アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第二章 平和の使者

第127話

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 出来上がった料理を皆の前に並べると、何度も私の料理を口にしているカミル達はいつも通りの反応を示したが……一方ジュンコはというと

「なっ……!?なんでありんすかこれは!?」

 並べられた料理を見てとても驚いた表情を浮かべていた。

「以前とは比べ物にならないぐらい、品がありんすねぇ……。」

 まぁ、前が酷かっただけだけどな。ある程度料理の知識があればこのぐらい作れるだろう。

「でしょ~?見た目もそうだけど、味もさいっ……こうに美味しいんだから。」

 アベルのその言葉に反応して、ジュンコがゴクリ……と生唾を飲み込む音が聞こえてきた。

「こ、これをあちきに振る舞ってくれるでありんすか?」

「うん、い~っぱい食べていいよ?なんなら……。」

 アベルの最後の一言に私を含め、カミル達も一斉にアベルの方に視線を向けた。

 皆が驚いた理由は同じだろう。なぜなら……普段のアベルであれば、そんなことは絶対に言わないからだ。

「たくさん食べて、しっかり味を覚えていってね?……あはっ♪」

 どうやらアベルには何かしらの考えがあって、さっきの一言を口にしたらしい。その笑みの奥には何か闇が見える。

「で、では早速……」

「あ、ちょっと待った。」

 早速料理に手を伸ばそうとしたジュンコを私は引き留める。すると、不機嫌そうな表情を浮かべて私をみてきた。

「な、なんでありんすか!?」

「その料理と合わせて、この葡萄酒を……。」

 私はグラスに葡萄酒を注ぎ、ジュンコの前に差し出した。

「酒……でありんすか?」

「今日の料理はこの葡萄酒と一緒に楽しむように作ってある。」

「なるほど、そういうことでありんしたか。……それはそうと、ここには無いでありんすか?」

「箸?……これでいいか?」

 思わぬ要求に少し戸惑ったものの、私は割り箸をジュンコに手渡した。

「おぉ!!用意がいいでありんすねぇ~。あちきはこれじゃないと料理が食べれないでありんす。」

 ということは……獣人族の間では箸という存在が一般的なのか?これも、昔私のように呼び出された誰かが広めたのだろうか。

「ノノも箸の方が使いやすいか?」

「あ、ノノはどっちでも大丈夫です。」

「そうか、まぁ……箸が使いたかったらいつでも言ってくれ。」

「わかりました!!」

 私が隣に座るノノの頭を撫でていると、パキッ……と割り箸を割る音が聞こえた。

「さてさて、では早速いただかせてもらうでありんす!!」

「はいはいど~ぞ~?」

 ジュンコは箸でバターソテーを一切れ掴み、口へと運ぶ。すると、カッ……と大きく目を見開いた。

「お、美味しいでありんす!!」

 パクパクとあっという間にバターソテーを食べ終えると、彼女は次の料理に標的を定めた。

「これはどうでありんすかねぇ……っ!!これも美味しいでありんす!!これも……これもっ!!」

 私の料理の味がお気に召したらしく。ジュンコは次々と料理を口に運んでは、葡萄酒を飲んでいる。

 しかし、一方……アベルはあまり手が進んでいないようだった。私はそんな彼女に気になっていたことを聞いてみることにした。

「……で?何を考えてるんだ?」

「……ミノルは、料理人だからわかると思うけど、ある日今までに食べてたものと比較にならないほど美味しいものを食べたとき……その後ってどうなると思う?」

 私はアベルのその意味ありげな問いかけで全てを察した。

「なるほど……そういうことだったか。」

 アベルの問いかけの答えは簡単だ。その時に食べた料理が美味しければ美味しいほど、印象が深くなり、以前までの料理では満足できなくなってしまう。
 彼女はそれを、ジュンコでやろうとしているのだ。

「ジュンコがミノルの料理の虜になれば……あっちからボクの方に声をかけてくるかもしれないでしょ?」

「確かに……な。」

 当のジュンコはそんなアベルの思惑があるとは思わず、バクバクと勢いを落とさずに料理と酒を飲んでいる。あれはもう……料理の魅力という底無し沼にずっぽりと嵌まってしまっているな。

 一先ずは、アベルの作戦の第一段階は成功したと言っても過言じゃないだろう。後は、どれだけジュンコのことをか……。それだけだな。

 最高の贅沢のあとには焦らしを……か。昔私に料理を教えてくれた料理長が、何度も言っていたのを覚えている。
 今となってようやく、その言葉が何を意味していたのか……良く理解できた気がする。

 アベルの思惑通りに事が進めば……これから先の日々、ジュンコには辛い日々になるかもな。
 だから、今は一時いっときを体の芯まで味わい尽くすといい。

 後に待っているの辛さに備えて……な。

 皆が楽しく食事を進めるなか、私とアベルの二人は不敵な笑みを浮かべていたのだった。
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