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第2話・嵐の前の幸せ
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「お気をつけて行ってらっしゃいませ!!」
「パール様!!応援しておりますわ!!」
きゃあきゃあと甲高い声で自身の送迎をしてくれる彼女達を、ふんわりと微笑んでパールは見つめた。
今日は隣国へ向かう、つまりこの国を発つ日なのだ。彼女達はよくパーティーなんかでも言葉を交わす中で、今日はお付きの人を連れてわざわざ見送りに来てくれたのだ。パールは胸に広がる小さな喜びを隠しもしないで、嬉しげに目の前の少女たちに言葉を伝える。
「……ありがとうございます。皆様も、どうかお身体ご自愛して、立派な淑女として様々なことをお学びください。お互い頑張りましょう」
柔らかくそう言うパールに、目の前にいた令嬢は顔を真っ赤にした。令嬢中の令嬢の中で最も淑女と名高く、憧れの対象であるパールに微笑まれたのが嬉しかったのだろう。感激した様子で一層甲高い声を出した。
「パール」
後ろから、自身の親愛なる母の声が聞こえた。女性にしてはあまり高くない、されど耳に心地良い声である。令嬢達の少女らしい声も嫌いではないが、やはり母の声の方が耳に優しく落ち着くな、と考えながら、パールは心配げに眉を寄せる母に駆け寄った。
「……パール。身体に気をつけて。本当に、誇らしいわ。貴方は自慢の娘よ」
ふわりと柔く抱きしめられて、暖かい体温とほのかな金木犀の香りに、パールは思わず頬を緩めた。そっと、感謝を伝えるようにパールも抱きしめ返す。
「勿論よ、お母様。きっと長期休暇には顔を出すから………手紙もたくさん出すわ。だから、そんな泣きそうな顔しないでくださいまし。たった3年間よ」
再び、母の温もりを心地よく思いながら力を強めて抱きしめれば、突然母ごと長い腕に抱きしめられた。驚いたのも束の間、香りなれたコロンの香りに、パールはふっと顔を和らげる。
「……お父様まで。もう、子供じゃないんですもの。立派に学び、淑女として成長してきますわ。そう心配しないで」
「………っ、しっかり身体を休めて、変な虫がつかないよう警戒して過ごしなさい。分かったね?本当に、健康で、何より笑顔で帰ってくることが一番だ…っ」
涙を堪えるように、その整った顔を歪める己の父に、パールは綻ぶようなら笑みを返した。
いつだって、両親は己を愛し心配してくれる。何故か二人はパールが努力し続けるのは自分のせいだと思ってたまに泣きながら茶会に誘われるが、それ以外は最高の家族であった。
パールは、二人の肉親が大好きなのである。
「それでは、もうそろそろ迎えが来ますわ……あの、その……」
「どうしたの、パール?」
「どこか問題でもあったのか?」
昔から、自身の知識欲と王家の為への努力に対して、自分を責めた二人。
普通、あんなに勉強だらけの子供、気持ち悪いでしょう。気味が悪いでしょう。それなのに、愛してくれた二人。けれど、パール自身は二人に明確な愛の言葉を伝えたことはなかった。
当分会えなくなるのだから、伝えるなら今しかない。
「………あの、ね、」
「?」
「大好きよ、二人とも……いって、くるわ」
直後、愛しさが爆発した両親にもみくちゃにされた。
「パール様!!応援しておりますわ!!」
きゃあきゃあと甲高い声で自身の送迎をしてくれる彼女達を、ふんわりと微笑んでパールは見つめた。
今日は隣国へ向かう、つまりこの国を発つ日なのだ。彼女達はよくパーティーなんかでも言葉を交わす中で、今日はお付きの人を連れてわざわざ見送りに来てくれたのだ。パールは胸に広がる小さな喜びを隠しもしないで、嬉しげに目の前の少女たちに言葉を伝える。
「……ありがとうございます。皆様も、どうかお身体ご自愛して、立派な淑女として様々なことをお学びください。お互い頑張りましょう」
柔らかくそう言うパールに、目の前にいた令嬢は顔を真っ赤にした。令嬢中の令嬢の中で最も淑女と名高く、憧れの対象であるパールに微笑まれたのが嬉しかったのだろう。感激した様子で一層甲高い声を出した。
「パール」
後ろから、自身の親愛なる母の声が聞こえた。女性にしてはあまり高くない、されど耳に心地良い声である。令嬢達の少女らしい声も嫌いではないが、やはり母の声の方が耳に優しく落ち着くな、と考えながら、パールは心配げに眉を寄せる母に駆け寄った。
「……パール。身体に気をつけて。本当に、誇らしいわ。貴方は自慢の娘よ」
ふわりと柔く抱きしめられて、暖かい体温とほのかな金木犀の香りに、パールは思わず頬を緩めた。そっと、感謝を伝えるようにパールも抱きしめ返す。
「勿論よ、お母様。きっと長期休暇には顔を出すから………手紙もたくさん出すわ。だから、そんな泣きそうな顔しないでくださいまし。たった3年間よ」
再び、母の温もりを心地よく思いながら力を強めて抱きしめれば、突然母ごと長い腕に抱きしめられた。驚いたのも束の間、香りなれたコロンの香りに、パールはふっと顔を和らげる。
「……お父様まで。もう、子供じゃないんですもの。立派に学び、淑女として成長してきますわ。そう心配しないで」
「………っ、しっかり身体を休めて、変な虫がつかないよう警戒して過ごしなさい。分かったね?本当に、健康で、何より笑顔で帰ってくることが一番だ…っ」
涙を堪えるように、その整った顔を歪める己の父に、パールは綻ぶようなら笑みを返した。
いつだって、両親は己を愛し心配してくれる。何故か二人はパールが努力し続けるのは自分のせいだと思ってたまに泣きながら茶会に誘われるが、それ以外は最高の家族であった。
パールは、二人の肉親が大好きなのである。
「それでは、もうそろそろ迎えが来ますわ……あの、その……」
「どうしたの、パール?」
「どこか問題でもあったのか?」
昔から、自身の知識欲と王家の為への努力に対して、自分を責めた二人。
普通、あんなに勉強だらけの子供、気持ち悪いでしょう。気味が悪いでしょう。それなのに、愛してくれた二人。けれど、パール自身は二人に明確な愛の言葉を伝えたことはなかった。
当分会えなくなるのだから、伝えるなら今しかない。
「………あの、ね、」
「?」
「大好きよ、二人とも……いって、くるわ」
直後、愛しさが爆発した両親にもみくちゃにされた。
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