34 / 85
ひと時の夢
しおりを挟む
以前、ネオとイブが隠れていた路地裏の壁の間の隙間に、アーサーはニナを引っ張りこむ。
ニナを壁に押し付けたアーサーは、アーサーの機嫌を伺う黒い瞳を見下ろした。あきらかに機嫌が悪くなったアーサーに少し怯える瞳が殊更に愛しい。
「ニナって世界で一番いい子だけど、悪い子だよ」
「どういうこと、ですか?」
アーサーはニナの顔の横に手をついて、顔を寄せていく。アーサーの整った顔が迫り、ニナの胸が早鐘を打った。
「僕から逃げようとするなんて、悪い子だ」
「逃げようだなんて。アーサーのものではないと言っただけです」
「僕のものだよ?」
アーサーが細い目をさらに細めて、ニナの可愛い顔と距離を縮める。ニナは少しでも動けばくっついてしまいそうな唇を感じて、ぎゅっと目を瞑る。
「だ、ダメ、ダメです、アーサー」
「ほらまた、ダメなんて言うのは悪い子だよ」
「悪くありません。当然です。だって私は平民で殿下はンッ」
アーサーはニナに唇を押し付けて黙らせる。唇が離れて、ニナが目を開けるとアーサーの切れ長な細目が焼ききれそうな熱さで見つめてくる。
「な、なんてこと、するのですか」
くっついてしまった唇が燃えるように熱かった。ニナの顔に血が集まる。
「ずっと、こうしたかった」
ニナが刺さる視線から逃れようと顔を背けようとすれば、優しく顎を掴まれる。
「今は平民のアーサーだよ?」
「あ、アーサー、こんなのはダメ、あッ」
アーサーは再び唇を押し付けてニナの拒否を黙らせる。
ニナはアーサーの唇が熱くて、ダメダメと思いながら、嬉しさが湧いてしまうことに罪悪感が満ちていく。
「また……こんなのいけません」
アーサーがゆるゆるとニナの頬を撫でる。
「こんなのじゃ足りないよ。ニナもでしょ?」
長年聞き飽きているはずのアーサーの声なのに、ニナの耳が痺れた。アーサーはニナがアーサーを想っていると確信を持って、そう聞いて来る。
「ニナ、僕の大好きなニナ」
ニナだってずっとずっとアーサーを我慢している。
なのに、今日は平民だからを建前にその線をあっさり越えてくるなんて狡い。
でもニナだってずっと前からこうしたかった。
頬を撫でてくれるその愛しい手に、ニナは頬をすり寄せてしまう。
抗えない衝動。これが、恋だ。
「僕はニナが全部欲しいんだ。僕の妻になって欲しい」
目が潤むニナをアーサーは撫でまわして、唇に優しくキスを繰り返す。
「そんな馬鹿なことを何回言う気ですか」
「僕が本気じゃない時なんてないよ」
ニナは雨のように降り続けるキスに、背徳と喜びが交じり合う。
「怖いくらいに、知っています」
「僕はいつも本気で、今は平民だから、平民のニナにキスしてもいいんだ。
好きなだけ」
アーサーの細い目が弧を描くと、ニナも小さく頷いてしまった。
いけないけれども、欲しいのだ。
ニナも今だけ、平民ごっこの夢に酔っていたかった。
アーサーがニナの両頬を両手で挟み、狂おしい気持ちで包み込む。
「愛しいニナ、君を唯一愛してる」
ニナがアーサーの気持ちを受け取って目を瞑る。
何でも手に入るアーサーがどうしても手に入らない。
唯一、絶対に欲しいものがこの子だ。
ニナの唇を何度も味わって、アーサーはニナを強く抱きしめた。
ニナも今だけ、背に腕を回してしまう。今だけだ。
「どんな手を使っても。どんなに非道なことをしても」
抱き返された細い腕に、アーサーは誓いを立てる。
「愛しい君を手に入れるのは、絶対にこの僕だ」
裏路地の狭い隙間で、甘い口づけを繰り返したアーサーとニナは淡い夢に酔った。
ニナを壁に押し付けたアーサーは、アーサーの機嫌を伺う黒い瞳を見下ろした。あきらかに機嫌が悪くなったアーサーに少し怯える瞳が殊更に愛しい。
「ニナって世界で一番いい子だけど、悪い子だよ」
「どういうこと、ですか?」
アーサーはニナの顔の横に手をついて、顔を寄せていく。アーサーの整った顔が迫り、ニナの胸が早鐘を打った。
「僕から逃げようとするなんて、悪い子だ」
「逃げようだなんて。アーサーのものではないと言っただけです」
「僕のものだよ?」
アーサーが細い目をさらに細めて、ニナの可愛い顔と距離を縮める。ニナは少しでも動けばくっついてしまいそうな唇を感じて、ぎゅっと目を瞑る。
「だ、ダメ、ダメです、アーサー」
「ほらまた、ダメなんて言うのは悪い子だよ」
「悪くありません。当然です。だって私は平民で殿下はンッ」
アーサーはニナに唇を押し付けて黙らせる。唇が離れて、ニナが目を開けるとアーサーの切れ長な細目が焼ききれそうな熱さで見つめてくる。
「な、なんてこと、するのですか」
くっついてしまった唇が燃えるように熱かった。ニナの顔に血が集まる。
「ずっと、こうしたかった」
ニナが刺さる視線から逃れようと顔を背けようとすれば、優しく顎を掴まれる。
「今は平民のアーサーだよ?」
「あ、アーサー、こんなのはダメ、あッ」
アーサーは再び唇を押し付けてニナの拒否を黙らせる。
ニナはアーサーの唇が熱くて、ダメダメと思いながら、嬉しさが湧いてしまうことに罪悪感が満ちていく。
「また……こんなのいけません」
アーサーがゆるゆるとニナの頬を撫でる。
「こんなのじゃ足りないよ。ニナもでしょ?」
長年聞き飽きているはずのアーサーの声なのに、ニナの耳が痺れた。アーサーはニナがアーサーを想っていると確信を持って、そう聞いて来る。
「ニナ、僕の大好きなニナ」
ニナだってずっとずっとアーサーを我慢している。
なのに、今日は平民だからを建前にその線をあっさり越えてくるなんて狡い。
でもニナだってずっと前からこうしたかった。
頬を撫でてくれるその愛しい手に、ニナは頬をすり寄せてしまう。
抗えない衝動。これが、恋だ。
「僕はニナが全部欲しいんだ。僕の妻になって欲しい」
目が潤むニナをアーサーは撫でまわして、唇に優しくキスを繰り返す。
「そんな馬鹿なことを何回言う気ですか」
「僕が本気じゃない時なんてないよ」
ニナは雨のように降り続けるキスに、背徳と喜びが交じり合う。
「怖いくらいに、知っています」
「僕はいつも本気で、今は平民だから、平民のニナにキスしてもいいんだ。
好きなだけ」
アーサーの細い目が弧を描くと、ニナも小さく頷いてしまった。
いけないけれども、欲しいのだ。
ニナも今だけ、平民ごっこの夢に酔っていたかった。
アーサーがニナの両頬を両手で挟み、狂おしい気持ちで包み込む。
「愛しいニナ、君を唯一愛してる」
ニナがアーサーの気持ちを受け取って目を瞑る。
何でも手に入るアーサーがどうしても手に入らない。
唯一、絶対に欲しいものがこの子だ。
ニナの唇を何度も味わって、アーサーはニナを強く抱きしめた。
ニナも今だけ、背に腕を回してしまう。今だけだ。
「どんな手を使っても。どんなに非道なことをしても」
抱き返された細い腕に、アーサーは誓いを立てる。
「愛しい君を手に入れるのは、絶対にこの僕だ」
裏路地の狭い隙間で、甘い口づけを繰り返したアーサーとニナは淡い夢に酔った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
38
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる