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一章~旅立ち~
11話 甘い考え
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そんなキドを横目に、グーシオンは手で口元を隠しながら欠伸をする。
「私の話はこれで終わりだけど、君はこれからどうするんだい?」
「これからって?」
「そんな半裸でパールバティに乗り込むわけじゃないだろう?」
「……」
グーシオンの鋭い指摘に言葉を詰まらせる。
そうだった…色々ありすぎてすっかり忘れていたが、自分の姿は冒険者のそれとはかけ離れているのだった。
上半身裸に、腰に巻いた薄汚れた毛皮一枚。
後回しにしていたこの問題をなんとかしなければ、もしかしてギルドに入る以前に、入国審査で引っかかる可能性もある。
キドはめんどくさそうな面持ちで、深い溜息をつく。
「と、とりあえず首都のパールバティに向かう道中で考えようかと…」
キドはグーシオンの顔色を伺いながら答えるが…
「甘い!甘過ぎるよ!服も無ければ入国の為のお金すら無い。そんなんで良いと思ってるのかい!?」
やはり、盛大なダメ出しを食らってしまった。
だがそれは仕方ないのだ。
誰一人人間が入ってくることのない山奥で、金を貯めろなど無理難題だ。
服にしたって、キドは手先が器用なわけではない。
その為、当然不恰好なものしか作れない。
「ダメだと思うけど…こればっかりは仕方ないし…」
項垂れるキドは、グーシオンの無茶な話に不貞腐れる。
しかしグーシオンも言い過ぎだと感じたのか、困ったような表情でキドの頭を撫でた。
心地いい感覚がキドの体を突き抜ける。
キドはそれを甘んじて受け、久しぶりの人肌を感じた。
するとグーシオンは母性をくすぐられたのか、普段の不敵な笑みではなく穏やかな表情をキドへ向けた。
グーシオンもそこまで鬼ではないらしい。
「まったく困ったやつだね。これは貸しにするから!分かった?」
そう言うと、どこからともなく男用の衣服と、小さな袋を取り出した。
衣服は動きやすそうな薄緑のシャツに茶色いスボン、そして膝あたりまである皮のブーツが用意されていた。
冒険者の服装にしては少し軽装な気もするが、ブーツに関しては大満足であった。
皮の衣服は基本的に高額なうえ、素材によっては値が何倍にも膨れ上がることがある。
例をあげるならユニコーンの毛皮だろう。
素材だけで一生暮らせる値がつくと聞いた事がある。
Sランクの魔物でありながら滅多に姿を表すことはなく、それにもかかわらず加工が非常に難しのだ。
また山の中で靴を履く習慣がなかったため、すっかり靴を履くことを忘れており、久しぶりに目にしたブーツを珍しいものでも見るかのように眺める。
ブーツ以外の服で皮を使っていないことに疑問は残るが、贅沢な考えだと思考を改めると、もう一つの贈り物に目を移す。
白をベースにして、葉を象った紋様の小袋である。
手で握り、手触りを確かめるとギチギチと金属の擦れ合う音がした。
袋の紐を緩め中を覗くと、そこには無数の硬貨が包まれていた。
見た所金貨が一枚、銀貨と銅貨が十枚ずつである。
あらかじめこうなることを予想してたような準備の良さに一瞬突っ込みたくなるが、手の中にある硬貨の重みにそんな事どうでもよくなった。
「ほ、本当に貰っていいのか?」
キドは心が宙にあるようにそわそわ興奮する。
肩の荷が下りた事に歓喜し、グーシオンをまじまじと見つめる。
「いいとも!持っていきなさい」
グーシオンはグッと親指を立て、キメ顔で白い歯を見せる。
すると薄暗かった辺りは元の明るさを取り戻し、夕方のように赤暗い空は、雲一つない青へと変わる。
「ありがとう。助かるよ。」
キドは今日一番の笑顔で親指を立て返した。
グーシオンの気まぐれに感謝する日が来るとは思ってもみなかった。
グーシオンに後光さえ見える気がする。
だがそれは一瞬の気の迷いであった。
