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10話 狂気の果実
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湯上がりの三人は、千秋の家のゲストルームへ案内された。
そこは「客間」というより、上質なホテルのスイートのような空間だった。
シャンデリアの灯りが天井をやわらかく照らし、窓辺のソファからは夜景が一望できる。
中央には三人が余裕で眠れるキングサイズのベッドがあり、白くふんわりとした寝具は、まるで雲に身を預けるような心地よさを約束しているかのようだった。
三人は用意されたおそろいの浴衣に着替えていた。
白地に淡い桜の模様が散らされ、普段の洋服とは違う趣を引き出している。
千秋は静かに座り、絵画のようなしとやかさを見せる。
葉月は帯をゆるめてベッドに転がり、憂は慣れない浴衣に落ち着かず、裾をいじっていた。
「へぇ、三人おそろいって、ちょっと修学旅行みたいだね」
葉月が軽く笑い、視線をベッドの端から端へ動かす。
「ねぇ、千秋ちゃんって普段どんな寝間着なの?」
問いに千秋は一瞬視線を泳がせ、頬をわずかに赤らめた。
「わ、私は……シンプルなネグリジェを。祖母が選んでくださったもので、長く愛用していますの」
「ネグリジェ……?」
葉月が少し驚き、憂も思わず笑いそうになる。
千秋は落ち着いた声で続けた。
「透けてはいませんわ。きちんとしたロングタイプです」
「なるほど、冷静だね」
葉月は小さく笑みを返し、肩をすくめて軽く強調した。
――将来の夢や好きなこと、恋愛の話まで、笑ったり照れたりしながら三人はベッドの上で語り合った。
夜の静けさの中で、少しずつ互いの親密さを確かめ合う。
葉月がスマホを掲げると、細い光が部屋を裂いた。
影が果実のように膨らみ、息づく。
外では風が鳴り、部屋の空気は少しひんやりしていた。
「ねぇ、今夜は“狂気の果実”の話をしてあげる」
葉月の声は静かで、どこか甘やかに響く。
憂は枕を抱きしめ、身をすくめる。
「こ、怖いのはやだよ……」
千秋は肩を寄せながら、小さく息を飲む。
「でも……少しだけ、聞いてみたいですわ……」
「その果実はね、夜の森でしか実らないの。
真っ赤で、甘くて、ひとくち食べると――夢の中で“本当の自分”に会えるのよ。」
葉月はライトをそっと揺らした。
壁に映る影が、まるで果実のように膨らんでは揺れる。
「夢の中では、古い館の一室に導かれるの。
そこには誰もいないはずなのに――かすかに、ピアノの音が響いている。
誰かが“あなたの名前”を奏でているみたいに。」
憂が小さく息をのむ。
「……名前を……?」
葉月はゆっくりとうなずいた。
「そう。でもね、その曲は途中で必ず止まるの。
鍵盤の上に“赤い果実”が置かれて、音がひとつ、壊れたみたいに濁るの。
その瞬間、弾いていた“誰か”が――笑うんだって。」
千秋が身をすくめ、囁くように言った。
「そ、それって……誰が弾いているんですの……?」
「わからない。
だけどね、聴いているうちに、自分がその“誰か”になっていく。
笑いながら泣いて、泣きながら笑う――まるで、自分が壊れていくのを喜んでいるみたいに。」
憂の瞳が、一瞬だけ光を帯びた。
まるで奥の方で別の誰かが覗いたような――けれど、それはライトの反射だったのかもしれない。
「次に目を覚ますと、部屋のどこかに“赤い果実”が置かれている。
まるで、“次の人”を待っているみたいに。」
ライトが一瞬赤く揺れた。
三人の顔が照らされ、その瞳の奥に不安と興奮が交じる光が宿る。
憂が震える声で問う。
「……それって……本当にあるの?」
葉月はわざと少し間を置いて、にこっと笑った。
「おしまーいっ!」
ぱち、とライトが消える。
闇の中で二人の悲鳴と笑いが重なる。
「もーっ、葉月姉!ほんとに怖いんだからっ!」
「心臓が止まるかと思いましたわ……!」
葉月はくすくす笑いながら、
「だって、ちょっとドキドキした方が楽しいでしょ?」と肩をすくめる。
スマホの画面が、ほんの一瞬だけ淡く光った気がしたが――
三人はもう気づかなかった。
