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第二章 平和の使者

第137話

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 そして一晩中付きっきりで私は勇者の看病にあたったが……朝になっても彼女は目を覚まさなかった。
 連れてきたときと比べるといくらか顔色は良くなった。額に手を当てて体温を確認してみるが、あのときのように冷たくはない。ようやく人肌程度ってところか。

「一先ず峠は越えた……かな。…………ふぅ~。」

 椅子の背もたれに深く背を預けながら、私は大きく息をはいた。容態が少し良くなったから、今までの緊張感から解かれて安心してしまった。

「取りあえず、目を覚ますまでは朝昼晩……とお粥と水を飲ませておこう。」

 一度に多く取り込むよりも、何回かに分けた方が良いだろうからな。
 さて、そうと決まれば……朝の分のお粥を作りに行くか。

 椅子から立ち上がり、思いっきり背伸びをしながら私は彼女の朝食を作るため部屋を後にした。

 そして昨日作ったお粥と同じものをせっせと作っていると、厨房の入り口から寝起きのノノが現れた。

「ふあ……お師様おはようございましゅ……。」

 大きなあくびをしながら、まだ呂律が回らない舌で彼女は私に朝の挨拶をしてくる。

「あぁおはよう。」

 挨拶を交わすと、ノノがこちらに近づいてきて私の手元を覗き込んだ。

「今は何を作ってるんですか?」

「昨日連れて帰ってきた勇者の朝食だ。」

「ふぇ~……勇者様の………朝食?って勇者様ですか!?」

 と、朝から新鮮なリアクションをとってくれるノノ。勇者という言葉に余程驚いたらしい。
 まぁ、勇者を拐ってくるって計画は私とアベルの間でしか話してなかったからな。

「あぁ、話し合いをするために連れてきたんだが……どうもまだ話し合いができる状態じゃないんだ。」

「???……それってどういうことですか?」

「着いてくれば分かる。今ちょうど出来上がったから、勇者のとこに持ってくぞ。」

「あ、はっはい!!」

 そしてノノとともに勇者が寝ている部屋へと向かっている途中……カミルの寝室の扉がガチャリと音を立てて開いた。

「む?ミノルにノノではないか。」
 
「おはようカミル。」

「おはようございますカミル様!!」

「うむ、おはようなのじゃ。……なにやら良い匂いがするが、それはなんじゃ?」

 スンスン……と鼻をひくつかせながら、カミルは私が持っているお粥に興味津々だ。
 だが、残念ながらこれはカミルの食べ物ではない。

「これは勇者用の朝食だ。今から食べさせに行くんだ。」

「ほぉ、勇者のものじゃったか…………勇者とな?」

 一度納得したように頷いたカミルだったが、少しして言葉の違和感に気がついたようだ。

「勇者とはあの勇者かの!?」

「あぁ。今ちょうどそこの部屋で寝てるんだ。」

「なんと!?」

 それを確かめるためにカミルは私達よりも先にその部屋の扉を開けて中に入っていった。私達もその後に続いてみると……ベッドの横でカミルは首をかしげていた。

「ミノルよ、こやつが本当に勇者なのかの?今にも死にかけではないか。」

「あぁ、間違いなく勇者だ。アベルもそう言っていた。」

 ベッドの横においてある椅子に腰掛け、私はお粥をスプーンで掬い、彼女の口元に近付けた。

「ん……あ……」

 やはりお粥を近づけると自然と口が開いて出迎えてくれる。僅かに開いた口の中に、軽く冷ましたおかゆを流し込むと……ゆっくりと食べ始めた。

「ふむぅ……人間の勇者がこんな状態では、あっちも戦いがどうのこうのどころではなかろうに。」

 お粥を食べさせている最中、ポツリとカミルが呟いた。

「いや、あっちにはちゃんとした戦力があったよ。その戦力の犠牲になったのがこの子なんだ。」

「なんと!?勇者を犠牲にして、他の何かを生み出したとでもいうのかの!?」

「その言葉通りだ。詳しいことは、後でアルマスも交えて話すが……人間はこの子の勇者の核とやらを悪用して人工の勇者を何人も造っていた。」

「………………。」

 あまりに衝撃な事実にカミルは開いた口が塞がらない。

 だが、これが事実だ。

 ふと、カミルが私のとなりに座ったかと思うと勇者の顔を覗き込みながら言った。

「遂に勇者という存在をも人間は裏切ったか。こやつも勇者という役割に選ばれなければこのようなことにはならなかったじゃろうに……運命とは残酷じゃな。」

「まったくだ。」

 普通の女の子として生まれていれば、なに不自由ない楽しい人生を送れたかもしれないのに……な。

 それはアベルにも言えることか。……でも、彼女は彼女なりに今を楽しんでるみたいだからな。

 そして朝食を全て食べさせ終えると、部屋の扉がコンコン……とノックされた。

「アベルだよ~。入るね~。」

 ガチャリと扉を開けてアベルが中に入ってきた。そしてその後に続いてエルフの王、アルマスも入ってきた。

 どうやらここに来るまえに連れてきてくれたみたいだ。

 さて、今回人間の国に行ってわかったことについて情報共有といこうか。
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