11 / 41
神獣ディーガル
しおりを挟む
やがてカムランがやってくると、アストリックスは手短にカムランの依頼の話を二人にした。
「――そういうわけで、お二人にも力を貸していただきたいのです。お二人は見たところ、かなりの魔力の持ち主です。きっと魔獣退治に大きな力になっていただけると思います」
アストリックスはそうレギア達に告げると、カムランの方を見てにっこり笑った。
「ぼくは……アストリックスさんがそう仰るなら、それを信じます」
戸惑いながらもカムランはそう言った。ヒーリィが無言でレギアの方へ視線を向ける。
「……気に入らないね」
レギアはぼそりと呟いた。
「わたくしの頼み事は、お気に障りましたか?」
「そうじゃない。気にいらないのは、その話だ。村に大勢人間がいながら、娘一人を犠牲にすることで自分たちは助かろうとしてる。あたしはそういう奴が反吐が出るほど嫌いなんだ」
苛立った様子を見せたレギアは、アストリックス達の方へ向き直って言った。
「ところで、あんたは何故、そいつに手を貸す? 聞いたところでは、あんたは無関係な人間だろう」
アストリックス微笑んでみせた。
「わたくしがお爺様から学んだ星光拳の教えの道義は『医武同現』。戦うことと癒すことを、ともに人のために使うということを信条としています」
「ハン、それであんたはノコノコと出てきて手を貸してやるわけかい。お人好しなことだ」
「それを、レギアさんにも助けていただきたいのです」
アストリックスは気を悪くすることもなく、真剣な顔でレギアを見つめた。レギアは呆れ顔を見せて、ため息をついた。
「判った。あんたには借りもある。一緒に行ってやる」
「ありがとうございます!」
アストリックスは深々と頭を下げると、その顔を上げてにっこりと微笑んだ。
夜営の後、アストリックスたちがカムランの村に着いたのはまだ昼前だった。
村は岩場の多い山岳地域のなかにあり、僅かな農地を果物や野菜の畑にしている様子が見て取れた。村に入るとカムランは一軒の家へとまっすぐに向かった。それは狭小な村にあってかなり大きな石造りの屋敷で、その周囲にはぐるりと石壁が張り巡らされていた。
石柱の間に鉄製の門扉があり、カムランは閉ざされた門に近づくと傍にあった鈴を鳴らした。しばらくすると傍の通用門が開き、男が姿を現した。カムランが二言三言何事か話すと、男は屋敷内に戻っていった。カムランはアストリックスたちに向きなおると、説明した。
「村長の家です。僕の姉も此処にいます」
「小さい村の割に、随分と豪奢な屋敷だ」
レギアの言葉に、カムランは言った。
「この村で採れる石は名品として有名なんです。村長の家は、それを使用してます」
やがて使用人らしい男に案内されて、三人は門の中へと入った。中庭が広がるなかで、三人の前に小太りした男が立っており、相好を崩して三人を迎え出た。
「どうも勇者の方々、よくぞおいでくださいました。私が村長のケルシュです。カムラン、こちらの皆さんがディーガル退治に尽力してくさるということで間違いないのだな?」
「そうです、村長」
カムランの返事を聞き、ケルシュ村長は口元には笑みを浮かべながら、上目遣いでアストリックスたちを見た。
「さてさて勇者様たちの協力はとても心強いことです。――が、少し私どもに実力のほどを見せていただきませんと。このグレグを相手に、少しお力の方をご披露願いたいのですが、よろしいですな」
口調こそ丁寧だが、完全な断定口調である。アストリックスがすっと前に出た。
「わたくしがお相手したしますわ。わたくしはアストリックス・ラナンと申します」
グレグと呼ばれた使用人が無言で前に出る。長身で、長い顔と細い眼をした男であり、その手には長剣を持っていた。二人が対峙した瞬間、グレグは唐突に剣を振りあげざまに気光弾を放ってきた。
アストリックスは顔色も変えず、右手でその光の弾を弾く。と、グレグは振り上げた剣で、袈裟がけに斬りつけてきた。
アストリックスは敏捷な動きでそれをかわす。グレグはさらに上から下から後退するアストリックスを追って剣を振った。防戦一方のように見えるアストリックスだったが、その顔に動揺はまったくなかった。
