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(十四)
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想重郎は、お菊が作りだした竜胆の中で、夢の世界の外枠を固める作業を始める。
その作業をしている間も、二人はお互いの儚き体を慰めあっていた。
唇を吸い、胸をこね回し臀部をさする。
彼は作業を終えた後も、すぐには二人のやりとりには介入せず、夢の主のしたいように任せた。
お菊に押し倒され、組み敷かれた竜胆の中で、高みの見物としゃれこむ。乳房を両手で覆い隠して恥じらう竜胆を彼女は真剣に見つめる。
「竜胆、こたびの任務が終わったら、二人であの男のお供役を買って出ましょう」
「あの男……千之助様のこと?」
竜胆の口から、鈴虫が聞いたという男の名前がこぼれ落ちた。
「様などつける必要はありません。あんな男!」
吐き捨てるようにお菊は言う。
「私が術を使ってやらねば、醜い達磨だったではありませんか! それなのに、あなたを叱り飛ばすなんて! 特別な術を使えるからと得意になって! お頭の血をひいているからといい気になって!」
強い口調でまくしたてる。
「二人で里を出るには、任務を利用するしかないもの。大丈夫。あの無能な男から姿をくらますなんて、赤子の手を捻るようなものよ」
彼女が自信ありげに頷く。
「二人でどこか遠い国へ逃げましょう。追手はかかるかもしれないけれど、私とあなたなら、きっと逃げきれる」
そこまで言って、お菊の顔が曇る。
「ねえ、竜胆。あなた、まさかあの男が好きだったりするの? 想いをよせていたりしないわよね?」
すがるように言いながら、小柄な少女に少しでも快楽を感じてもらおうと、手と舌を少女の体に懸命に這わせる。
彼女の不安を手に取るように感じとり彼は竜胆の中で笑った。
これは使える。
いよいよ想重郎が、本領を発揮する時がきた。
二人の存在を風景と同じようにしっかりと確立させると、夢人竜胆の操縦を、お菊の意識から奪い取る。
「お菊ねえさんは、あたしのことを愛してくれているの?」
これまでのか細い声ではなく、風鈴のような心地よい声を、彼女に耳元で聞かせる。
お菊の顔が、ぱあっと華やいだものになり、竜胆の肌から顔をあげる。
「ええ。もちろんよ。この世で、いいえ、あの世をいれたって私以上にあなたを愛おしく思っている者はいないわ。ねえ、あなたは私のことをどう思っているの?」
不安げというよりも、明らかに期待する表情で問う。
「……私もお菊ねえさんが、お菊ねえさんだけが好き。ねえさんと二人だけで生きていきたい」
「ああ、竜胆!」
彼女の夢は、心は、竜胆を操る想重郎の意のままに導かれていく。
感極まったお菊が、竜胆の口を吸おうと唇を寄せてくる。
それを彼は、竜胆の細く白い指を押し当てて押しとどめる。
「でも、一夜衆にいるかぎり私たちは結ばれないよね」
想重郎が噂に聞いた一夜衆は、夫婦になるものを長が決める習わしらしい。
そうやって諜報活動に便利な姿を手にいれてきた。ふさわしい者がいなければ、里の外から攫うこともする。不適応と思われるものが現れれば排除もする。
そうであるならば、任務の上でのことならばともかく、里の女同士の恋慕など許されるわけがない。
表情を曇らせたお菊がなにかを言うより早く、竜胆の唇は言葉を紡ぐ。
「ねえさんは逃げると言ったけれど、あたしは難しいと思うの」
彼女も本当はそう思っていたのだろう。難しい顔のまま、竜胆の言葉を否定しない。
「もっといい方法があるの」
「え?」
「……一夜衆が滅べばいい」
逃げる以上に無茶なことを言っているのだが、すでに竜胆の口から発せられる彼の言葉に魅了されているお菊は、そのことに気づけない。
真剣な面持ちで竜胆の口からあふれでる言葉に耳を傾ける。
「一夜衆はお頭の存在で成り立っているよね。お頭がいなくなれば一夜衆は存続できない。もちろん、今のお頭が死んでも、代わりがいる。ならば、その代わりがいなくなったなら?」
彼女が唾を飲み込むのが、のどの動きでわかる。