部屋には笑い声と微かな果物の香り、そして遠くでかすかに響くピアノの残響だけが残っていた。
そこは「客間」というより、上質なホテルのスイートのような空間だった。
シャンデリアの灯りが天井をやわらかく照らし、窓辺のソファからは夜景が一望できる。
中央には三人が余裕で眠れるキングサイズのベッドがあり、白くふんわりとした寝具は、まるで雲に身を預けるような心地よさを約束しているかのようだった。
三人は用意されたおそろいの浴衣に着替えていた。
白地に淡い桜の模様が散らされ、普段の洋服とは違う趣を引き出している。
千秋は静かに座り、絵画のようなしとやかさを見せる。
葉月は帯をゆるめてベッドに転がり、憂は慣れない浴衣に落ち着かず、裾をいじっていた。
「へぇ、三人おそろいって、ちょっと修学旅行みたいだね」
葉月が軽く笑い、視線をベッドの端から端へ動かす。
「ねぇ、千秋ちゃんって普段どんな寝間着なの?」
問いに千秋は一瞬視線を泳がせ、頬をわずかに赤らめた。
「わ、私は……シンプルなネグリジェを。祖母が選んでくださったもので、長く愛用していますの」
「ネグリジェ……?」
葉月が少し驚き、憂も思わず笑いそうになる。
千秋は落ち着いた声で続けた。
「透けてはいませんわ。きちんとしたロングタイプです」
「なるほど、冷静だね」
葉月は小さく笑みを返し、肩をすくめて軽く強調した。
――将来の夢や好きなこと、恋愛の話まで、笑ったり照れたりしながら三人はベッドの上で語り合った。
夜の静けさの中で、少しずつ互いの親密さを確かめ合う。
葉月がスマホを掲げると、細い光が部屋を裂いた。
影が果実のように膨らみ、息づく。
外では風が鳴り、部屋の空気は少しひんやりしていた。
「ねぇ、今夜は“狂気の果実”の話をしてあげる」
葉月の声は静かで、どこか甘やかに響く。
憂は枕を抱きしめ、身をすくめる。
「こ、怖いのはやだよ……」
千秋は肩を寄せながら、小さく息を飲む。
「でも……少しだけ、聞いてみたいですわ……」
「その果実はね、夜の森でしか実らないの。
真っ赤で、甘くて、ひとくち食べると――夢の中で“本当の自分”に会えるのよ。」
葉月はライトをそっと揺らした。
壁に映る影が、まるで果実のように膨らんでは揺れる。
「夢の中では、古い館の一室に導かれるの。
そこには誰もいないはずなのに――かすかに、ピアノの音が響いている。
誰かが“あなたの名前”を奏でているみたいに。」
憂が小さく息をのむ。
「……名前を……?」
葉月はゆっくりとうなずいた。
「そう。でもね、その曲は途中で必ず止まるの。
鍵盤の上に“赤い果実”が置かれて、音がひとつ、壊れたみたいに濁るの。
その瞬間、弾いていた“誰か”が――笑うんだって。」
千秋が身をすくめ、囁くように言った。
「そ、それって……誰が弾いているんですの……?」
「わからない。
だけどね、聴いているうちに、自分がその“誰か”になっていく。
笑いながら泣いて、泣きながら笑う――まるで、自分が壊れていくのを喜んでいるみたいに。」
憂の瞳が、一瞬だけ光を帯びた。
まるで奥の方で別の誰かが覗いたような――けれど、それはライトの反射だったのかもしれない。
「次に目を覚ますと、部屋のどこかに“赤い果実”が置かれている。
まるで、“次の人”を待っているみたいに。」
ライトが一瞬赤く揺れた。
三人の顔が照らされ、その瞳の奥に不安と興奮が交じる光が宿る。
憂が震える声で問う。
「……それって……本当にあるの?」
葉月はわざと少し間を置いて、にこっと笑った。
「おしまーいっ!」
ぱち、とライトが消える。
闇の中で二人の悲鳴と笑いが重なる。
「もーっ、葉月姉!ほんとに怖いんだからっ!」
「心臓が止まるかと思いましたわ……!」
葉月はくすくす笑いながら、
「だって、ちょっとドキドキした方が楽しいでしょ?」と肩をすくめる。
スマホの画面が、ほんの一瞬だけ淡く光った気がしたが――
三人はもう気づかなかった。
部屋には笑い声と微かな果物の香り、そして遠くでかすかに響くピアノの残響だけが残っていた。
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