時にセーレンの身体から緑色の光が発せられた。とても大きな、そして優しい光だと感じた。
「……そ!それでは!スキルの鑑定を行う!」
姉さんが数歩後ろに下がったあと、神官服をきた司会の老人が水晶を持ってセーレンさんに近づいた。
セーレンさんに向けて、「スキル鑑定」と唱える。そして、その結果を口にする。
「これは……セーレン・ブーケ殿に与えられたスキルは……治癒魔術……Sランク……」
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今まで静かにしていた男が突然騒ぎ出した。王族のみが座ることを許された座席から立ち上がり、怒り顔で大声を発している。僕の兄にあたる男だった。
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ザワザワ。
「たしかに……」
「恵まれない王女がSランクなど、なにかの間違いではないのか……」
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姉さんがSランクのスキルを授与できるはずがない。みんながそう思っていることを解消しなければ、この場はおさまりがつかなそうだった。
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僕は、祭壇の前に立って、ピアーチェス姉さん、セーレンさん、そしてクワトゥル第四王子を見た。
「兄さん、治癒魔術の能力が証明できればいいんですね?」
「ジュナリュシア!貴様は黙っていろ!王族の恥晒しめ!」
「姉さん」
「ジュナ……」
「セーレンさん」
「ジュナリュシア様……」
「僕は、2人を信じています」
僕はそう言ってから、服の下に隠していたものに右手を添え、そして、そのまま抜き切った。
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ごめん。
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それに、この行動で多くの人の人生を変えてしまうだろう。
でも、僕と姉さんがこの国で生きていくには、こうするしかないんだ。
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