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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。
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しおりを挟む「――んだよ! いーところで! ちくしょう!!」
がばっとラルフが頭を起こした。
ついでに、ガン! って棚にぶつかって痛そうだ。
「壊さないでよ!?」
「待て。オレの心配してくれ」
なんてわーわー騒いでたら、外からもっと焦った声が聞こえてきて。
そうだった、ふざけてる場合じゃないと我にかえる。
――グリーンドラゴン。
ドラゴン自体が希少種なんだけど、このエイルズの街とはちょーっと縁深いモンスターでもある。
エイルズの街の北に位置するフィアーク山が彼らの住処だからね。
でも、彼らは保護されていて、基本的にはあの山から離れることもないはず。
人里に降りてきたってなると、狩猟許可が出るのだろうけれども、街に直接降りられたら、確実に大きな被害が出る。
「ラルフ。わたし、すぐにギルドにいかなくちゃ……!」
「っ! あ、ああ……オレも準備して……すぐ合流する。けどよお……」
ホントいいところで……なんて彼はいつまでもブツブツ言ってるけど、そんな場合じゃないよね!?
あ、でも、ちょっと、胸の奥、いたい。というか、苦しい。
これ、わたしもちょっとだけ残念に思ってるってこと?
…………えーっと。
うん。
いったん横に置いとこ。
「ね? ラルフ、行くよ……?」
「わかってるよ」
でも彼はやっぱり名残惜しいらしくてさ。
もう一回わたしの体をぎゅーって抱きしめた。
「ちゃんと行くから。オマエはドラゴンの前には出るんじゃねえぞ」
「でっ、出られないよっ!」
「オレが行くまでにドラゴン来たら、なんでもいいから逃げろよ?」
「うっ、うんっ……」
こくこくと頷いてようやく、彼は体を離してくれる。
「おふたりさーん! 頼むから、はやく!」
ドンドンドンドン!
相変わらず乱暴に扉が叩かれてて、すぐに出る! って叫んでから、わたしは自分の鞄を引き寄せる。
ラルフも名残惜しそうにわたしの方を振り返って、先に外に飛び出していった。
ドラゴン狩りができる人間なんてそういない。
でも、ラルフにはその実績があって、ドラゴンのことだってよく知っている。
狩猟するための道具を一式取り揃えるのも準備が必要だからこそ、いったん自分の部屋に戻らなきゃいけないことはわかってるんだ。
でもなんだかね。
ちょっと、寂しい。
そういえば、彼と過ごすようになってから、ギルドへ行くときも帰るときも、いつも一緒だった。
なんか当たり前のように手を繋いでさ?
わたしはいつもよりしゃべれないけど、彼が軽口叩いてきて、言い返すうちにちょっとだけ照れがなくなって、でも、たまに指を撫でるような動きをされて、妙に意識しちゃったりして。
でも、今はラルフを待っていられない。少しでも早く、向こうに行かないと。
だから全力で、ギルドの方へと走っていく。
街には緊急を知らせる鐘の音が鳴りひびいていて、人々が慌てて避難していく。
その動きに逆らって、わたしは走った。
そして、走りながら、考える。
ちょうど2年前。フィアーク山から離れたドラゴンが、近くの森を荒らした。
一頭のドラゴンの存在は、生態系を根底から崩しかねない。だから、冒険者が派遣されることになって。
わたしがお願いしたんだ。
ラルフなら、やってくれるかなって。
わたしがギルドの職員になってから、はじめての大仕事だった。いずれは荒らした森から移動して、この街の近くも荒らすかもしれない。
街の警備隊と連携して、この街の防御をそなえて。
優秀な冒険者だけで、狩猟部隊を編成した。でもあのときは、それなりに準備期間もあった。対策もねって、慎重に、計画を進めて――。
「……っ」
痛い。
いやだ。こわい。
行かないで。
いつも、ラルフに仕事をお願いするのはわたしの役目だった。
管轄外の案件も、難しそうなのはラルフにお願いして欲しいからって、わたしにまわってきたりしてさ?
命の危険があるようなクエストを、いつも、いつも、何回だってお願いしてきた。
ラルフだったら大丈夫だって、変に思い込んで。笑顔で、彼を送り出して、帰ってきたらちゃんと讃えた。
冒険者としての彼はとても優秀で、わたしも、そんな彼の一面はすごく尊敬してて。
だから、今回だって大丈夫って思うのに。
どうしてこんなに、不安なのかな……。
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