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丑三つ時の花見に潜む
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桜の下には……が埋まっている。
なんて事は都市伝説でしかなく、その薄ピンクの花弁は別に赤い何かを吸い上げたから色付いた、という訳でもなく、毎年変わらず薄ピンクの花を咲かせている。
日中は花を見に来る人々で賑わいを見せる公園であるが、夜中になるとまるで消しゴムで消されたかのように誰の姿もなくなる。
その時間を狙って、私はフラリと夜桜を眺めに公園を訪れた。
夕方からはライトアップもされている桜だが、誰も訪れない深夜には花弁を引き立てるその灯りも消えており、桜を照らすのは月明かりのみだ。
木の下に立ち、上を見上げれば、花びらの隙間から夜空と薄ぼんやりと光る月が見えた。
暗がりの中、平面の絵のように見えるその静かな光景に魅入る。
どれほどそうしていたのか、見上げていた首に少し怠さを感じ、私は近くにあったベンチに座る事にした。
道中で買ったペットボトルの炭酸飲料を口に含めば、冷たい夜風が吹いた。
満開の桜の花弁はヒラヒラと舞い落ち、私の鼻の頭へと着地した。
冷たい飲み物ではなく、温かい飲み物にすれば良かったと、独りごちる。
ふと目の端を何かが横切ったような気がして目を凝らす。すると、少し離れた場所に白い何かが地面を動いていた。
距離があるのと、月が雲に隠れてしまった事もあり、よく見えない。
その白い物は風に踊るように、そこらを行ったり来たりしていた。
白い猫だろうか? いや、しかしこういう時はビニール袋だったりするよな? そんな事を考えながら、近くに行って確認しようと、ベンチから立ちあがろうとする。
しかしなぜか身体は動かなかった。
まるで見えない力で押さえられてでもいるようだ。あたりを見回しても、人が居るような気配はない。
少し焦りながら、もう一度立とうとするも、やはり腰は上がらなかった。
春の夜風はまだ冷たく、身体は冷えてしまっているのに、こめかみから汗が滲んだ。
落ち着け。落ち着け。
自分へ言い聞かせながら、乾いてきている喉を潤そうと、横に置いていた炭酸飲料を手に取る。
いや、取ろうとした。が、そのペットボトルは持ち上がらない。
何故? 何が起きているのか。頭の中では「まさか」という思いが湧き上がる。
こんな深夜に出てくるのではなかった。
混雑を厭わず大人しく、日中やライトアップされている時間帯に来ればよかったのだと後悔する。
その時、目の端をちょろちょろと動いていた白い物が、ヒュッと足元に滑り込んできた。
「ひぅっ」
声にならない声をあげて、その白い物から逃げるように力を入れ、踏ん張るように立ち上がった。
先程と違って腰は動き、無事立ち上がる事に成功した。
その瞬間、ジリリっ、ベリリリっと、耳障りな音があたりに響いた。
立ち上がったその後ろ、腰やお尻を冷やりとした何かが撫ぜてゆく。
心臓の音が、木々のざわめきより大きく響いている。
ドクン、ドクン、とその音を聞きながら、ゆっくりと後ろを振り返った。
するとそこには目を疑う光景が広がっていた。
そう、私が目にしたのは……。
ベンチに張り付いた、着ていたシャツの端切れと、破れたジャージの一部。
カサリと音を立てて足元に寄ってきた白い紙を拾い上げると、それは
「ペンキ塗りたてにつき、使用禁止!引っ付きます」
とご丁寧に書かれた紙であった。
私はこれから置きっぱなしで張り付いたペットボトルと、服の端切れをベンチから引き剥がし、破れたジャージから覗くパンツを誰にも見られず家まで帰る、というミッションをこなさなければならないのである。
花見は丑三つ時にするものではない、と学びを得つつ、深夜のミッションがスタートした。
(終)
なんて事は都市伝説でしかなく、その薄ピンクの花弁は別に赤い何かを吸い上げたから色付いた、という訳でもなく、毎年変わらず薄ピンクの花を咲かせている。
日中は花を見に来る人々で賑わいを見せる公園であるが、夜中になるとまるで消しゴムで消されたかのように誰の姿もなくなる。
その時間を狙って、私はフラリと夜桜を眺めに公園を訪れた。
夕方からはライトアップもされている桜だが、誰も訪れない深夜には花弁を引き立てるその灯りも消えており、桜を照らすのは月明かりのみだ。
木の下に立ち、上を見上げれば、花びらの隙間から夜空と薄ぼんやりと光る月が見えた。
暗がりの中、平面の絵のように見えるその静かな光景に魅入る。
どれほどそうしていたのか、見上げていた首に少し怠さを感じ、私は近くにあったベンチに座る事にした。
道中で買ったペットボトルの炭酸飲料を口に含めば、冷たい夜風が吹いた。
満開の桜の花弁はヒラヒラと舞い落ち、私の鼻の頭へと着地した。
冷たい飲み物ではなく、温かい飲み物にすれば良かったと、独りごちる。
ふと目の端を何かが横切ったような気がして目を凝らす。すると、少し離れた場所に白い何かが地面を動いていた。
距離があるのと、月が雲に隠れてしまった事もあり、よく見えない。
その白い物は風に踊るように、そこらを行ったり来たりしていた。
白い猫だろうか? いや、しかしこういう時はビニール袋だったりするよな? そんな事を考えながら、近くに行って確認しようと、ベンチから立ちあがろうとする。
しかしなぜか身体は動かなかった。
まるで見えない力で押さえられてでもいるようだ。あたりを見回しても、人が居るような気配はない。
少し焦りながら、もう一度立とうとするも、やはり腰は上がらなかった。
春の夜風はまだ冷たく、身体は冷えてしまっているのに、こめかみから汗が滲んだ。
落ち着け。落ち着け。
自分へ言い聞かせながら、乾いてきている喉を潤そうと、横に置いていた炭酸飲料を手に取る。
いや、取ろうとした。が、そのペットボトルは持ち上がらない。
何故? 何が起きているのか。頭の中では「まさか」という思いが湧き上がる。
こんな深夜に出てくるのではなかった。
混雑を厭わず大人しく、日中やライトアップされている時間帯に来ればよかったのだと後悔する。
その時、目の端をちょろちょろと動いていた白い物が、ヒュッと足元に滑り込んできた。
「ひぅっ」
声にならない声をあげて、その白い物から逃げるように力を入れ、踏ん張るように立ち上がった。
先程と違って腰は動き、無事立ち上がる事に成功した。
その瞬間、ジリリっ、ベリリリっと、耳障りな音があたりに響いた。
立ち上がったその後ろ、腰やお尻を冷やりとした何かが撫ぜてゆく。
心臓の音が、木々のざわめきより大きく響いている。
ドクン、ドクン、とその音を聞きながら、ゆっくりと後ろを振り返った。
するとそこには目を疑う光景が広がっていた。
そう、私が目にしたのは……。
ベンチに張り付いた、着ていたシャツの端切れと、破れたジャージの一部。
カサリと音を立てて足元に寄ってきた白い紙を拾い上げると、それは
「ペンキ塗りたてにつき、使用禁止!引っ付きます」
とご丁寧に書かれた紙であった。
私はこれから置きっぱなしで張り付いたペットボトルと、服の端切れをベンチから引き剥がし、破れたジャージから覗くパンツを誰にも見られず家まで帰る、というミッションをこなさなければならないのである。
花見は丑三つ時にするものではない、と学びを得つつ、深夜のミッションがスタートした。
(終)
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