沈黙のういザード 

豚さん

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18話 家族と呼べる日 ― 姉妹の誇り ―

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 控え室から少し離れた廊下。
 メイドスタッフが慌ただしく往来し、
 パーティホールの準備が最終段階に差し掛かっていた。

「葉月さん!そちらの飾り、こちらへお願いします!」

「はぁいっ!……ってこれ、トナカイの角ひっかかるってばぁ!」

 今日の葉月は――黒いメイド服ではなく、キュートなトナカイコスチューム。
 赤い鼻まで付けられ、少し恥ずかしそうだ。

「ふ~……似合ってるかなぁ……?」

「ええ、とてもお似合いでございますよ、葉月さん」

 穏やかな声でそう告げたのは、六地蔵家の老執事・小野。
 白髪混じりの髪をきちんと撫で付け、穏やかな笑みを湛えている。

「憂様にも、後ほどお披露目して差し上げてください。きっと、お喜びになります」

「は、はいっ!絶対見せます!」

 葉月は照れ笑いしつつ駆けていく。

 ――そのとき。

「ただいま、菊子」

「まあ……あなた。お疲れ様ですわ」

 廊下の向こうで手を繋いで現れたのは、六地蔵家当主と夫人。千秋の両親。

 ふたりは――ペアのサンタクロース衣装を身に纏っていた。

 旦那は深紅のロングコートに金の縁取り。
 肩までボアの乗った完璧スタイル。
 クールな顔立ちのままサンタ帽をかぶる姿は、むしろモデルのように映える。

 一方の菊子は――
 スカート丈が危険なほど短い、大人のサンタドレス。
 胸元のファーがふわりと揺れるたび、視線の置き場に困るほど華やかでセクシーだった。

「悪い、手が勝手に」

 旦那は涼しい顔のまま、菊子の腰へそっと手を添えた。

「ふふ……コスプレは楽しいですわね、あなた?」

「たまにはいい。……君が楽しそうだから」

「まあ、もう。そんなこと言って……」

 菊子の頬がわずかに紅潮する。

「……千秋に見られたら怒られますわよ?」

「配慮はしている」

(これで……?)

 周囲のメイド一同の心の中で静かにツッコミが入った。

「今日は……娘の晴れの舞台ですもの。わたくし、泣いてしまうかもしれませんわ」

「泣けばいい。あの娘は誇るべき子だ」

 短く、それでいて深い愛情の言葉。

「憂さんの演奏も、楽しみですわね」

 穏やかな声に、隣の男は小さく頷いた。

「あの子も強い。……あの人の音を、ちゃんと受け継いでる」

「まあ……惚れてしまいました?」

「娘の親友だ。失礼はしない」

 クール筆頭。
 しかしその瞳には、確かな敬意が宿っていた。

「あなた、そうやって素直じゃないところ……千秋そっくり」

「父親譲りだろう」

「ご自覚があって安心しましたわ」

 菊子はくすりと笑い、旦那はわずかに目をそらす。

 だが――
 絡めていた指だけは、もう離さなかった。

「ほんと仲良しだなぁ~……」

 葉月は遠くで眺めながら赤鼻をぴこぴこさせ、

「う~ん、これは千秋ちゃんが怒るやつ……」

 メイド仲間と小声で囁き合う。

 パーティホールは
 愛と期待で、着々と満たされていく。

 ――その最中、

「葉月さん」

 菊子に呼ばれ、葉月は駆け寄り、一礼。

「パーティー責任者の葉月です。本日はご来館ありがとうございます」

「まあ。それではまるで他人ですわ」

「え?」

「あなたはもう家族同然。御陵家の“妹”さんでしょう?」

――菊子は笑う。
その言葉は、
“雪乃が憂の代わりにここにいる”ことを
すべて知った上での、静かな肯定。

 心臓が跳ねる。

「ですから――そんなにかしこまらないで?」

「で、ですが……今は職務中で――」

「旦那様は気にしませんわよね?」

旦那を見る。

「構わん。自然でやりなさい」

「あなたの役目は一つだけ」

 菊子は真っ直ぐに言った。

「雪乃さんを――支えてあげて」

 その言葉に、葉月の胸が熱くなる。

「……はい。あたしは……雪乃の妹、です」

「ふふ。それが一番似合っていますわ」

 菊子は満足げに微笑み、まるで本当の娘を見るような眼差しで続けた。

「安心なさい。憂さんがどなたの身体にいても――雪乃さんは雪乃さん。
 わたくしたちは、ずっとそう呼びますわ」

 その言葉の奥に、葉月の存在を尊重する深い配慮が染む。

「では、控室へ行ってさしあげて。そろそろ――心細くしている頃でしょう?」

「……はいっ!行ってきます、奥様!」

 自然と出た言葉。葉月は自分でも驚くほど誇らしかった。

「行ってらっしゃい、葉月さん」

 旦那も短く、しかし確かな声で告げる。

「――雪乃君と憂君を頼んだ」

 その声に、“憂”と“雪乃”をどちらも大切に想う気持ちが宿っている。

「はい旦那様!!」

 葉月はトナカイの赤鼻を揺らしながら走り出した。

 守るべき“姉妹”の元へ。
 愛と信頼を背負って――。
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