素早く動くアストリックスが、少し間をおいて立つ。まだ構えることもしていないアストリックスに対して、グレグの剣が振り降ろされアストリックスを真っ二つにした――かに見えた。その瞬間、アストリックスは僅かに体を開くだけの動きで剣をかわし、グレグの真横に入り身して懐に入り込んでいた。
目の前にアストリックスがいないことに気づき、グレグが横を見ようとした瞬間、グレグはそのまま口を大きく開き前のめりに倒れた。その腹部には、アストリックスの拳がめり込んでいたのだった。
アストリックスはケルシュ村長に目を向けて口を開いた。
「気当てで昏倒してますけど、しばらくしたら気づきますわ。ご心配ありません」
アストリックスはにっこりと笑った。
「彼女は、相当の使い手ですね」
ヒーリィがぼそりと呟いた。それを聞いてか聞かずか、ケルシュ村長は相好を崩してアストリックスたちに歩み寄った。
「いやいや、これは見事なものでした。どうも失礼いたしました、昼食の準備ができたようですので、改めてなかへお入りください」
ケルシュ村長はアストリックスたちを屋敷のなかへと誘った。屋敷内は広く、通された大きなテーブル席に三人はそれぞれ着席した。村長は改めて挨拶し、アストリックスたちも名を名乗った。その時、カムランを呼ぶ声がして皆、部屋の入り口へと視線を向けた。
「姉さん…」
そこに立っていたのは若い女性であり、カムランは走り寄っていった。
「姉さん、ディーガルを退治してくれる人を見つけてきたんだ。アストリックスさんだよ」
アストリックスが立ち上がり礼をすると、カムランの姉も深々と頭を下げた。
「シリルといいます。ここまで弟がお世話になりました。どうか、よろしくお願いします」
「カムラン、シリルは今までの緊張で疲れておる。奥の部屋でつもる話でもしてくるといい」
村長に言われ、カムランとシリルは奥の方へと消えていった。入れ替わりに男たちがどんどんと入ってきた。広間はすぐに男たちでいっぱいになった。
「皆の衆、聞いてくれ!」
ケルシュ村長が村の男に呼びかけた。
「ここにいる婦人こそ、名高い星光拳士を継いだお方だ。アストリックス・ラナンさんという。そしてそのお仲間のお二人もまた、ディーガル退治に協力してくれることになった」
おお…という驚きの混じったどよめきが、男たちの間で起きた。
「このグレグがまったく指一本触れられなんだ。実力のほどは確かじゃ。皆の者、今度こそ長きにわたるディーガルの支配を打ち破ろうぞ!」
おお! 男たちから決起の声が上がった。それと同時に食事が運び込まれてくる。男たちは酒を飲み、食事に食らいつく。美味しそうな湯気をたてる食事を、アストリックスも遠慮なく口にした。レギアはうろんな目つきで村長を見やった。
「レギア殿も食事をどうぞ」
「いや、あたしはいいんだ。骸、お前は食べておけ」
「判りました」
「それでは、お飲物だけでもどうぞ」
レギアは目の前に注がれたワインだけを口に運んだ。
「ところで、そのディーガルってのは、どんな姿をしてるんだい?」
「ディーガルは現れるごとに、毎回姿を変えているのです。より強力な形態になっているようです」
レギアは目を鋭く細めた。
「進変(エボルフォーゼ)を繰り返す魔(バグ)獣(モル)……特魔(レバグ)獣(モル)か」
魔能(バギル)を持つ魔獣のなかでも特殊な部類が存在し、それを特魔(レバグ)獣(モル)と呼ぶ。特魔獣には種というものがなく、個体は生まれるごとに突然変異で誕生し、子は親にまったく似ておらず能力も受け継がれることはない。なかには極めて特殊な魔能をもつ個体も発生することがある。
気(アラ)獣(モル)や霊獣(マナモル)にも魔能をもつものがいるが、進変(エボルフォーゼ)と呼ばれる形態変化をする力もその一種である。個体レベルでの適合進化を発生させる能力と見なされているが、通常の種では多くても二回の進変を見せる種が確認されてる程度であった。
「そのディーガルは、神獣と呼ばれていると聞いたが?」
「ああ、確かにそう言って敬う者もおりました。なにせディーガルは石切場の上にある洞穴に住んでおり、そこに来る見知らぬ者を皆食べてしまいます。作業できるのは、生贄を供えた我らだけです。
二十六年ほど前に、山向こうの集落が石切場を求めて襲撃してきたことがありました。我々にはそれに太刀打ちできる戦力などなく、ただこの屋敷にこもって震えるばかりです。
しかし、この屋敷にたてこもる間に異変が起きました。自分の領域を荒らされたと思ったディーガルが、その襲撃者の一団を全滅させてしまったのです。生き延びた者もいたかもしれませんが、這々の体で逃げ去ったようでした。以来、付近の集落にも神獣ディーガルの名前は広がり、この集落を襲おうとする者はいなくなったのです」
「それではディーガルによる恩恵もあるということなのですか?」
アストリックスの問いに村長は答えた。
「はい。確かに一面ではそうです。しかし三年に一人、村の娘を差し出すのはあまりにも被害が大きすぎる。我々はディーガルの支配から逃れようと決意したのです」
ケルシュ村長は堅く口を結んだ。
「フン、――で実際、どういう算段をするつもりなんだ?」
「はい。この上の山の中腹に堂がつくってあります。今夜、そこにカムランの姉であるシリルが入ってディーガルを待つのが決まりです。ディーガルは頂上付近にある洞穴から現れます。我らはその周囲を囲んで、ディーガルが来たら一気に攻めましょう」
「なるほど、配置は任せた。……ところで、クロード・ケルシュという人物を知ってるかい?」
「ええ、クロード・ケルシュは父です。父をご存じなのですか?」
「いや、大して知ってるわけじゃない。何かの噂で耳にしたような気がしただけさ」
レギアは薄く口元に笑みを浮かべた。しかしそのレギアの微笑みは、アストリックスの目の中で奇妙に歪んだ。
「あ…れ……? わたくし、なんだか頭が重たくなってきました……」
アストリックスは席を立とうとした。が、その足に力は入らず、アストリックスはよろけて床に倒れ込んだ。視界がぐらりと回転したが、アストリックスにはもう意識を保っていることもできなかった。
「――そういうわけで、お二人にも力を貸していただきたいのです。お二人は見たところ、かなりの魔力の持ち主です。きっと魔獣退治に大きな力になっていただけると思います」
アストリックスはそうレギア達に告げると、カムランの方を見てにっこり笑った。
「ぼくは……アストリックスさんがそう仰るなら、それを信じます」
戸惑いながらもカムランはそう言った。ヒーリィが無言でレギアの方へ視線を向ける。
「……気に入らないね」
レギアはぼそりと呟いた。
「わたくしの頼み事は、お気に障りましたか?」
「そうじゃない。気にいらないのは、その話だ。村に大勢人間がいながら、娘一人を犠牲にすることで自分たちは助かろうとしてる。あたしはそういう奴が反吐が出るほど嫌いなんだ」
苛立った様子を見せたレギアは、アストリックス達の方へ向き直って言った。
「ところで、あんたは何故、そいつに手を貸す? 聞いたところでは、あんたは無関係な人間だろう」
アストリックス微笑んでみせた。
「わたくしがお爺様から学んだ星光拳の教えの道義は『医武同現』。戦うことと癒すことを、ともに人のために使うということを信条としています」
「ハン、それであんたはノコノコと出てきて手を貸してやるわけかい。お人好しなことだ」
「それを、レギアさんにも助けていただきたいのです」
アストリックスは気を悪くすることもなく、真剣な顔でレギアを見つめた。レギアは呆れ顔を見せて、ため息をついた。
「判った。あんたには借りもある。一緒に行ってやる」
「ありがとうございます!」
アストリックスは深々と頭を下げると、その顔を上げてにっこりと微笑んだ。
夜営の後、アストリックスたちがカムランの村に着いたのはまだ昼前だった。
村は岩場の多い山岳地域のなかにあり、僅かな農地を果物や野菜の畑にしている様子が見て取れた。村に入るとカムランは一軒の家へとまっすぐに向かった。それは狭小な村にあってかなり大きな石造りの屋敷で、その周囲にはぐるりと石壁が張り巡らされていた。
