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#13 減りゆく名酒とすぐ酔う酒好き

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 日が沈みかけたときに響いた3人の乾杯という声は、日が沈み切る頃には談笑するものに変わっていた。

「でさ、うちの上司がさぁ~」

日が沈み切るどころか日付が変わっても、アズサはずっとそんなばかりを言っている。彼女の上司のことを知らないカラスマは、はあ、とか、大変そうだなあ、とか言うことしかできない。上司の愚痴に疲れたのかヒララギに至ってはスマホをいじっている。

「まじでさぁ、キツネって自分の種族のこと鼻にかけちゃってさぁ~。やんなっちゃうよぉ~」

ベロベロに酔っ払ったアズサの愚痴は止まらない。

「…とりあえずアズサは左手の酒を俺に渡してくれ。折角の名酒を独り占めするな」

約2時間にわたる愚痴に疲れ果て、カラスマは酒を飲もうとアズサに声をかける。

「ああ、はいはい」

彼女は素直に酒瓶を開放した。

「よしよし…ん?」

満足そうな顔で瓶を手に取ったカラスマは違和感を覚える。軽い。酒が入ってる瓶なんだから、もう少し重いはずでは?

「…あ!!!」

その疑問の答えはすぐに出た。カラッポなのだ。

「俺まだ2杯しか飲んでなかったのに!!」

なかなか手に入らない酒故に楽しみにしていたカラスマは憤りを感じる。

「は!?もう無くなったのか!?俺1杯しか飲んでないぞ!」

どうやらそれはヒララギも同じであるようだ。

「ありゃ~、どんまい」

しかしその思いはアズサに届かない。

「ふざけんな!!」

2人のドクロが酒関係なしに顔を赤くする。

「まあいいじゃないかぁ~」
1人のザシキワラシは、それよりも赤い顔でそう返した。
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