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第一章 龍の料理人
第79話
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巨大な冷蔵庫の中へと足を踏み入れると、そこには大量の野菜畑や果物等が綺麗に並べられていた。その中にはもちろん見たことがあるようなものもあれば、見たことがない……つまり、この世界にしか存在しないような物まで様々ある。
「如何ですか?」
「……凄いな。こんなにたくさん貯蔵しているとは思ってなかったよ。」
「私のこの店はこの国で最もたくさんの物を扱ってますから当然です。この国でしか流通していない野菜や果物はもちろん、この国で採れるものでもなかなか市場に出回らないものまで全て取り揃えております。例えば……」
エルードはおもむろに棚に並べられていた果物を手に取った。
「こちらは精霊の拠り所になっている霊木にしか実らない果実、私達は霊樹果……と呼んでいます。とっても甘くて美味しいんですよ?」
「ほぅ?甘くて美味しいとな?」
「それは気になるわね~。」
「甘いの好き。」
私が何かを言う前に甘くて美味しいというエルードの言葉にカミル達が敏感に反応する。
「ミノル、これを使って甘味は作れぬのか?」
「作れないことはない……と思う。ただ、一回これだけを食べてみたいよな。どんな果物かによってどんなお菓子に使うかは変わってくるから。」
「ふむ、そうか……エルードとやら、その果物は幾つある?」
「現在の霊樹果の在庫は……」
エルードは棚に並べられていた霊樹果……とやらの在庫を数える。
「10個……ですね。」
「全部買いじゃ。」
在庫を数えカミルに報告すると、カミルは即断ですべてを購入する意思を見せた。
「畏まりました。ではこちらは全て買い……という事で。」
「うむ。」
霊樹果……精霊の拠り所の霊木とやらにしか実らない果実か。エルードは甘くて美味しい……とだけ言っていたが、食べるのがとても楽しみだ。見た目はどうやら林檎に近いようだが、表皮の色が金色に光輝いている。中身はどうなっているのだろう?興味が尽きない。帰ったら先ずはこのまま食べてみよう。
「他にも何か……珍しい物だったりとか、この国でしか流通していないものってあったりするか?」
「勿論です。まだまだたくさんございますよ。」
「なら、もしあればでいいんだが……豆を発酵させて作った調味料とかって無いか?」
私の言葉にピクンとエルードの耳が反応する。
「……どこでそれのことを?」
「あ、いや……別にどこでって訳じゃなく、ただ無いかなと思って聞いてみただけなんだが……。その反応を見る限り……あるんだな?」
「確かに仰っているものはございます。ただ……それはまだ私の店で試作の段階にある物なんです。ここにはありませんので後程ご覧にいれますよ。」
「あぁ、是非見せてくれ。」
もし、私が思っている物のうちどれか1つでもあれば……これからの料理の幅がぐっと……ぐ~っと広がる。
だが、まだ試作の段階ってことは完成には何かが足りていないのか……それともどうすれば完成に近付くのか分からないのか。仮に私が力になれることがあれば喜んで力になろう。
そんなことを思いながらいると……私の視界にあるものが入った。
「ん?これは……。」
木で作られた籠の中に何やら穀物が入っている。私はそれをおもむろに手にとって眺めてみた。
「麦……ではないな。」
「はい、それは麦ではないです。それはコメ……という穀物です。」
「……!?米だと!?」
「おや?ご存知なんですか?これは遥か昔にこの国に伝わってきた穀物なんですよ。」
遥か昔にエルフの国に伝わってきた穀物が米だと!?いや、落ち着け。可能性としては無いわけではない。私が良い例だ。異世界から人を呼び出すという魔法……あれが昔に使われてて、植学者みたいな人が呼び出されていたとしたら。十分にあり得る話だ。
だが、一先ずそれは置いておくとしよう。
「……これは買うとしたらどれぐらい買える?」
「こちらですか?そうですね、昨年収穫されたものもまだたくさん保管してありますので……かなりの量をご用意できるかと。あ、ご安心下さい。ここのコメを全て買い占めたとしても需要よりも供給の方が上回っておりますので。」
「じゃああるだけこれを欲しい。」
「畏まりました。こちらも後程専用の倉庫の方にご案内いたしますね。」
こいつは思わぬ収穫だ。まさかこの世界に米が流通しているとはな……エルフの国に来て本当に良かった。米があればピラフにドリア等々色々な料理の土台になる上、これが主食になる。
帰ったら今日は米を使った料理にしよう。うん、そして今日は私もご飯を食べよう。久しぶりに私の中の日本人の心が……料理人としての魂が疼いている。
「のぉ、ミノル?」
「…………。」
「お、お~いミノルや?」
「……?あ、あぁ……すまない。少し自分の世界に入ってたよ。それで?どうかしたのか?」
「このコメとやらは美味しいのか?」
「美味しいよ。間違いない。帰ったらこれを使って料理を作るから楽しみにしててくれ。いや…………そうじゃないか。」
今の私の口角はどうなっているだろう……異様につり上がっているだろうか……。だが、少し笑うぐらい良いよな。だって……こんなにも楽しいのだから。
「覚悟していてくれ。」
後にカミル達から聞いた話だが……この時私の表情を見た時、背中にゾクリと冷たいものが走り抜けていったらしい。
「如何ですか?」
「……凄いな。こんなにたくさん貯蔵しているとは思ってなかったよ。」
「私のこの店はこの国で最もたくさんの物を扱ってますから当然です。この国でしか流通していない野菜や果物はもちろん、この国で採れるものでもなかなか市場に出回らないものまで全て取り揃えております。例えば……」
エルードはおもむろに棚に並べられていた果物を手に取った。
「こちらは精霊の拠り所になっている霊木にしか実らない果実、私達は霊樹果……と呼んでいます。とっても甘くて美味しいんですよ?」
「ほぅ?甘くて美味しいとな?」
「それは気になるわね~。」
「甘いの好き。」
私が何かを言う前に甘くて美味しいというエルードの言葉にカミル達が敏感に反応する。
「ミノル、これを使って甘味は作れぬのか?」
「作れないことはない……と思う。ただ、一回これだけを食べてみたいよな。どんな果物かによってどんなお菓子に使うかは変わってくるから。」
「ふむ、そうか……エルードとやら、その果物は幾つある?」
「現在の霊樹果の在庫は……」
エルードは棚に並べられていた霊樹果……とやらの在庫を数える。
「10個……ですね。」
「全部買いじゃ。」
在庫を数えカミルに報告すると、カミルは即断ですべてを購入する意思を見せた。
「畏まりました。ではこちらは全て買い……という事で。」
「うむ。」
霊樹果……精霊の拠り所の霊木とやらにしか実らない果実か。エルードは甘くて美味しい……とだけ言っていたが、食べるのがとても楽しみだ。見た目はどうやら林檎に近いようだが、表皮の色が金色に光輝いている。中身はどうなっているのだろう?興味が尽きない。帰ったら先ずはこのまま食べてみよう。
「他にも何か……珍しい物だったりとか、この国でしか流通していないものってあったりするか?」
「勿論です。まだまだたくさんございますよ。」
「なら、もしあればでいいんだが……豆を発酵させて作った調味料とかって無いか?」
私の言葉にピクンとエルードの耳が反応する。
「……どこでそれのことを?」
「あ、いや……別にどこでって訳じゃなく、ただ無いかなと思って聞いてみただけなんだが……。その反応を見る限り……あるんだな?」
「確かに仰っているものはございます。ただ……それはまだ私の店で試作の段階にある物なんです。ここにはありませんので後程ご覧にいれますよ。」
「あぁ、是非見せてくれ。」
もし、私が思っている物のうちどれか1つでもあれば……これからの料理の幅がぐっと……ぐ~っと広がる。
だが、まだ試作の段階ってことは完成には何かが足りていないのか……それともどうすれば完成に近付くのか分からないのか。仮に私が力になれることがあれば喜んで力になろう。
そんなことを思いながらいると……私の視界にあるものが入った。
「ん?これは……。」
木で作られた籠の中に何やら穀物が入っている。私はそれをおもむろに手にとって眺めてみた。
「麦……ではないな。」
「はい、それは麦ではないです。それはコメ……という穀物です。」
「……!?米だと!?」
「おや?ご存知なんですか?これは遥か昔にこの国に伝わってきた穀物なんですよ。」
遥か昔にエルフの国に伝わってきた穀物が米だと!?いや、落ち着け。可能性としては無いわけではない。私が良い例だ。異世界から人を呼び出すという魔法……あれが昔に使われてて、植学者みたいな人が呼び出されていたとしたら。十分にあり得る話だ。
だが、一先ずそれは置いておくとしよう。
「……これは買うとしたらどれぐらい買える?」
「こちらですか?そうですね、昨年収穫されたものもまだたくさん保管してありますので……かなりの量をご用意できるかと。あ、ご安心下さい。ここのコメを全て買い占めたとしても需要よりも供給の方が上回っておりますので。」
「じゃああるだけこれを欲しい。」
「畏まりました。こちらも後程専用の倉庫の方にご案内いたしますね。」
こいつは思わぬ収穫だ。まさかこの世界に米が流通しているとはな……エルフの国に来て本当に良かった。米があればピラフにドリア等々色々な料理の土台になる上、これが主食になる。
帰ったら今日は米を使った料理にしよう。うん、そして今日は私もご飯を食べよう。久しぶりに私の中の日本人の心が……料理人としての魂が疼いている。
「のぉ、ミノル?」
「…………。」
「お、お~いミノルや?」
「……?あ、あぁ……すまない。少し自分の世界に入ってたよ。それで?どうかしたのか?」
「このコメとやらは美味しいのか?」
「美味しいよ。間違いない。帰ったらこれを使って料理を作るから楽しみにしててくれ。いや…………そうじゃないか。」
今の私の口角はどうなっているだろう……異様につり上がっているだろうか……。だが、少し笑うぐらい良いよな。だって……こんなにも楽しいのだから。
「覚悟していてくれ。」
後にカミル達から聞いた話だが……この時私の表情を見た時、背中にゾクリと冷たいものが走り抜けていったらしい。
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