45 / 59
第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。
3−5
しおりを挟むお昼休みにギルド長に呼び出されたこと。
そうしたら、首都ギルドの職員がいて、なんだかわたしのお仕事いろいろ褒められたこと。
その上で勧誘を受けたこと。
もし異動するなら春。だから、年が明けた以降でいいので、返事がほしいといわれたこと。
わたしの話をさ、ラルフは口を挟まずに、最後まで聞いてくれた。
わたしはさ? 胸がちょっと痛くて、ずっと言い出せなかったことを、最後にね? ちゃんと、口にする。
「たぶん、わたしはおまけだと思うの。ほんとはさっ……わたしが、首都ギルドに異動したら、ラルフがついてくるかもとか……そういう、餌にされてるんだと思う」
「……」
「あはは! おかしいよね。だって、わたしが! わたしのほうが、ラルフの隣にいたいのに。異動するわけな――」
「いいんじゃね?」
「っ……」
声が、つまった。
ラルフの言葉があまりに意外すぎて、すぐに頭に入ってこない。
いい?
え? なんて言ったの?
いいって、言ったの? ラルフ……?
わたしがひとり、首都に行っても? それでもいいって、ラルフは言うの?
「や、やだよっ!」
「え?」
想像するだけで、胸がぎゅっとなる。
だって、同じ国内っていっても、首都とエイルズじゃあ……そんな。もうっ。
「だ、……だって、そしたら。ラルフと別れ……っ」
「!? な、なんでそーなる!!!」
だんっ! と、彼は両手をテーブルについて立ち上がる。
「!?」
なんだかめちゃくちゃ焦っててさ。
でも、つまり。ラルフの言葉は、そういうことじゃん?
ラルフは、平気でそう言うこと言うの……?
「別れ!? まて。やめてくれ。まじでっ」
「わたしだって、嫌だよっ!?」
「ぅん!? 嫌だよな!? 嫌…………あ?」
ラルフが硬直する。
ぱくぱくと。
口を、開けて、閉めて、また開けて、閉めて。
「うん、……? そーだよな。……いやまて、リリー? つまり???
――えーっと。マジで。例えでもその言葉は心臓に悪い。やめてくれ。お願いだから」
「え? ええっっっと……ぉ?」
「うん。情報を整理しよう。ちがうんだよな? わかれ……あー、言えねえ。とにかく! そーいうのじゃないよ、な? ちがうな? ちがうと言ってくれ?」
「ち、ちがうよ」
ごんっ。
勢いのままに彼は再び席に腰かけ、盛大にテーブルに頭をぶつける。
「!? 大丈夫!?」
「大丈夫なわけあるかよ……はぁ……心臓、いてえ。……死ぬかと思った……」
突っ伏したまま、彼ははあああとため息をつく。
「えっと。あれか。そもそも、オレの選んだ言葉が悪かったのか? ええと。なんの話してたっけ? ええと、首都ギルド行き?」
「うん」
もう一度、今度は深呼吸をしてから、ラルフは顔をあげる。
「だな。ええと。首都ギルドへの異動、だろ? それこそ、リリーが好きに決めればいいじゃねえかって意味で。興味はあるんだろ?」
「うっ……」
「図星だな? だったら、異動するのアリだと思うぜ? オレもついていくし」
「!?」
「あのなあ。どうしてついていかない選択肢があると思ったよ……?」
「で、でも……」
ちょうどこの間、ラルフが首都のギルドに誘われて、断ったばかりだったのもあって。
てっきり、首都には行きたくないのかなって思ってた。
……まあ、ミリアムがやりすぎただけだった、ってのもあると思うんだけどさ。
「わたしが……ラルフのそばに、いたかったわけ、だし」
「ぐっ……!? うん。ありがとう。だがな、リリー」
「ん?」
「その先はオレが。……あ。でも、もうちょっと、待ってくれ……時期が」
「は……?」
時期?
