128 / 200
第二章 平和の使者
第127話
しおりを挟む
出来上がった料理を皆の前に並べると、何度も私の料理を口にしているカミル達はいつも通りの反応を示したが……一方ジュンコはというと
「なっ……!?なんでありんすかこれは!?」
並べられた料理を見てとても驚いた表情を浮かべていた。
「以前とは比べ物にならないぐらい、品がありんすねぇ……。」
まぁ、前が酷かっただけだけどな。ある程度料理の知識があればこのぐらい作れるだろう。
「でしょ~?見た目もそうだけど、味もさいっ……こうに美味しいんだから。」
アベルのその言葉に反応して、ジュンコがゴクリ……と生唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「こ、これをあちきに振る舞ってくれるでありんすか?」
「うん、い~っぱい食べていいよ?なんなら……ボクの分もね。」
アベルの最後の一言に私を含め、カミル達も一斉にアベルの方に視線を向けた。
皆が驚いた理由は同じだろう。なぜなら……普段のアベルであれば、そんなことは絶対に言わないからだ。
「たくさん食べて、しっかり味を覚えていってね?……あはっ♪」
どうやらアベルには何かしらの考えがあって、さっきの一言を口にしたらしい。その笑みの奥には何か闇が見える。
「で、では早速……」
「あ、ちょっと待った。」
早速料理に手を伸ばそうとしたジュンコを私は引き留める。すると、不機嫌そうな表情を浮かべて私をみてきた。
「な、なんでありんすか!?」
「その料理と合わせて、この葡萄酒を……。」
私はグラスに葡萄酒を注ぎ、ジュンコの前に差し出した。
「酒……でありんすか?」
「今日の料理はこの葡萄酒と一緒に楽しむように作ってある。」
「なるほど、そういうことでありんしたか。……それはそうと、ここに箸は無いでありんすか?」
「箸?……これでいいか?」
思わぬ要求に少し戸惑ったものの、私は割り箸をジュンコに手渡した。
「おぉ!!用意がいいでありんすねぇ~。あちきはこれじゃないと料理が食べれないでありんす。」
ということは……獣人族の間では箸という存在が一般的なのか?これも、昔私のように呼び出された誰かが広めたのだろうか。
「ノノも箸の方が使いやすいか?」
「あ、ノノはどっちでも大丈夫です。」
「そうか、まぁ……箸が使いたかったらいつでも言ってくれ。」
「わかりました!!」
私が隣に座るノノの頭を撫でていると、パキッ……と割り箸を割る音が聞こえた。
「さてさて、では早速いただかせてもらうでありんす!!」
「はいはいど~ぞ~?」
ジュンコは箸でバターソテーを一切れ掴み、口へと運ぶ。すると、カッ……と大きく目を見開いた。
「お、美味しいでありんす!!」
パクパクとあっという間にバターソテーを食べ終えると、彼女は次の料理に標的を定めた。
「これはどうでありんすかねぇ……っ!!これも美味しいでありんす!!これも……これもっ!!」
私の料理の味がお気に召したらしく。ジュンコは次々と料理を口に運んでは、葡萄酒を飲んでいる。
しかし、一方……アベルはあまり手が進んでいないようだった。私はそんな彼女に気になっていたことを聞いてみることにした。
「……で?何を考えてるんだ?」
「……ミノルは、料理人だからわかると思うけど、ある日今までに食べてたものと比較にならないほど美味しいものを食べたとき……その後ってどうなると思う?」
私はアベルのその意味ありげな問いかけで全てを察した。
「なるほど……そういうことだったか。」
アベルの問いかけの答えは簡単だ。その時に食べた料理が美味しければ美味しいほど、印象が深くなり、以前までの料理では満足できなくなってしまう。
彼女はそれを、ジュンコでやろうとしているのだ。
「ジュンコがミノルの料理の虜になれば……あっちからボクの方に声をかけてくるかもしれないでしょ?」
「確かに……な。」
当のジュンコはそんなアベルの思惑があるとは思わず、バクバクと勢いを落とさずに料理と酒を飲んでいる。あれはもう……料理の魅力という底無し沼にずっぽりと嵌まってしまっているな。
一先ずは、アベルの作戦の第一段階は成功したと言っても過言じゃないだろう。後は、どれだけジュンコのことを焦らすか……。それだけだな。
最高の贅沢のあとには焦らしを……か。昔私に料理を教えてくれた料理長が、何度も言っていたのを覚えている。
今となってようやく、その言葉が何を意味していたのか……良く理解できた気がする。
アベルの思惑通りに事が進めば……これから先の日々、ジュンコには辛い日々になるかもな。
だから、今は一時の贅沢を体の芯まで味わい尽くすといい。
後に待っている焦らしの辛さに備えて……な。
皆が楽しく食事を進めるなか、私とアベルの二人は不敵な笑みを浮かべていたのだった。
「なっ……!?なんでありんすかこれは!?」
並べられた料理を見てとても驚いた表情を浮かべていた。
「以前とは比べ物にならないぐらい、品がありんすねぇ……。」
まぁ、前が酷かっただけだけどな。ある程度料理の知識があればこのぐらい作れるだろう。
「でしょ~?見た目もそうだけど、味もさいっ……こうに美味しいんだから。」
アベルのその言葉に反応して、ジュンコがゴクリ……と生唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「こ、これをあちきに振る舞ってくれるでありんすか?」
「うん、い~っぱい食べていいよ?なんなら……ボクの分もね。」
アベルの最後の一言に私を含め、カミル達も一斉にアベルの方に視線を向けた。
皆が驚いた理由は同じだろう。なぜなら……普段のアベルであれば、そんなことは絶対に言わないからだ。
「たくさん食べて、しっかり味を覚えていってね?……あはっ♪」
どうやらアベルには何かしらの考えがあって、さっきの一言を口にしたらしい。その笑みの奥には何か闇が見える。
「で、では早速……」
「あ、ちょっと待った。」
早速料理に手を伸ばそうとしたジュンコを私は引き留める。すると、不機嫌そうな表情を浮かべて私をみてきた。
「な、なんでありんすか!?」
「その料理と合わせて、この葡萄酒を……。」
私はグラスに葡萄酒を注ぎ、ジュンコの前に差し出した。
「酒……でありんすか?」
「今日の料理はこの葡萄酒と一緒に楽しむように作ってある。」
「なるほど、そういうことでありんしたか。……それはそうと、ここに箸は無いでありんすか?」
「箸?……これでいいか?」
思わぬ要求に少し戸惑ったものの、私は割り箸をジュンコに手渡した。
「おぉ!!用意がいいでありんすねぇ~。あちきはこれじゃないと料理が食べれないでありんす。」
ということは……獣人族の間では箸という存在が一般的なのか?これも、昔私のように呼び出された誰かが広めたのだろうか。
「ノノも箸の方が使いやすいか?」
「あ、ノノはどっちでも大丈夫です。」
「そうか、まぁ……箸が使いたかったらいつでも言ってくれ。」
「わかりました!!」
私が隣に座るノノの頭を撫でていると、パキッ……と割り箸を割る音が聞こえた。
「さてさて、では早速いただかせてもらうでありんす!!」
「はいはいど~ぞ~?」
ジュンコは箸でバターソテーを一切れ掴み、口へと運ぶ。すると、カッ……と大きく目を見開いた。
「お、美味しいでありんす!!」
パクパクとあっという間にバターソテーを食べ終えると、彼女は次の料理に標的を定めた。
「これはどうでありんすかねぇ……っ!!これも美味しいでありんす!!これも……これもっ!!」
私の料理の味がお気に召したらしく。ジュンコは次々と料理を口に運んでは、葡萄酒を飲んでいる。
しかし、一方……アベルはあまり手が進んでいないようだった。私はそんな彼女に気になっていたことを聞いてみることにした。
「……で?何を考えてるんだ?」
「……ミノルは、料理人だからわかると思うけど、ある日今までに食べてたものと比較にならないほど美味しいものを食べたとき……その後ってどうなると思う?」
私はアベルのその意味ありげな問いかけで全てを察した。
「なるほど……そういうことだったか。」
アベルの問いかけの答えは簡単だ。その時に食べた料理が美味しければ美味しいほど、印象が深くなり、以前までの料理では満足できなくなってしまう。
彼女はそれを、ジュンコでやろうとしているのだ。
「ジュンコがミノルの料理の虜になれば……あっちからボクの方に声をかけてくるかもしれないでしょ?」
「確かに……な。」
当のジュンコはそんなアベルの思惑があるとは思わず、バクバクと勢いを落とさずに料理と酒を飲んでいる。あれはもう……料理の魅力という底無し沼にずっぽりと嵌まってしまっているな。
一先ずは、アベルの作戦の第一段階は成功したと言っても過言じゃないだろう。後は、どれだけジュンコのことを焦らすか……。それだけだな。
最高の贅沢のあとには焦らしを……か。昔私に料理を教えてくれた料理長が、何度も言っていたのを覚えている。
今となってようやく、その言葉が何を意味していたのか……良く理解できた気がする。
アベルの思惑通りに事が進めば……これから先の日々、ジュンコには辛い日々になるかもな。
だから、今は一時の贅沢を体の芯まで味わい尽くすといい。
後に待っている焦らしの辛さに備えて……な。
皆が楽しく食事を進めるなか、私とアベルの二人は不敵な笑みを浮かべていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~
あけちともあき
ファンタジー
冒険者ナザルは油使い。
魔力を油に変換し、滑らせたり燃やしたりできるユニークスキル持ちだ。
その特殊な能力ゆえ、冒険者パーティのメインメンバーとはならず、様々な状況のピンチヒッターをやって暮らしている。
実は、ナザルは転生者。
とある企業の中間管理職として、人間関係を良好に保つために組織の潤滑油として暗躍していた。
ひょんなことから死んだ彼は、異世界パルメディアに転生し、油使いナザルとなった。
冒険者の街、アーランには様々な事件が舞い込む。
それに伴って、たくさんの人々がやってくる。
もちろん、それだけの数のトラブルも来るし、いざこざだってある。
ナザルはその能力で事件解決の手伝いをし、生前の潤滑油スキルで人間関係改善のお手伝いをする。
冒険者に、街の皆さん、あるいはギルドの隅にいつもいる、安楽椅子冒険者のハーフエルフ。
ナザルと様々なキャラクターたちが織りなす、楽しいファンタジー日常劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる