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第一章 龍の料理人

第28話

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 そしてカミルとヴェルは、ある大きな滝の前に降り立った。おもむろにヴェルが指をくいっと動かすと、落ちてくる滝の流れが塞き止められ目の前に洞窟が現れた。

 そう、ここがカミルやヴェルのような五龍達が集会を開く秘密の場所なのだ。

 龍から人の姿へと形を変えた二人が洞窟の中に足を踏み入れると、再び滝は勢い良く上から下へと流れ始め洞窟が水の壁で覆われた。

「ふぅ……毎度毎度思うのじゃが、なんでこんな洞窟の中で集会をするのじゃろうな?ここよりも遥かにマシな場所はごまんとあるというに……。」

「さぁね~、それは私にもわかんないわ。気が付いたらいっつもここに集まってたからね~。」

 二人が歩みを進めると、暗い洞窟の奥に明るく開けた場所が見えてくる。
 そしてその場所の中央には綺麗に削られてできた石の円卓と五人分の席がある。五人分の席の内三つにはもう既に彼らが座っていた。

「……来たか。」

「やっぱりカミルとヴェルは最後ビリだったね~。」

「ったく遅ぇよ。」

 カミルとヴェルに向かって彼らは口々に言った。

「すまんかったの~。何せ途中でこやつに絡まれてな。」

「ちょっと!!絡まれたって何よ~失礼しちゃうわね~……。」

「まぁまぁ、二人とも取りあえず座れ。話が始まらないじゃないか。」

 睨み合うカミルとヴェルに促したのは地龍アスラだ。一応彼がこういった集会を執り仕切る役目を担っている。

「カミルとヴェルって、ホント仲が良いのか悪いのかわっかんないよね~。いつも一緒に来るのに喧嘩してばっかだもん。……ま、それが面白いんだけどね~。」

 カミル達のやり取りをさぞかし面白そうに眺めながら言ったのは水龍ウル。

「はん、カミルとヴェルのやり取りなんざいつものことじゃねぇか。おいアスラ、これで全員揃ったんだからよ、さっさと始めようぜ。」

 地龍アスラを急かすように言ったのは、常に不機嫌そうな表情を浮かべている雷龍ボルト。

「あぁ、そうだな。では……これより緊急の五龍集会を始める。」

 司会となるアスラのこの一言によって、いよいよ緊急の五龍集会が幕を開けた。

「今回集まってもらったのは、他でもない魔王様より私が言伝を預かったからだ。」

「もしかしていよいよ人間どもと戦争か!?腕が鳴るぜ!!」

 興奮して体の周りにパチパチと稲妻を纏うボルトに、とても嫌そうな表情を浮かべながら水龍のウルが言った。

「ちょっとボルト、僕の近くで雷起こすのやめてもらって良いかな?傍迷惑なんだけど?」

「おっと!!すまねぇな、つい興奮しちまった。」

 苦笑いを浮かべながらボルトはウルに謝る。そして落ち着いたところで再びアスラが話し始めた。

「……それで、今回預かった言伝の内容だが……残念ながらボルトが望んでいた宣戦布告の通達ではない。」

「ちぇっ……違うのかよ。」

「それではなんなのじゃ?妾達に頼むようなものはそれ以外思い当たらぬが……。」

「結論から先に言ってしまえば、魔王様は今をお探ししているらしい。その人間を探すのを我々にも手伝ってほしい……と言伝を受けた。」

 思いもよらぬアスラの言葉に一瞬、彼らがいる空間を静寂が包みこんだ。
 そんな中、最初に声をあげたのはカミルだった。

「魔王様が人間を……のぉ~。で?そやつの特徴は?」

 カミルが淡々と質問を始めるとボルトが声を上げた。

「おいおい!!カミル、お前まさかマジでこんなくだらねぇことに協力するつもりか!?」

「くだらないも何も……魔王様直々のお言葉じゃろ?協力する意思は見せねばなるまい。して、アスラよどうなのじゃ?」

「その人間の特徴は……わからないらしい。……ただ、この世界の人間ではないと仰っていた。」

「この世界の人間じゃない?そんなのどうやって見分けろってのよ~。人間は人間じゃないの?」

「……チッ!!くだらねぇ……そんな事俺はやらねぇからな!!」

 人間を探せ……という思いもよらぬ魔王の言葉に腹を立たせたボルトは一人集会を途中で抜けてどこかへと行ってしまった。

「あ~あ、ボルトがどっか行っちゃったよ。ちなみにアスラ、僕も人間を探すのは嫌だからね!!」

「……そうか。今日の集会で伝えたかったのはこれだけだ。嫌なら帰って構わない。」

 そのアスラの言葉を待ってましたとばかりにウルも立ち上がり、帰ってしまう。そして残ったのはアスラ、カミル、ヴェルの三龍だけになってしまった。

「二人は帰らないのか?」

「ふん、別に……暇じゃからな。人間を探すことぐらい手伝うのじゃ。」

「私は多分手伝わないけど~カミルと一緒に帰るから居るだけ。」

「……ふっ、そうか。では我とカミルとで探すことにしよう。」

 そう結論付けたアスラにカミルは問いかける。

「アスラ、お主は嫌ではないのか?」

「我は魔王様のお言葉であれば何でも従う。それに魔王様がお探しになるほどの人間だ。どんなやつなのか興味が湧くじゃないか?」

「なんじゃ、結局のところお主も日々の暇を晴らすのが目的ではないか。」

「そう言われると何も言い返せないな。」

 カミルの言葉にアスラは苦笑いを浮かべた。彼も長い時を生きる龍として現状をもて余している者の一人だ。やはり彼にも何かしらの刺激というものが必要だったのだろう。

「さて、今日の集会は以上で終わりだ。魔王様には私から協力すると伝えておく。」

「うむ、頼んだのじゃ。では帰るとしようかの~。」

「あっ!!ちょっと待ちなさいよカミル~一緒に帰るって言ったじゃない!!」

「妾はそんな約束しておらんのじゃ~。」

 カミルが先に歩き出したのを見て慌ててヴェルも後を着いていく。
 そしてカミルとヴェルは外に出ると再び龍の姿に戻り空へと大きく羽ばたいた。

「何で妾に着いてくるのじゃ~!!」

「だってカミルの風を穏やかにしたのって絶対あの魔族じゃない?私すっご~く気になるも~ん!!」

 カミルとヴェルの二人は空中でじゃれあいながらもミノルが居るあの城へと向けて飛び続けるのだった。
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