いったいなんのことだろう。
「もし首都に行くなら、別の時期がいいってこと? いつ?」
「いやいやそういう意味じゃ。あー……いいっ、いまは、忘れて」
「???」
「とにかく! オマエは! 首都に! 行きたい! そうなんだろっ?」
なかば強引に話をまとめられて、きょとんとする。
えーっと。そんなに、今すぐ決められるようなことではないのだけれど。
「……興味は、ある。でも……」
それはつまり、慣れ親しんだこの街とさよならするってことだ。
それに、向こうへ行ったところで、上手くいくとは限らない。
……だって、わたしはラルフを釣るための餌なのだ。わたし自身の能力なんてどうでもよくて……向こうへ行ったところで、わたしが望むような仕事がさせてもらえるとは限らない。
「……」
居たたまれなくなって、お酒に口をつける。
これは、逃げなのかな。
わたしは、今の生活が気に入っていて、この街でできることをやって生きていくつもりでいた。
けれども、思いもがけないところから別の道を指し示されて――しかもそれは、靄がかかって、むこうが見えない。
異動したところで、ずっと燻ったまま、後悔して生きていかないといけないかもしれない。
「な。リリー?」
「うん?」
「この街に来たときのこと、覚えてるか?」
「……うん」
それは忘れるはずがない。
家出同然で村を飛び出してさ。――なんのコネもなかったけど、とにかくなにか仕事にありつきたくて。日稼ぎの仕事をしながら勉強をして、ここのギルドの試験を受けたんだよね。
「オレはさ。オマエを追いかけたかったんだ。昔も。今も。
オマエが行きたいところに、一緒に行きたい。それだけが夢でさ。……はは、かっこ悪ぃけど。オマエと一緒になり…………一緒に、頑張りたいってな」
「ぅん? ……うん」
「この間、オマエさ。オレについてきてくれるって言ってたけどよ。それはオレの方のセリフでさ。オレが、オマエについていきたいんだ」
「……ラルフ」
「だから、オレの存在とかさ、むしろ利用するくらいの勢いで、行ってもいいんじゃねええかって思う。ほら、オレはソロの冒険者だからよ。どこ行っても、やることは変わんねーし」
「ふふ」
「お。笑ったな? 首都のギルドの奴らもさ。セコいことしてんなって思うかもしれねーけどよ? ガンガン利用してやれ? いいじゃねーか。オレら、田舎モンなんだからよ? ちょっとくらい厚かましくてさ」
「あはは」
「つーわけだ。オレからのアドバイス、以上!」
「参考になったよ」
「だろ?」
アハハ、と彼は誇らしそうに笑って、グラスを手にする。
わたしもなんだか、重い荷を下ろしたような気持ちになってさ? 気がついたら、彼と一緒に笑ってて。
相談してよかったって、本当に思う。
ああ……いつからかなあ。
こんなにさ? ラルフの存在に支えられてるって感じるようになったのは。
「ほら。手が止まってるぞ。もっと食えよ? しっかり食って、体力つけとけ」
「ん。いただきますっ」
「おう。……はー! よかった! リリーとこれからも一緒にいられそうでよ」
「あはは。うん。いつもありがと」
「! ん。おうっ」
ついつい素直にありがとうを伝えると、彼はゴクリと唾を飲み込んで、やっぱりへらって笑った。
よかったな。
うん、ラルフがすぐそばにいてくれて、ほんとうによかった。
42
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
『完結・R18』公爵様は異世界転移したモブ顔の私を溺愛しているそうですが、私はそれになかなか気付きませんでした。
カヨワイさつき
恋愛
「えっ?ない?!」
なんで?!
家に帰ると出し忘れたゴミのように、ビニール袋がポツンとあるだけだった。
自分の誕生日=中学生卒業後の日、母親に捨てられた私は生活の為、年齢を偽りバイトを掛け持ちしていたが……気づいたら見知らぬ場所に。
黒は尊く神に愛された色、白は"色なし"と呼ばれ忌み嫌われる色。
しかも小柄で黒髪に黒目、さらに女性である私は、皆から狙われる存在。
10人に1人いるかないかの貴重な女性。
小柄で黒い色はこの世界では、凄くモテるそうだ。
それに対して、銀色の髪に水色の目、王子様カラーなのにこの世界では忌み嫌われる色。
独特な美醜。
やたらとモテるモブ顔の私、それに気づかない私とイケメンなのに忌み嫌われている、不器用な公爵様との恋物語。
じれったい恋物語。
登場人物、割と少なめ(作者比)
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる