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不憫過ぎる
しおりを挟むニナがボソボソとアーサーに語りかける。ニナはこういう悲劇に弱いのだ。
「え、庭師さん不遇過ぎません……?
え、この平民街で育って、豚の串焼き食べたことないのですか?
平民の伝統料理ですよ?生まれて三番目くらいにはよく食べますよ?え?」
「ニナ、それ以上言わないでくれ。さすがの僕でも涙が出そうだ」
平民であれば誰でも享受できる経験すらできずに育ったネオに同情が集まる。
イブはイブで、どこでも人目を気にせねならない容姿で、自由には遊べない。
ローブから顔を出すことさえ許されない二人が、路地裏から遠目に市場を覗いてクスクス笑い合っている。
「あの透明の花は何?ネオ」
「ガラス細工ですね。僕は触ったことはありませんが」
「見には行けないわよね」
「聖女様も僕も、目の色がどうしても目立ちます。
しかも僕はここで育ってるので、意外と顔が知られてて。
顔を隠しても確実にバレます」
イブが顔を上げて、背後に立っているネオを見上げる。
「ふふっ、私たち、生きにくいわね」
卑屈にならないその柔らかさにネオも口元が緩む。
「ここから見るだけでも楽しいわ」
「そうですね。僕も昔からずっと見ているだけです」
慎ましい二人がほのぼのしている様子に、ニナは黙っていられなかった。わなわなと握った拳を震わせる。
「殿下!」
「ニナ、今日は呼び方気をつけてって!」
「あ、アーサー!二人に市場をもっと楽しんでもらいましょう!」
ニナがあまりに可哀想な二人に闘志を燃やした。人のためにメラメラ昂ぶるニナがアーサーのツボだ。アーサーがパチンと指を鳴らしてニナを指さす。
「よし、じゃあ僕に考えがあるよ。お手をどうぞ、ニナ」
「え?」
「我らが友人たちのために、踊ろう?僕とニナならできるよ」
「ほ、本気ですか?!アーサー!」
「もちろん。僕が本気じゃない時なんてないからね」
アーサーがニナの手を取る。ニナもギラついた目でアーサーの手を握り返した。広場からは愉快な音楽が鳴り響き続けている。
「わかりました……イブのためです。やってやりましょう!」
昂るニナににんまり笑ったアーサーが広場を目指して歩き出す。
「庭師君、僕たちが今から皆の目を引くから」
「目を引く?」
「その間にささっと見ておいで。聖女の安全は頼むよ」
ネオは首を傾げたが、イブはクスッと笑った。
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