「殺しましょう。あの男を」
竜胆は……想重郎はにんまりと笑ってそう言った。
その作業をしている間も、二人はお互いの儚き体を慰めあっていた。
唇を吸い、胸をこね回し臀部をさする。
彼は作業を終えた後も、すぐには二人のやりとりには介入せず、夢の主のしたいように任せた。
お菊に押し倒され、組み敷かれた竜胆の中で、高みの見物としゃれこむ。乳房を両手で覆い隠して恥じらう竜胆を彼女は真剣に見つめる。
「竜胆、こたびの任務が終わったら、二人であの男のお供役を買って出ましょう」
「あの男……千之助様のこと?」
竜胆の口から、鈴虫が聞いたという男の名前がこぼれ落ちた。
「様などつける必要はありません。あんな男!」
吐き捨てるようにお菊は言う。
「私が術を使ってやらねば、醜い達磨だったではありませんか! それなのに、あなたを叱り飛ばすなんて! 特別な術を使えるからと得意になって! お頭の血をひいているからといい気になって!」
強い口調でまくしたてる。
「二人で里を出るには、任務を利用するしかないもの。大丈夫。あの無能な男から姿をくらますなんて、赤子の手を捻るようなものよ」
彼女が自信ありげに頷く。
「二人でどこか遠い国へ逃げましょう。追手はかかるかもしれないけれど、私とあなたなら、きっと逃げきれる」
そこまで言って、お菊の顔が曇る。
「ねえ、竜胆。あなた、まさかあの男が好きだったりするの? 想いをよせていたりしないわよね?」
すがるように言いながら、小柄な少女に少しでも快楽を感じてもらおうと、手と舌を少女の体に懸命に這わせる。
彼女の不安を手に取るように感じとり彼は竜胆の中で笑った。
これは使える。
いよいよ想重郎が、本領を発揮する時がきた。
二人の存在を風景と同じようにしっかりと確立させると、夢人竜胆の操縦を、お菊の意識から奪い取る。
「お菊ねえさんは、あたしのことを愛してくれているの?」
これまでのか細い声ではなく、風鈴のような心地よい声を、彼女に耳元で聞かせる。
お菊の顔が、ぱあっと華やいだものになり、竜胆の肌から顔をあげる。
「ええ。もちろんよ。この世で、いいえ、あの世をいれたって私以上にあなたを愛おしく思っている者はいないわ。ねえ、あなたは私のことをどう思っているの?」
不安げというよりも、明らかに期待する表情で問う。
「……私もお菊ねえさんが、お菊ねえさんだけが好き。ねえさんと二人だけで生きていきたい」
「ああ、竜胆!」
彼女の夢は、心は、竜胆を操る想重郎の意のままに導かれていく。
感極まったお菊が、竜胆の口を吸おうと唇を寄せてくる。
それを彼は、竜胆の細く白い指を押し当てて押しとどめる。
「でも、一夜衆にいるかぎり私たちは結ばれないよね」
想重郎が噂に聞いた一夜衆は、夫婦になるものを長が決める習わしらしい。
そうやって諜報活動に便利な姿を手にいれてきた。ふさわしい者がいなければ、里の外から攫うこともする。不適応と思われるものが現れれば排除もする。
そうであるならば、任務の上でのことならばともかく、里の女同士の恋慕など許されるわけがない。
表情を曇らせたお菊がなにかを言うより早く、竜胆の唇は言葉を紡ぐ。
「ねえさんは逃げると言ったけれど、あたしは難しいと思うの」
彼女も本当はそう思っていたのだろう。難しい顔のまま、竜胆の言葉を否定しない。
「もっといい方法があるの」
「え?」
「……一夜衆が滅べばいい」
逃げる以上に無茶なことを言っているのだが、すでに竜胆の口から発せられる彼の言葉に魅了されているお菊は、そのことに気づけない。
真剣な面持ちで竜胆の口からあふれでる言葉に耳を傾ける。
「一夜衆はお頭の存在で成り立っているよね。お頭がいなくなれば一夜衆は存続できない。もちろん、今のお頭が死んでも、代わりがいる。ならば、その代わりがいなくなったなら?」
彼女が唾を飲み込むのが、のどの動きでわかる。
「殺しましょう。あの男を」
竜胆は……想重郎はにんまりと笑ってそう言った。
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