アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第三章 魔族と人間と

第170話

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 次の日の朝……まだ微睡みの中をさ迷っていた私の意識が、コンコン……と扉をノックする音で覚醒した。

「んん……。」

 マームかな?今日はずいぶん早いな……。

 いつも朝蜂蜜を届けに来てくれるマームかと思い、扉を開けるとそこにはアベルとノアの二人がいた。

「あ……おはよーミノル。」

「ミノルさんおはようございます。」

「アベルに……ノア?こんな朝早くにどうしたんだ?」

 昨日人間の国に行くのは明日にすると打ち合わせをしたはずだが……。

 未だ開き切らない目を凝らして二人の表情を観察してみると、二人は何か困ったような表情を浮かべていた。どうやら何かあったらしい。

「何があった?」

「いや……ね、今朝ボクらがピースの街の人たちにおかゆを作ってたらさ、昨日連れてきた人にすっごい文句を言われちゃったんだよね。」

 大きなため息を吐きながらアベルは私に事情を説明してくれた。

「なるほど、そういうことだったか。」

 そういえば、昨日は助けるのに必死でその辺の説明をしてなかったな。でも、ゼバスがその辺については人間たちを説得してくれてると思ったんだが……。

「ノアはどういう理由で今それを食べさせているのか説明したのか?」

「あ、は、はい……ちゃんと説明しました。でも全然聞いてくれなくて……ゼバスさんも困ってるんです。」

「ふむ、なるほどな。それは……困ったな。」

 いや、まぁ……信じられないのも無理はないが、郷に入っては郷に従えということわざがあってだな……。
 って、この世界の人たちは知らないか。

 にしてもどうするかな。このまま放置しておくわけにもいかないし……。かといってこっちの話を信じてくれそうにないらしいし。

「やっぱり無理やりにでも従わせるべきかなぁ?」

「それは悪手だな。一つ間違えると、こちらに協力的な人間達も敵にしてしまうぞ?」

「う……だ、だよね……。」

 政治的に武力で民衆を分からせるというのは一番やってはいけない手段だ。当然反感を買うし、イメージも悪くなる。

「でも、ノアの言葉も聞いてくれないんだよ?自分は貴族なんだ~!!ってみんなの前で威張っちゃってさ。」

「貴族?」

 私がそう聞き返すと、ノアが言った。

「そうなんです。なんでも、地方の管理を任された低級の貴族の人らしくて……。だからゼバスさんもあんまり強く言えないんです。」

「ふむふむ……。」

「なんかボク達魔族で言うところの上級魔族?みたいな感じらしいよ?」

 貴族か……そういえばこの世界の人間にはそんな身分制度があるとこの前耳にしたな。そういう人たちは王都とかそういう栄えてるところにいるものだと思っていたんだが、案外そうでもないらしいな。

 にしても保護してもらってる側なのに、よくそんなに偉そうにできるな。

「…………わかった。そいつには私が話を着けて来よう。」

「朝早くからごめんね?」

「いいんだ。そういう面倒なのが来た時ってのは対応に慣れてるやつに任せるのが一番だからな。」

 まぁ、私もそんなに経験がある方ではないが……少なくともこの二人よりかは慣れてるはずだ。日本で何度か偉ぶってる政治家の相手をしてきたからな。
 そういう輩が自分の何を一番大事にしているのかもわかっている。

「さ、それじゃあ案内してもらってもいいか?」

「うん、任せてよ。」

 そしてアベルはピースへと空間を繋げた。中に入ると、早速怒号が聞こえてきた。

「おい!!この俺様を差し置いて勇者達はどこに行ったんだ!!」

「生憎我輩にもわかりませぬな。」

「なんだと貴様~……この俺様を愚弄するつもりか!?」

 お~お~……やってるやってる。

 ピースに着くと飛び込んできたのは小太りの男がゼバスに詰め寄っている光景だった。
 
 私はその男を見てある違和感を覚えた。
 というのも、目に見てとれるようになのである。日照りで不作になり食料が失くなったにしては……随分豊かな腹をしているな。
 他の人間達は痩せ細っているというのに……な。

 周囲の人間達からの視線もあまり良いものではないようだ。彼と決して目を合わせようとしていない。

 彼がこちらに気が付くと眉間に皺を寄せながら詰め寄ってきた。

「勇者!!貴様……今までどこにっ……。」

 そして真っ先にノアに向かって詰め寄ってくる彼とノアの間に私は割り込んだ。

「っ!!なんだ貴様は!!」

「どうやらこちらが提供する物に満足いただけなかったと、お話は伺いました。彼女達に料理の指導を行ったのは私ですので……責任を持って私が、を作らせていただきましょう。」

 彼が何かを言う前に私は彼の前で良い肉を焼いて見せ、ステーキとして彼の前に提供した。

「こちらでいかがでしょうか?」

「ふん!!少しは料理ってのがなんなのかわかってるじゃないか。」

 そして早速食べようとした彼に私は……。

「あぁ、そういえば……最後の味つけを忘れていました。…………こちらで完成です。」

 私はインベントリから紫色の液体が入った瓶を取り出して、中の液体をステーキの上にぶちまけた。
 盛り付けも何もかもがぶち壊しになったそれを見て、彼が声を上げた。

「な……なにをしているっ!!その液体はなんだっ!!」

「猛毒だ。言っただろ?……と。コレがこの街で貴族と偉ぶるあんたに相応しい料理だ。」

 そして私は怒る彼の前に立って、続けて言った。

「この街の中では貴族なんて身分は何の意味もない。皆平等……気に入らないのなら出ていってもらっても構わない。ただ……凶暴な魔物がはこびる道を進んでいける勇気があるのなら……な。」

「なっ……なっ……。」

 プルプルと体を震わせる彼に背を向け、集まっていた人間達に私は声をかけた。

「今言ったようにこの街では、人間の国での身分は通用しない。貴族であろうが国王であろうが、ただ一人の人間として扱う。元の身分を悪用され、理不尽を被った人は直ぐにこの街を管理してる魔族に相談すること……わかったな?」

 すると、私の言葉にご飯をもらうために集まっていた人間達は少しせいせいしたような表情で頷いた。

 みんなの前で赤っ恥をかいた小太りの貴族語りの彼は、何も言い返すことができず、ただ拳を握りしめて悔しそうに体を震わせていた。
 
 
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