生ける魔導書は人間になりたい。

しゃむしぇる

文字の大きさ
3 / 5

第3話 補助魔法万歳

しおりを挟む
 さっきの魔物の記憶から得た情報通りに道を進んでいるとようやく木々を抜けた先に街が見えてきた。だがしかし、ここで新たな問題が発生する。

「はぁ‥はぁ‥つ、疲れたのじゃ。」

 森の中を歩き続けていたせいで足がまるで鉛のように重く感じる。いつもは自分で歩くことなんてなかったからこんな経験は初めてだ。

「そういえば自分に補助魔法をかけるのを忘れておったの。」

 今まで自分にかけていた魔法は劣化防止の魔法ぐらいだった。今までカールにかけていた補助魔法の中から使えそうなやつをいくつか自分にかけるとしようかのぉ‥
 
「まずはこれじゃの、無尽蔵 エネルギーストック。」

 魔法を詠唱し終えると先ほどまで苦しかった息がすぐに楽になり、体も軽くなり始めた。この魔法は詠唱にもある通り無尽蔵に体にエネルギーを作り蓄える魔法だ。しかもそのエネルギーの供給源は空気中に漂っている魔素だから自身の魔力切れなどを心配する必要もない。
 まぁ、魔力切れなんぞ儂とは無縁のものじゃがの。

「お次は‥‥」

 そして使えそうな補助魔法をふんだんに自分に使い、ようやく街へ向けて出発する準備ができた。足も体も万全だし、日が沈む前には街につかねばならんの。

「よし、では行くかの。」

 今度は軽い足取りで再び街への道のりを進み始めるのだった。





 補助魔法をかけてからは整備されていない森の道でも足軽に進み、気が付けばもう街が目と鼻の先に迫っていた。

「案外あっという間じゃったな。補助魔法様様じゃのぉ。」

 カールとの長年の研究で出来上がった補助魔法に心底ほれぼれしながら歩いていると、街に入り口に着いてしまった。
 ここから先はカールの遺言にあった通りギルドとやらに向かい、カールの旧友のエルフに会わねばいけない。

「さてさて、まだ日も高いゆっくり街でも見物しながらギルドに向かうとしよう。」

 ギルドの場所はわからんがまぁ、歩いていればそれらしい建物もあることだろう。そして街に入り人通りの多い通りを歩いていると魔導書の時には見ることが叶わなかったいろいろな景色がそこにはあった。
 
「すんすん‥何やらいい匂いがするのぉ‥‥そういえばこの体は味覚を感じることはできるのかの?こうして嗅覚があるということは味覚もあってほしいがの。」

 もし、この体に味覚があれば今まで叶わなかった食事というものを堪能できるかもしれない。今までカールが美味しそうに食べていた物を眺めていることしかできなかったが‥この体ならもしかすると‥‥
 くふふ‥せっかく人間の体になったのじゃ、魔導書の体の時にはできなかったことをめいいっぱいやりたいのぉ。それがきっとカールの望みでもあるはずじゃ。
 上機嫌でいろいろな建物を眺めながら歩いていると、ふとある看板が目に付いた。

「冒険者‥‥ギルド?もしやあそこがカールの遺言にあったところかの?」

 その看板が掲げてある建物に近づくと中からゲラゲラと品のない耳障りな笑い声が聞こえてくる。なかなか、中に入り辛い雰囲気ではあるが‥‥儂には目的があるのでな。
 意を決し中へと入ると、ゲラゲラと笑っていた男たちの視線が一気に降りかかる。それを無視して進んでいると目の前に顔を赤く染めた男が立ちはだかった。

「おいおい嬢ちゃん、ここはガキが気軽に来ていい場所じゃねぇぞ~?」

「む‥‥失礼な奴じゃ。儂はこう見えてお主より長い時を生きておるぞ。」

 男の言葉にムッとし、少し強い口調で言い返すと目の前の男とその周りにいた男たちが一斉にゲラゲラと笑い始めた。
 正直やかましくてかなわない。

「ぎゃははは!!そ~んなな体で言われても説得力がねぇなぁ?」

「‥‥じゃと?言ってくれるのぉ小童こわっぱども。」

 男の言葉に少々頭に来たので一つ仕置きをくれてやることにしよう。人差し指を唇に当てて小声で詠唱をする。

「沈黙 サイレント」

「「「「「~~~~~~っ!?」」」」」

 詠唱を終えた直後、先ほどまでやかましい声で笑っていた男たちが一斉に口を押え、開かなくなった口にしどろもどろしている。

「口はわざわいの元じゃ。肝に銘じておくがよい小童ども。そもそも儂は、おぬしらに用はないのじゃ。」

 男たちを無視し、建物の奥へと進みサイレントの効果を受けていない女子おなごに声をかける。

「のぉ、主‥ここのギルドにエルフはおらんか?」

「ひっ!!え、エルフですか?それでしたら‥ぎ、ギルド長が‥」

「そんなに怯えずともよい。そ奴にこれを渡して来てはくれぬか?」

 怯えている様子だったので落ち着くよう促した後、アイテムボックスからあのカールの名前が刻まれたカードを取り出し彼女に渡した。

「え、あ‥は、はいっ!!ただいまっ」

 カードを受け取った彼女は慌てて二階へと駆けあがっていく。その様子を見守っていると儂の前に急に影ができた。
 後ろを振り返るとサイレントで口を封じられた男たちがこちらを睨み付けながら立っている。どうやらまだ仕置きが足りないらしいの。

「くっふふ‥‥なんじゃお主ら、まだ仕置きが足りぬのか?」

 煽るようにクスリと笑いながら問いかけると‥‥

「~~~~ッ!!」

 面白いぐらい簡単に挑発に引っかかった男の一人がその太い腕を振りかぶり殴りかかってくる。幼い少女のような外見をしている儂だが、そんなことはもう関係ないらしいの。
 男の拳が届く刹那ぽつりと囁くように詠唱をする。

「防壁 プロテクトフィールド」

 男の拳はぐしゃりと生々しい音を立てて突如儂を覆うようにして現れた魔力の壁に阻まれてしまう。その男は自分の拳を押さえてその場にへたり込み呻こうとしているようだが、声が出ずそれもかなわない。
 そして一人の男が攻撃したのを皮切りに剣や弓、槌など多種多様な武器を構えた男たちが魔力の壁に攻撃し始める。
 絶対に攻撃がこの壁を貫通してこないのを確信していたのであくびをしながらエルフのことを待っているとようやく、そ奴が金色の長い髪を振り乱しながら二階から降りてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

処理中です...