鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸

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1章 奪う力と与える力

第6話 隠された力の覚醒

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 湖についてから、僕らは2人とも微妙なテンションのまま、ほとりにとめられてる小さなボートに乗り込んだ。せっかく遊びに来ているのに、家を出たときと違って、2人とも沈んだ表情をしている。

 僕は口を開かず、オールを漕いで、湖の中心を目指すことにした。僕の前には向かい合うように、ピャーねぇが座っている。

 なんて声をかけよう。せっかくだし楽しい話を……いや、さっきのことちゃんと話しておこう。
 そう思ってピャーねぇの方を向くと、ボートに座ったピャーねぇの足の間から、子どもらしくない白のレースの下着が見えてしまっていた。めちゃくちゃ気まずくなる。僕は、それを見なかったことにして、そっと目を逸らしてから話しかける。

「ピャーねぇ……」

「なんですの……」

「ピャーねぇはあいつのお嫁さんになるの?」

「ならないって言いましたわ」

「うん、だよね……でも、でもさ、あいつのお嫁さんになれば……少なくとも、殺されることは、無いと思う……」

 ずっと考えていたことだった、この1年。どうやって、スキル無しの自分が生き延びるのか。その方法の1つには、権力者の庇護下に入る。つまり、結婚などをして守ってもらう、というアイデアもあった。

 Eランクのピャーねぇにとっても同じことだ。だから、Aランクの相手との縁談は、生き延びるためには悪くない話ではある。それがたとえ、気に入らない相手だったとしても。

「わたくし……わたくしは愛した殿方と添い遂げますの。ですから、クワトゥル兄様とは結婚しませんわ」

 少しだけ言い淀んだあと、ピャーねぇは僕の目を真っすぐ見て、強い瞳で自分の意思を伝えてきた。

「そうですか……じゃあ、やっぱり、僕と一緒に国外に逃げませんか?」

 このアイデアも、何度も提案してきたことだった。

「いえ、わたくしはこの国で、国を国民を守ります。それが王族の矜持というものです」

 湖の水面に照らされて、キラキラと光る金髪の少女はとても美しく見えた。10才とは思えない志を持つその子に自然と目が惹かれる。すごく立派だと感じた。

「そう……ですか……」

「それに……それに、ジュナは……わたくしが他の殿方と添い遂げてもよろしくって?」

「え?」

 自分本位な考えしかできない自分に凹んで下を向いていたら、ピャーねぇから不思議なことを質問された。
 顔をあげてピャーねぇの顔を見ると、僕から目をそらし、そっぽを向いている。その頬はほんのり赤く染まっているように見えた。

「あの……それって……」

 ガタガタ。

「ん?」
「なんですの?」

 ガタガタガタガタ!
 突然、ボートが左右に揺れ出した。何事かと辺りを見渡すが異変は見つけられない。僕たちのボートの周りだけ、水面が暴れていた。

「ジュナ!」
「姉さん!しっかりつかまって!」

 僕たちは必死にボートのへりに掴まる。しかし、そんなことは無駄だといわんばかりに、ボートは勢いよく転覆してしまう。そして、転覆するときに見てしまった。湖のほとりで、ニヤつく第四王子と、両手を前に出している取り巻きの1人を。

 そうか、さっきのあいつの目。あいつの目は、コレットを斬った衛兵の目と同じだった。
 殺気だ。

 ザブンッ!僕たちは湖に落ちる。とてもじゃないが足はつかない深さだ。

「ガボッ!ピャ、ピャーねぇ!!」

「ジュナ!今助けっ!ますわ!」

 バタバタと足掻いているピャーねぇが見える。泳ぎには向かないドレスを着てるのに、必死に僕を助けようと、こっちに手を伸ばしてくれる。でも、そんなピャーねぇの手を取ることが出来ず、僕は沈んでいった。そう、僕はカナヅチなんだ。

 水の中、焦ったピャーねぇが潜って追いかけてきてくれる。そして、僕の手を取った。
 水面に持ち上げられる。

「ガボッ!はぁ!はぁ!ジュナ!しっかり!」

「ピャ、ピャーだけでも!」

「ダメですわ!」

 僕を離さないピャーねぇ。でも、彼女はすごく苦しそうで、僕を抱えて岸までたどり着けるようには見えなかった。

 なんで、なんで僕は泳げないんだ!くそ!