石柱の間に鉄製の門扉があり、カムランは閉ざされた門に近づくと傍にあった鈴を鳴らした。しばらくすると傍の通用門が開き、男が姿を現した。カムランが二言三言何事か話すと、男は屋敷内に戻っていった。カムランはアストリックスたちに向きなおると、説明した。
「村長の家です。僕の姉も此処にいます」
「小さい村の割に、随分と豪奢な屋敷だ」
レギアの言葉に、カムランは言った。
「この村で採れる石は名品として有名なんです。村長の家は、それを使用してます」
やがて使用人らしい男に案内されて、三人は門の中へと入った。中庭が広がるなかで、三人の前に小太りした男が立っており、相好を崩して三人を迎え出た。
「どうも勇者の方々、よくぞおいでくださいました。私が村長のケルシュです。カムラン、こちらの皆さんがディーガル退治に尽力してくさるということで間違いないのだな?」
「そうです、村長」
カムランの返事を聞き、ケルシュ村長は口元には笑みを浮かべながら、上目遣いでアストリックスたちを見た。
「さてさて勇者様たちの協力はとても心強いことです。――が、少し私どもに実力のほどを見せていただきませんと。このグレグを相手に、少しお力の方をご披露願いたいのですが、よろしいですな」
口調こそ丁寧だが、完全な断定口調である。アストリックスがすっと前に出た。
「わたくしがお相手したしますわ。わたくしはアストリックス・ラナンと申します」
グレグと呼ばれた使用人が無言で前に出る。長身で、長い顔と細い眼をした男であり、その手には長剣を持っていた。二人が対峙した瞬間、グレグは唐突に剣を振りあげざまに気光弾を放ってきた。
アストリックスは顔色も変えず、右手でその光の弾を弾く。と、グレグは振り上げた剣で、袈裟がけに斬りつけてきた。
アストリックスは敏捷な動きでそれをかわす。グレグはさらに上から下から後退するアストリックスを追って剣を振った。防戦一方のように見えるアストリックスだったが、その顔に動揺はまったくなかった。
素早く動くアストリックスが、少し間をおいて立つ。まだ構えることもしていないアストリックスに対して、グレグの剣が振り降ろされアストリックスを真っ二つにした――かに見えた。その瞬間、アストリックスは僅かに体を開くだけの動きで剣をかわし、グレグの真横に入り身して懐に入り込んでいた。
目の前にアストリックスがいないことに気づき、グレグが横を見ようとした瞬間、グレグはそのまま口を大きく開き前のめりに倒れた。その腹部には、アストリックスの拳がめり込んでいたのだった。
アストリックスはケルシュ村長に目を向けて口を開いた。
「気当てで昏倒してますけど、しばらくしたら気づきますわ。ご心配ありません」
アストリックスはにっこりと笑った。
「彼女は、相当の使い手ですね」
ヒーリィがぼそりと呟いた。それを聞いてか聞かずか、ケルシュ村長は相好を崩してアストリックスたちに歩み寄った。
「いやいや、これは見事なものでした。どうも失礼いたしました、昼食の準備ができたようですので、改めてなかへお入りください」
ケルシュ村長はアストリックスたちを屋敷のなかへと誘った。屋敷内は広く、通された大きなテーブル席に三人はそれぞれ着席した。村長は改めて挨拶し、アストリックスたちも名を名乗った。その時、カムランを呼ぶ声がして皆、部屋の入り口へと視線を向けた。
「姉さん…」
そこに立っていたのは若い女性であり、カムランは走り寄っていった。
「姉さん、ディーガルを退治してくれる人を見つけてきたんだ。アストリックスさんだよ」
アストリックスが立ち上がり礼をすると、カムランの姉も深々と頭を下げた。
「シリルといいます。ここまで弟がお世話になりました。どうか、よろしくお願いします」
「カムラン、シリルは今までの緊張で疲れておる。奥の部屋でつもる話でもしてくるといい」
村長に言われ、カムランとシリルは奥の方へと消えていった。入れ替わりに男たちがどんどんと入ってきた。広間はすぐに男たちでいっぱいになった。
「皆の衆、聞いてくれ!」
ケルシュ村長が村の男に呼びかけた。
「ここにいる婦人こそ、名高い星光拳士を継いだお方だ。アストリックス・ラナンさんという。そしてそのお仲間のお二人もまた、ディーガル退治に協力してくれることになった」
おお…という驚きの混じったどよめきが、男たちの間で起きた。
「このグレグがまったく指一本触れられなんだ。実力のほどは確かじゃ。皆の者、今度こそ長きにわたるディーガルの支配を打ち破ろうぞ!」
おお! 男たちから決起の声が上がった。それと同時に食事が運び込まれてくる。男たちは酒を飲み、食事に食らいつく。美味しそうな湯気をたてる食事を、アストリックスも遠慮なく口にした。レギアはうろんな目つきで村長を見やった。
「レギア殿も食事をどうぞ」
「いや、あたしはいいんだ。骸、お前は食べておけ」
「判りました」
「それでは、お飲物だけでもどうぞ」
レギアは目の前に注がれたワインだけを口に運んだ。
「ところで、そのディーガルってのは、どんな姿をしてるんだい?」
「ディーガルは現れるごとに、毎回姿を変えているのです。より強力な形態になっているようです」
レギアは目を鋭く細めた。
「進変(エボルフォーゼ)を繰り返す魔(バグ)獣(モル)……特魔(レバグ)獣(モル)か」
魔能(バギル)を持つ魔獣のなかでも特殊な部類が存在し、それを特魔(レバグ)獣(モル)と呼ぶ。特魔獣には種というものがなく、個体は生まれるごとに突然変異で誕生し、子は親にまったく似ておらず能力も受け継がれることはない。なかには極めて特殊な魔能をもつ個体も発生することがある。
気(アラ)獣(モル)や霊獣(マナモル)にも魔能をもつものがいるが、進変(エボルフォーゼ)と呼ばれる形態変化をする力もその一種である。個体レベルでの適合進化を発生させる能力と見なされているが、通常の種では多くても二回の進変を見せる種が確認されてる程度であった。
「そのディーガルは、神獣と呼ばれていると聞いたが?」
「ああ、確かにそう言って敬う者もおりました。なにせディーガルは石切場の上にある洞穴に住んでおり、そこに来る見知らぬ者を皆食べてしまいます。作業できるのは、生贄を供えた我らだけです。
二十六年ほど前に、山向こうの集落が石切場を求めて襲撃してきたことがありました。我々にはそれに太刀打ちできる戦力などなく、ただこの屋敷にこもって震えるばかりです。
しかし、この屋敷にたてこもる間に異変が起きました。自分の領域を荒らされたと思ったディーガルが、その襲撃者の一団を全滅させてしまったのです。生き延びた者もいたかもしれませんが、這々の体で逃げ去ったようでした。以来、付近の集落にも神獣ディーガルの名前は広がり、この集落を襲おうとする者はいなくなったのです」
「それではディーガルによる恩恵もあるということなのですか?」
アストリックスの問いに村長は答えた。
「はい。確かに一面ではそうです。しかし三年に一人、村の娘を差し出すのはあまりにも被害が大きすぎる。我々はディーガルの支配から逃れようと決意したのです」
ケルシュ村長は堅く口を結んだ。
「フン、――で実際、どういう算段をするつもりなんだ?」
「はい。この上の山の中腹に堂がつくってあります。今夜、そこにカムランの姉であるシリルが入ってディーガルを待つのが決まりです。ディーガルは頂上付近にある洞穴から現れます。我らはその周囲を囲んで、ディーガルが来たら一気に攻めましょう」
「なるほど、配置は任せた。……ところで、クロード・ケルシュという人物を知ってるかい?」
「ええ、クロード・ケルシュは父です。父をご存じなのですか?」
「いや、大して知ってるわけじゃない。何かの噂で耳にしたような気がしただけさ」
レギアは薄く口元に笑みを浮かべた。しかしそのレギアの微笑みは、アストリックスの目の中で奇妙に歪んだ。
「あ…れ……? わたくし、なんだか頭が重たくなってきました……」
アストリックスは席を立とうとした。が、その足に力は入らず、アストリックスはよろけて床に倒れ込んだ。視界がぐらりと回転したが、アストリックスにはもう意識を保っていることもできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる