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第三章 魔族と人間と

第189話

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「ん……んんっ?」

 ふと目を覚ますと、私はいつの間にか寝室のベッドの上で横になっていた。隣ではいつものようにノノが安らかに寝息を立てている。

「私は……確か……。」

 あれ?カミルと一緒にお風呂に入ってからの記憶が無い?いやでも、カミルにツガイってやつについて話を聞いた記憶はあるし。アスラが雌だっていうのも聞いた。

 だが、問題はそのあとだ。急にお湯の温度が熱くなったな……と思った次の瞬間からの記憶が無い。
 でも何か……大切なことを聞いたような気がする。

「………………ダメだ。思い出せない。」

 横になりながら思い出そうとしてみても、カミルが何を言ったのか思い出せない。

「こうなったら明日にでも聞いてみるか。」

 にしても……なんであんなに急にお湯の温度が上がったんだ?大規模な地殻変動でも無い限りあんなことにはならない筈なんだが。
 いや、それでもあんなに急激に温度が上がるのはあり得ないな。
 
「一応……ちょっとそっちの方はそっちで調べてみよう。」

 下手したら大惨事になりかねないからな。

 まぁそれも明日の王都攻めが終わってからだな。

 私は明日に備えて再び目を閉じ眠りにつくのだった。













「……ノル~…………ミ……ル~。」

 ゆらゆらと微睡みの中をさ迷っていると、私を呼ぶような声と共にゆさゆさと体を揺さぶられた。

「ん……ん?」

「くふふ、起きたかの~?寝坊助め。」

 目を開けると、私の前に悪戯に笑うカミルの顔があった。

「カミル?」

「うむ、妾じゃ~。」

「き、昨日……あの後何があったんだ?」

 体を起こした私はカミルに問いかける。

「くふふ、どこまで覚えておる?」

「アスラが雌だってとこまでしか思い出せないんだ。」

「そうかそうか、どうやらお主は妾の話を聞いていたら逆上せてしまったらしいからのぉ~。」

 やっぱり逆上せてたのか。

「風呂の温度が熱かったと思ったんだが……カミルは感じなかったか?」

「うむ、間違いなく熱かったと思うぞ?なんせポコポコと沸騰しておったからな。」

 くつくつと笑いながらカミルは言った。

「沸騰!?なんでまた……。」

「どうやら妾の炎の魔力が漏れ出ていたらしくてのぉ~。それでお湯が沸いてしまったらしいのじゃ。いや~妾としたことがやってしまったのじゃ。」

 苦笑いしながらそう言うと、カミルは私に問いかけてきた。

「それで?体はどうじゃ?」

「あ、あぁ……体はなんともない。怠さもないしいつも通りだ。」

「うむ、それでこそ妾の血を受けた者よ。体は丈夫じゃな。……っとさて、お主の無事も確認できたことじゃ。妾は向こうで待っておるぞ。」

 そして部屋を後にしようとしたカミル。私は彼女の事を呼び止めた。

「あっ、ちょっと待ってくれ。」

「む?なんじゃ?」

「その……何か大事なことをカミルに言われた気がしてならないんだが。昨日……何か私に言ったか?」

 そう問いかけると、カミルは一瞬ポカンとした表情を浮かべる。しかし、次の瞬間には面白そうに笑い始めた。

「くっふふふ、さぁの~?何か言ったかの~?妾も覚えておらんのじゃ。」

 そう口にすると、カミルは私の方に近寄ってくる。そして、間近まで来ると悪戯な笑みを浮かべながら私の耳元で囁いた。

「何を言ったのか思い出せるように、お互いに努力しようではないか。のぉ?」

 そして最後に私の耳にふ~っと熱い吐息を吹き掛けると、彼女は足早に部屋を後にして行った。

「なっなっ……なんなんだ?」

 耳に吹きつけられた熱い吐息の感触にゾクゾクと体を震わせていると……。

「ふぁ……うん……。」

 私の後ろでノノが目を覚ました。

「ハッ!?お師様!!カミル様に何か変なことされてませんか!?大丈夫でしたか!?」

 頭からピョコンと生えたアホ毛を揺らしながらノノが私に詰め寄ってくる。

「あ、あぁ……何もされてはないぞ。ただちょっと風呂で逆上せてしまってたらしい。」

「ホッ……安心しました。」

 安心したのか、ノノはホッと胸を撫で下ろした。

「さ、ノノはまず寝癖を直そうな。また今日も頭のてっぺんから出てるぞ?」

「ふえっ!?」

 私が指摘すると、ノノは頭の上でみょんみょん跳ねているアホ毛を手で押さえつけた。
 しかし、手を離すと……また勢い良くそのアホ毛が手の下から飛び出してきた。

 いつものことながら……この寝癖のアホ毛は凄いしぶといんだよな。櫛で髪をとかしても、何回もピョンピョン飛び出してくるんだ。

「ほら、ここに座って。寝癖直すぞ。」

「えへへ、お願いします!!」

 そして今日という一日が幕を開けたのだった。
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