38 / 290
3 Cランククエスト
表情が硬くなった僕を、キャルが心配そうに見つめている。
「大丈夫、ほんとに」
僕は無理に笑ってみせた。と、キャルの背後から、エリナが苦い顔で僕を見つめている。
「いやあ、けどさっきの話は身につまされたな……。私は最初、透明になって、クオンくんたちを傍観してたから」
エリナはそう言って苦笑した。
何を言ってるんだ、この人は?
「何を言ってるんですか、エリナさん。エリナさんは、自分の命だって危険だったのに、キャルの首輪を外すのを手伝ってくれたじゃないですか。全然、違いますよ。それに、最初のメモ帳だって、自分の身だって明日をも知れない状況なのに、残しておいてくれた。あれがどれほど救いになったか――。エリナさんが信用できると思ったから、僕は一緒にいるんですよ」
僕の言葉を聞いて、エリナは安心したように息をついた。
「そっか……。それなら、よかった」
僕らは互いに微笑みあった。そしてキャルに向き直る。
「ごめんキャル、心配させて。ちょっと嫌なこと思い出しただけだから」
「うん……わたしは、クオンのこと信じてる」
キャルの眼が僕を見つめる。
その可憐な瞳に、吸い寄せられるように、僕も見つめ返した。
「よし、それじゃあ新たなクエストを見てみよう!」
エリナの掛け声で、僕らはギルド内のクエスト看板へと移動した。
クエスト看板を見ると、色々なクエストのメモがある。が、多くは常時クエストであるダンジョンのモンスター討伐だった。
その中で、キヘニ村の五角イノシシ駆除、というのがあった。
「お、これは五角イノシシじゃないか! これいいんじゃないか? ――難易度はCランク指定だけど」
「五角イノシシって、Dランクモンスターって言ってませんでしたっけ? それにあんなに稼ぎになるクエストが残ってるのも気になりますね」
僕の言葉を受けて、キャルが口を開く。
「ミリアさんに訊いてみる?」
「そうしようか」
僕たちは受付のミリアの処へと出向いた。
「あら、ブランケッツの皆さん! お久しぶりじゃないですか!」
相変わらずの美人エルフの笑顔だ。僕はメモを見せて、ミリアさんに訊ねた。
「このクエスト、どうして残ってるんですか? 五角イノシシは結構、いい稼ぎになるのに」
僕の問いに、ミリアが答える。
「ああ、それはブランケッツの皆さんが、この前倒したイノシシをイメージしてるからですね? ガールドさんに聞きましたけど、凄くいい状態でイノシシを持ちこんでるんですよ。角も牙も無傷、肉も焼けたり焦げたりせず、血抜きの状態で鮮度も落ちてない――こんな状態で持ってこれるパーティーって、そんなにいないんですよ」
そうだったのか。全ては偶然だけど。
「それに、この五角イノシシは『一文字』って名前のついてる、地域の中では有名な凶悪モンスターなんです」
「一文字? …って?」
「鼻の頭のところに、前に駆除しようとした剣士がつけた傷があるんです。けど、その剣士は逆に、それで殺されてしまった」
僕らは驚いて、顔を見合わす。
「一文字は巨大で強力なだけでなく、賢いんです。集団で駆除にくると、近くのスネバッツの森に逃げ込むんです。その森には魔物であるブリッツバット、そしてジャイアント・バイパーが数多く自生してます。冒険者パーティーは、一文字だけじゃなく、そのDランクモンスターの大群と戦うことを余儀なくされるんです。それで難易度が高く、誰も行ってくれないんですよね……」
ミリアはそこでため息をついた。
エリナが眼鏡を上げながら、口を開く。
「わ、私たちにも、ちょっと早いかな…?」
「そうですね、皆さんはまだEランクですので、もうちょっと経験を積んでれば、お願いもするんですが――」
ミリアはそこでため息をついた。
「キヘニ村はかなり遠く、そんな辺境まで行って危険を冒すより、近くの見知ったダンジョン潜りの方が安全なんですよね。それでそのクエストが残ってしまってるんですが……。実はキヘニ村では、農作業中の方が二人、一文字に食い殺されて大変な状態なんです。農作業をやめろとも言えないし、かと言って、人口の少ない村なので集団作業も難しい状況です」
どくん、と僕の胸が鳴った。
ランスロットにあんな事を言ったけど……僕自身はどうなんだ?
自分たちの身の安全を、やっぱり考えたいんじゃないのか?
一番助けてほしい人たちのところに行って、手を差し伸べるなんて――そんな、きれいごと、実行なんかできやしないんだ。
僕は、歯噛みした。
「―――よし、いいじゃないか! 行こう、クオンくん」
エリナの声に、僕は驚いて顔をあげた。
「な、なに言ってるんですか、エリナさん! 聴いたでしょ? 難易度Cランクのクエストで、僕らにはまだ危険だって――」
「けど、君は行きたいんだろう?」
エリナはそう言って微笑んだ。
「え? 僕が……?」
キャルも微笑む。
「うん。クオン、凄く苦しそうだった。行って、村の人たちを助けたいんでしょ? 見てて、すぐに判ったよ」
そう言うと、キャルとエリナは顔を見合わせて笑った。
「クオンくんは、判りやすいからな」
「クオンは……優しいから」
僕は微笑む二人を見つめた。
このクエストに行ったら、二人も危険にさらすかもしれない。――いや、きっと危険だ。
それなのに僕は……自分も貧弱だというのに、誰かを助けたいと思ってる。
僕はなんてバカなんだ。
「ごめん……僕は…村の人たちを助けに行きたいと思ってる」
「うん、いいと思う。ブランケッツの再始動に相応しいクエストだよ」
キャルはそう言って微笑んだ。エリナが明るい声を出す。
「それに、この一ヶ月で我々がどれだけ成長できたかを計る、いいクエストだ。やろう、クオンくん!」
「みんな……」
二人は頷いた。僕も頷く。
僕は、ミリアに向き直った。
「僕たち、このクエストを受けようと思います。やらせてください」
ミリアは少し目を丸くしてたけど、やがて優しい目つきに変わって僕らに言った。
「判りました、それではお願いします。けど、一つだけ約束してください」
「なんですか?」
「無理だ、危険だと思ったら、意地やプライドより命を優先してください。――これが、クエストを依頼する条件です」
ミリアの眼は、真剣に僕らを見つめていた。
「判りました。約束します」
僕らはそう言って、互いの顔を見て頷き合った。
*
キヘニ村は確かに遠い。
――が、ブランケッツ号の最速で行くと、一時間半くらいでついた。
仮に時速100kmだとしたら、150kmだったのだろうか?
なににしろ、移動速度の向上には目覚ましいものがあった。
「ここがキヘニ村か。……確かに、辺境だねえ」
山あいの村だ。平地の部分が少なく、狭い土地を段々畑にしている。
僕らは荷車を引きながら、村を廻る。と、一件の家の玄関に、黒い布がかけられていた。人の気配がある。
「入ってみますか」
その布を左右に分けて中に入る。
家の中には、大勢の人がいた。一斉に、入ってきた僕らに注目した。
* * * * *
読んでいただき、ありがとうございます。☆、♡、フォローなどをいただけると、とても嬉しいです。
あなたにおすすめの小説
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る
りーさん
ファンタジー
アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。
その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。
そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。
その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。
『土魔法はハズレ属性?』と追放された理系研究者、元素操作でダイヤモンドの剣を生成する。
TOYBOX
ファンタジー
「すべての属性に適性なし。持っているのは最底辺の『土魔法』のみ……。このゴミをさっさと追放しろ!」
異世界に転移した理系研究者の俺は、「ハズレ枠」として早々に国から追い出されてしまう。
だが、処刑の草原に降り立った俺は気づいた。
――土魔法の真の力。それは「土系成分(原子・分子)の完全操作」であることに!
前世の科学知識を駆使し、魔力で分子結合を操る俺は、不純物を排除した超高純度の「最強の剣」をいとも容易く錬成! さらには「ダイヤモンドの武具」や、自分専用の「空中要塞」まで爆速で造り上げてしまう。
一方、究極の錬成能力者を失った王様たちは、徐々に破滅へと向かっていき……?
これは「底辺」と馬鹿にされた理系男子が、物理チートで無双し、快適すぎる要塞ライフを満喫する逆転劇!
転生少年は、魔道具で貧乏領地を発展させたい~アイボウと『ジョウカ魔法』で恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
男(30歳)は、仕事中に命を落とし異世界へ転生する。
捨て子となった男は男爵親子に拾われ、養子として迎えられることになった。
前世で可愛がっていた甥のような兄と、命を救ってくれた父のため、幼い弟は立ち上がる。
魔道具で、僕が領地を発展させる!
これは、家族と領地のために頑張る男(児)の物語。