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7話 研修指導
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「はいはい、落ち着いてー!
皿は逃げないからー!」
教室は、戦場だった。
オムライスの試作品を並べる机、
メイド服のアイロン台、
紅茶のティーポットがひしめき、
人がぶつかるたびに悲鳴があがる。
「ひぃぃ! こぼれる! こぼれ――」
「だめー! テーブルが紅茶まみれになるー!」
「皆さん。落ち着きなさい」
千秋が指先で空気を切ると、
バタバタしていたクラスメイトたちが、
なぜかぴたりと静まる。
――さすがラスボス感。
「憂さん。あなた、こちらをお願いします」
指されたのは、練習中のメイド班3人。
みんな姿勢が少し丸くなり、
お盆を持つ手もぎこちない。
昨日までは教わるだけだったのに。
憂は深呼吸し、
少しだけ胸を張った。
「えっと……姿勢、少しだけこう。
肩の力を抜いて、背筋はまっすぐ」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。
千秋の声が、
憂の中にちゃんと根付いている。
「それと……お盆は斜めにすると飲み物が滑っちゃうから、
腕はこう、水平に。……そうそう」
「う、うわ……すごい、憂ちゃんっぽい……!」
「ぽいって何!?」
でも照れながらも笑みがこぼれる。
練習する3人の表情が、
少しずつ自信に変わっていくのがわかった。
「たしかに……憂の言うとおりにしたら、
安定するかも」
「うん、これなら走っても大丈夫そう!」
「走らないで!?」
「走らないでくださいね!?」
千秋が二度言った。
そして小さな咳払い。
「憂さん」
「な、なに?」
「よくやりましたわ。
その調子で、他の子たちもお願いします」
「う、うん!」
ほめられた。
指に少しだけ残っていた緊張がほどける。
少し離れたところにいた料理担当の男子も、
憂のほうを見てニヤニヤしている。
「やっぱ御陵ってメイドっぽいよな~
雰囲気がちがう」
「本物だからな……」
(本物って言うなぁぁ……!)
でも――悪い気はしなくて。
「葉月姉にも、今日帰ったら報告しないと……」
ぽつりとつぶやいてから、
ちょっとだけ胸が熱くなる。
「御陵さん!」
ふいに千秋の声。
素早く振り向くと――
「……笑ってますわよ?」
「へっ……?」
「教える側の顔になっていますわ。
その顔……とても良いです」
一瞬言ってから、
千秋はあからさまに赤くなって目をそらした。
「な、なに言わせるんですの! 忘れなさい!!」
「いやいや千秋が言ったんでしょ!?」
その可愛い混乱を見て、
クラスメイトたちまでクスクス笑い出す。
「お二人付き合ってるの?」
「お似合いすぎない?」
「メイド喫茶より尊いんだが」
「ち、ちがっ……!」
「違いませんわ!」
「千秋ちゃんっ!!?」
憂の耳まで真っ赤になる。
やがて、教室の空気が少し落ち着いた頃。
「御陵さん、こっちも」
呼ばれて行くと、
今度は紅茶の味見係を頼まれた。
カップを受け取り、一口。
「……ちょっと薄いかも」
「やっぱり? 難しい~!」
「でも大丈夫。
あと30秒置くだけで変わるよ」
「さすが! 頼れる!」
小さな成功と、小さなありがとうが
教室のあちこちに灯り始める。
――気づけば夕焼け。
教室に残るのは、
疲れよりも、達成感と期待だった。
「今日も、よく働きましたわね。御陵さん」
「みんなのおかげだよ。
わたし一人じゃできないもん」
「強がりが上手になりましたわね」
「ちがうってば!」
でも、強がりじゃない。
それは本音。
帰り道。
夕日が影を長く伸ばす。
憂の影は、昨日より――
ほんの少し背が高く見えた。
皿は逃げないからー!」
教室は、戦場だった。
オムライスの試作品を並べる机、
メイド服のアイロン台、
紅茶のティーポットがひしめき、
人がぶつかるたびに悲鳴があがる。
「ひぃぃ! こぼれる! こぼれ――」
「だめー! テーブルが紅茶まみれになるー!」
「皆さん。落ち着きなさい」
千秋が指先で空気を切ると、
バタバタしていたクラスメイトたちが、
なぜかぴたりと静まる。
――さすがラスボス感。
「憂さん。あなた、こちらをお願いします」
指されたのは、練習中のメイド班3人。
みんな姿勢が少し丸くなり、
お盆を持つ手もぎこちない。
昨日までは教わるだけだったのに。
憂は深呼吸し、
少しだけ胸を張った。
「えっと……姿勢、少しだけこう。
肩の力を抜いて、背筋はまっすぐ」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。
千秋の声が、
憂の中にちゃんと根付いている。
「それと……お盆は斜めにすると飲み物が滑っちゃうから、
腕はこう、水平に。……そうそう」
「う、うわ……すごい、憂ちゃんっぽい……!」
「ぽいって何!?」
でも照れながらも笑みがこぼれる。
練習する3人の表情が、
少しずつ自信に変わっていくのがわかった。
「たしかに……憂の言うとおりにしたら、
安定するかも」
「うん、これなら走っても大丈夫そう!」
「走らないで!?」
「走らないでくださいね!?」
千秋が二度言った。
そして小さな咳払い。
「憂さん」
「な、なに?」
「よくやりましたわ。
その調子で、他の子たちもお願いします」
「う、うん!」
ほめられた。
指に少しだけ残っていた緊張がほどける。
少し離れたところにいた料理担当の男子も、
憂のほうを見てニヤニヤしている。
「やっぱ御陵ってメイドっぽいよな~
雰囲気がちがう」
「本物だからな……」
(本物って言うなぁぁ……!)
でも――悪い気はしなくて。
「葉月姉にも、今日帰ったら報告しないと……」
ぽつりとつぶやいてから、
ちょっとだけ胸が熱くなる。
「御陵さん!」
ふいに千秋の声。
素早く振り向くと――
「……笑ってますわよ?」
「へっ……?」
「教える側の顔になっていますわ。
その顔……とても良いです」
一瞬言ってから、
千秋はあからさまに赤くなって目をそらした。
「な、なに言わせるんですの! 忘れなさい!!」
「いやいや千秋が言ったんでしょ!?」
その可愛い混乱を見て、
クラスメイトたちまでクスクス笑い出す。
「お二人付き合ってるの?」
「お似合いすぎない?」
「メイド喫茶より尊いんだが」
「ち、ちがっ……!」
「違いませんわ!」
「千秋ちゃんっ!!?」
憂の耳まで真っ赤になる。
やがて、教室の空気が少し落ち着いた頃。
「御陵さん、こっちも」
呼ばれて行くと、
今度は紅茶の味見係を頼まれた。
カップを受け取り、一口。
「……ちょっと薄いかも」
「やっぱり? 難しい~!」
「でも大丈夫。
あと30秒置くだけで変わるよ」
「さすが! 頼れる!」
小さな成功と、小さなありがとうが
教室のあちこちに灯り始める。
――気づけば夕焼け。
教室に残るのは、
疲れよりも、達成感と期待だった。
「今日も、よく働きましたわね。御陵さん」
「みんなのおかげだよ。
わたし一人じゃできないもん」
「強がりが上手になりましたわね」
「ちがうってば!」
でも、強がりじゃない。
それは本音。
帰り道。
夕日が影を長く伸ばす。
憂の影は、昨日より――
ほんの少し背が高く見えた。
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