少年の脳を焼くリナさん

豚さん

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最終話 夏の余熱、初恋の鼓動  ~Sommer & Erste Liebe~

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夏の終わり、蒸し暑い午後の電車は、まるで生き物のように揺れていた。
窓ガラスに張り付くように景色が流れ、車内は汗と息遣いの熱気で満ちている。

少年は学校帰り、制服のシャツを湿らせながら吊り革にしがみついていた。
混雑に押され、薄い体は波に揉まれるように揺れ続ける。

その時、視界に差し込む一筋の明るさ。
彼女――リナおねえさん。

空港で出会ってから、まだそう経っていないのに、
まるで記憶の続きが勝手に再生されたかのように、そこに立っている。

白いブラウス、膝丈のスカート。
アッシュブロンズの髪が汗ばむ額に沿い、夏の光を帯びて揺れていた。

本を片手にした彼女は、急なブレーキに体を取られ、
ふわりと少年のほうへ傾いた。

「――ごめんなさい」

近くで聞くその声は、やわらかくて、すっと胸に刺さる。
リナの体温が、制服越しに静かに伝わってきた。
汗に濡れた世界の中で、その温度だけが特別で。

少年の心臓は、無意識にその鼓動を早める。
理由のわからない熱が、胸の奥でふくらんでいく。
目を逸らしたいのに、逸らせない。
名前をつけられない想いが、息の隙間にあふれた。

「大丈夫? ちゃんと掴まってて」

そう言って、リナの手が少年の腕をそっと支える。
指先が触れた場所だけ、夏とは別の季節が芽生えたように温かい。

こんな風に誰かの存在が心を占めるなんて――
少年は知らなかった。
自分でも知らなかった鼓動が、初めて居場所を主張してくる。

混雑も喧騒も消え、ただ目の前の存在だけが鮮やかになる。
彼女が息をするたびに、世界が色づいていく。

電車が駅に着き、波が引くように人々が動き出す。
支えられていた感覚が離れると、少年はわずかに息を吐いた。
掴みかけていた何かを、指の隙間からこぼしてしまった気がした。

リナが振り返り、微笑む。

「また会ったね、 kleiner Junge。気をつけて帰って」

その笑顔を見た瞬間、胸がぎゅっと痛んだ。
もっと話したい。
名前を呼んでほしい。
忘れられたくない。
そんな言葉たちが喉の奥で絡まり、声にならない。

少年は答えを飲み込み、目を伏せた。
胸の中に残った余熱が、夏の終わりより長く燃えていた。
その温度の意味を、まだ知らなくても――
もう後戻りはできなかった。
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