この一連の流れはグーシオンなりの罠でもあった。
グーシオンの次の言葉に、有り難みは半減する。
「この貸しは大きいよね!ちょっとのことじゃ返しきれないんじゃないかなぁ~?この意味わかってる?」
キドの感謝の眼差しは、恐れへと変わる。
確かに、話が良過ぎる気がしたのだ。
悪魔である彼女が何の対価もなく、キドに温情を与えるはずがない。
何か裏があると分かりきっていたのに、目先の欲に囚われ、まんまと引っかかってしまった。
「俺に何をしろと?」
「えーと、一回だけ私のお願いを何でも聞いてよ。それでチャラにするからさ!」
『何でも』という言葉は、これまでのグーシオンを顧みると危険な気がする。
何をやらされるか分かったものではない。
グーシオンの事だから大衆の面前で裸踊りをしろとか言い出しそうだ。
しかし、ここでケチってパールバティには入れなければ目も当てられない。
大きくため息をついた後、キドは渋々首を縦に振った。
するとグーシオンはニヤニヤと笑みを浮かべ、小さくガッツポーズを作っている。
嫌な予感しかしない。
グーシオンの嬉しそうな表情がそれを物語っていた。
「じゃ、そろそろ私は行くよ。また会う時を楽しみに待ってる!」
キド自身全く楽しみではないが、グーシオンの言葉にピクリと体が反応した。
数日は一緒にいてくれるものだと思っていたからだ。
だがあっさり登場し、あっさりと去ろうとしている行動はグーシオンらしいと言えばそうだと言えるが少し驚かされた。
グーシオンはキドに手を振りながら、三年前と同様に霧のような物へ霧散して消える。
手際のいい去り際に感嘆しながらも、残されたキドはぽりぽりと頭を掻き、気を失ったナーデラルのもとへ向かう。
「ナーデラル!おーい!」
キドは声を掛けるが、一向に返事が返ってくる様子はない。
体を軽く揺さぶってもみたが、グルルと呻き声を上げて顔をしかめる。
「一人で行くしかないかな…」
そう言い、キドはナーデラルの体を優しく撫でてやると、自分の体を山の麓へと向けた。
そしてキドは一人、残りの獣道を歩み進めるのだった。
「私の話はこれで終わりだけど、君はこれからどうするんだい?」
「これからって?」
「そんな半裸でパールバティに乗り込むわけじゃないだろう?」
「……」
グーシオンの鋭い指摘に言葉を詰まらせる。
そうだった…色々ありすぎてすっかり忘れていたが、自分の姿は冒険者のそれとはかけ離れているのだった。
上半身裸に、腰に巻いた薄汚れた毛皮一枚。
後回しにしていたこの問題をなんとかしなければ、もしかしてギルドに入る以前に、入国審査で引っかかる可能性もある。
キドはめんどくさそうな面持ちで、深い溜息をつく。
「と、とりあえず首都のパールバティに向かう道中で考えようかと…」
キドはグーシオンの顔色を伺いながら答えるが…
「甘い!甘過ぎるよ!服も無ければ入国の為のお金すら無い。そんなんで良いと思ってるのかい!?」
やはり、盛大なダメ出しを食らってしまった。
だがそれは仕方ないのだ。
誰一人人間が入ってくることのない山奥で、金を貯めろなど無理難題だ。
服にしたって、キドは手先が器用なわけではない。
その為、当然不恰好なものしか作れない。
「ダメだと思うけど…こればっかりは仕方ないし…」
項垂れるキドは、グーシオンの無茶な話に不貞腐れる。
しかしグーシオンも言い過ぎだと感じたのか、困ったような表情でキドの頭を撫でた。
心地いい感覚がキドの体を突き抜ける。
キドはそれを甘んじて受け、久しぶりの人肌を感じた。
するとグーシオンは母性をくすぐられたのか、普段の不敵な笑みではなく穏やかな表情をキドへ向けた。
グーシオンもそこまで鬼ではないらしい。
「まったく困ったやつだね。これは貸しにするから!分かった?」
そう言うと、どこからともなく男用の衣服と、小さな袋を取り出した。
衣服は動きやすそうな薄緑のシャツに茶色いスボン、そして膝あたりまである皮のブーツが用意されていた。
冒険者の服装にしては少し軽装な気もするが、ブーツに関しては大満足であった。
皮の衣服は基本的に高額なうえ、素材によっては値が何倍にも膨れ上がることがある。
例をあげるならユニコーンの毛皮だろう。
素材だけで一生暮らせる値がつくと聞いた事がある。
Sランクの魔物でありながら滅多に姿を表すことはなく、それにもかかわらず加工が非常に難しのだ。
また山の中で靴を履く習慣がなかったため、すっかり靴を履くことを忘れており、久しぶりに目にしたブーツを珍しいものでも見るかのように眺める。
ブーツ以外の服で皮を使っていないことに疑問は残るが、贅沢な考えだと思考を改めると、もう一つの贈り物に目を移す。
白をベースにして、葉を象った紋様の小袋である。
手で握り、手触りを確かめるとギチギチと金属の擦れ合う音がした。
袋の紐を緩め中を覗くと、そこには無数の硬貨が包まれていた。
見た所金貨が一枚、銀貨と銅貨が十枚ずつである。
あらかじめこうなることを予想してたような準備の良さに一瞬突っ込みたくなるが、手の中にある硬貨の重みにそんな事どうでもよくなった。
「ほ、本当に貰っていいのか?」
キドは心が宙にあるようにそわそわ興奮する。
肩の荷が下りた事に歓喜し、グーシオンをまじまじと見つめる。
「いいとも!持っていきなさい」
グーシオンはグッと親指を立て、キメ顔で白い歯を見せる。
すると薄暗かった辺りは元の明るさを取り戻し、夕方のように赤暗い空は、雲一つない青へと変わる。
「ありがとう。助かるよ。」
キドは今日一番の笑顔で親指を立て返した。
グーシオンの気まぐれに感謝する日が来るとは思ってもみなかった。
グーシオンに後光さえ見える気がする。
だがそれは一瞬の気の迷いであった。
この一連の流れはグーシオンなりの罠でもあった。
グーシオンの次の言葉に、有り難みは半減する。
「この貸しは大きいよね!ちょっとのことじゃ返しきれないんじゃないかなぁ~?この意味わかってる?」
キドの感謝の眼差しは、恐れへと変わる。
確かに、話が良過ぎる気がしたのだ。
悪魔である彼女が何の対価もなく、キドに温情を与えるはずがない。
何か裏があると分かりきっていたのに、目先の欲に囚われ、まんまと引っかかってしまった。
「俺に何をしろと?」
「えーと、一回だけ私のお願いを何でも聞いてよ。それでチャラにするからさ!」
『何でも』という言葉は、これまでのグーシオンを顧みると危険な気がする。
何をやらされるか分かったものではない。
グーシオンの事だから大衆の面前で裸踊りをしろとか言い出しそうだ。
しかし、ここでケチってパールバティには入れなければ目も当てられない。
大きくため息をついた後、キドは渋々首を縦に振った。
するとグーシオンはニヤニヤと笑みを浮かべ、小さくガッツポーズを作っている。
嫌な予感しかしない。
グーシオンの嬉しそうな表情がそれを物語っていた。
「じゃ、そろそろ私は行くよ。また会う時を楽しみに待ってる!」
キド自身全く楽しみではないが、グーシオンの言葉にピクリと体が反応した。
数日は一緒にいてくれるものだと思っていたからだ。
だがあっさり登場し、あっさりと去ろうとしている行動はグーシオンらしいと言えばそうだと言えるが少し驚かされた。
グーシオンはキドに手を振りながら、三年前と同様に霧のような物へ霧散して消える。
手際のいい去り際に感嘆しながらも、残されたキドはぽりぽりと頭を掻き、気を失ったナーデラルのもとへ向かう。
「ナーデラル!おーい!」
キドは声を掛けるが、一向に返事が返ってくる様子はない。
体を軽く揺さぶってもみたが、グルルと呻き声を上げて顔をしかめる。
「一人で行くしかないかな…」
そう言い、キドはナーデラルの体を優しく撫でてやると、自分の体を山の麓へと向けた。
そしてキドは一人、残りの獣道を歩み進めるのだった。
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