沈黙のういザード 

豚さん

文字の大きさ
12 / 255

12話 朝光の中の誓い

しおりを挟む
薄明かりが差し込むゲストルーム。
ふわりとした寝具に包まれ、憂はゆっくり目を開けた。

「……あれ、もう朝……?」

隣で千秋もまぶたを開け、のびを一つ。
二人は小さく微笑み合う。

だが、もう一人いるはずの葉月の姿が見当たらない。
憂は首をかしげる。

「葉月姉……どこ行ったのかな?」

その瞬間、部屋の奥からキャスターの音が静かに響いた。
扉が開き、葉月が現れる。黒と白のメイド服を身にまとい、腰のリボンはきちんと結ばれ、エプロンも整っている。
表情からはいつもの楽天的な雰囲気は消え、凛とした空気が漂った。

光に照らされた葉月の横顔は、まるで朝の光を受けた彫像のように凛々しく、背筋の一本一本まで凛として見える。
髪の束が肩に沿って整い、瞳は静かに輝き、覚悟と自信を宿していた。

キッチンワゴンの上には、湯気の立つカップ、無塩ナッツ、カットバナナ、紅茶がきちんと並んでいる――
まるで計算された芸術品のようだ。

「おはようございます、千秋お嬢様、憂様。
本日のアーリー・モーニング・ティーをお持ちいたしました」

憂は慌てて葉月の腕を軽く掴む。
心臓が早鐘のように打ち、驚きと期待が入り混じった。

「葉月姉……本当に冗談じゃないの? 昨日までのノリと全然違うし……」

葉月はゆっくりと視線を外し、真剣な口調で答えた。

「冗談ではありません」

千秋は静かに微笑む。
背筋を伸ばし、凛とした葉月の姿を見て落ち着いた声で告げる。

「……ええ、葉月さんは千秋家のメイド見習いとしてアルバイトに来てくださいました」

憂は息を呑む。
葉月の目には昨日の面影も残るが、それ以上に強い覚悟と決意が宿っている――まるで別人だ。

葉月はワゴンを部屋の隅に戻し、一礼する。
指先まで神経を行き届かせた所作は、朝の光に照らされて一層凛として見えた。

「では、失礼いたします、千秋お嬢様、憂様」

月明かりに照らされた背中には、静かに刻まれたメイドとしての責任と覚悟が映えていた。
その姿を見た憂の胸に、自然と尊敬と安心が混ざった感覚が湧き上がる。

憂はしばらく呆然としながらも、カップを手に取り紅茶の香りを深く吸い込む。
湯気の温かさが指先に伝わり、冷えた体の奥までじんわり温まった。
ほんの一口で、目覚めのぼんやりとした感覚が洗い流されるように引き締まり、頭も体もすっと覚醒した。

窓の外では初夏の朝の風が柔らかく舞い込み、葉月の背筋を吹き抜けるたびに、彼女の存在感が一層際立った。
空気に混ざる草木の香りや朝露の匂いが、憂の心まで清々しく染め上げる。

その空気の中で、憂は自然と小さく微笑み、今日一日の始まりに心を整えることができた。



朝の光が差し込む玄関ホール。
誕生日会の余韻を残したまま、憂は靴を揃えながら振り返った。

「……あれ? 葉月姉は?」

少し不思議そうに尋ねる憂に、控えていたメイドが静かに答える。

「葉月様は晩までアルバイトでございます」

その声の主は、控えめな雰囲気の涼香(すずか)だった。
淡い茶色の髪を後ろで整え、目線を低く保ちながら、穏やかに微笑む。
彼女の仕草は静かで、玄関ホールの柔らかな光に溶け込むようだった。

「そっか……」
憂は小さくうなずいたが、その表情にはわずかな寂しさが漂う。
吐く息がほんのり白くなり、胸の奥でぽつんと穴が空いたような気持ちがする。

その様子を察した千秋が、そっと一歩近づき、優しく声をかける。

「……憂さん、お帰りの車を手配してありますわ」

「え、でも……そんな、悪いよ」
憂は慌てて首を振る。

千秋は静かに微笑み、柔らかな目で憂を見つめる。

「もう準備してありますもの。帰るまでが誕生日ですわ」

憂は思わず笑みをこぼし、肩をすくめて小さくつぶやく。

「それ、遠足みたいだね……でも、お言葉に甘えようかな」

千秋はその照れ隠しを愛おしそうに受け止め、さらに微笑む。

「ふふ……ええ、どうぞ」

玄関に立つ涼香も、静かに頭を下げて微笑む。
手元の所作や仕草に控えめな丁寧さが感じられ、朝の光が三人を柔らかく包み込み、温かさが静かに満ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...