「ジュナ!わたくしが!わたくしがあなたを!ッ!?足が!?」

「ガボガボ!?」

 今度は2人して沈んでいってしまう。隣のピャーねぇは足を押さえて苦しそうだ。足を吊ってしまったんだろう。

 なんだよ。僕は、こんなところで死ぬのか。

 お母様を助けることもできず……コレットの仇を討つこともできず……でも、僕なんかの力じゃどうせ……

 僕は早々に諦めそうになる。でも、目は閉じていなかった。

『ジュナ!!』

 声は聞こえない。でも、僕のことをまっすぐ見て、足がつってるのに、必死に手を伸ばしてくれる女の子がそこにいた。

 いいのか?このままで?

 いいのか?また大切なものを奪われて?

 違うだろ。

 あんなやつらに奪われるくらいなら……僕が【奪ってやる】

 僕が全部を手に入れて、大切な人たちを守るんだ。

 強い思いを持って手を伸ばし、ピャーねぇの手を握ったとき、僕は自分の身体に変化を感じた。
 なぜか、さっきまでは何もできなかった水中で、手足が動くようになる。

 〈僕は泳げる〉すぐにそう確信した。

 僕がピャーねぇを抱えて、水面に向かって泳ぎ出すと、腕の中の少女は目を閉じてしまった。彼女の身体から力が抜けていく。僕は焦って足を動かし、水面に向かう。

「ぷはっ!?ピャーねぇ!ピャーねぇ!」

 声をかけてもグッタリとして動かない。

「そんな!?いや!まだ!」

 僕は、そのままピャーねぇを抱えて湖のほとりを目指す。これまで一度も泳いだことなんてなかったのに、陸地までたどり着くことができた。

「ピャーねぇ!ピャーねぇ!しっかり!」

 ペチペチとほっぺを叩くが反応はない。

「ごめん!」

 僕は本で読んだ人工呼吸をはじめた。ピャーねぇの鼻を押さえて、気動を確保し、柔らかい唇に……唇……馬鹿野郎!そんなこと考えてる場合か!
 僕は無心で人工呼吸を続けた。

「ピャーねぇ!ピャーねぇ!死なないで!」

「…………ゲホッ!?……ゲホッ!ゲホッ!」

 グッタリしていたピャーねぇの口から水が吐き出される。

「……うっ……ジュナ?」

「ピャーねぇ!大丈夫!?」

「大丈夫……では、ありませんわ。溺れたんですもの……」

「すぐに医者を!」

「わたくしたちに、医者なんて……来てくれませんわ……」

「クソっ!なんなんだこの国は!」

 僕は両手を地面に叩きつける。
 許せない。この国も。この国の制度も。あの、クソ王子たちも。

「……ジュナ、あなたが助けてくれたんですの?」

「え、ええ、一応……」

「泳げないって、言ってたじゃありませんか……」

「なんか火事場の馬鹿力で」

「ふふ、すごいですわ。ジュナも男の子ですのね……」

 そのあと、ピャーねぇの体力が少し戻るのを待って、肩を貸してあげながら、僕の家に戻った。身体を拭いてあげて、着替えを手伝って、僕のベッドで寝かせる。
 僕は、不安そうな顔で眠る姉さんを椅子に座りながら覗き込んでいた。考えを改めるときがきた。そう感じていた。

 このままじゃ、僕たちは、この国に殺される。今までは自分とお母様が助かれば良いって思ってた。でも違う。

 助けるんだ、この子を。

 僕のことを必死に守ってくれたこの子を。

 今度は僕が助ける。

 そのためには……

 【この国の全てを奪ってやる】



=====================
【あとがき】
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