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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。
3−8
しおりを挟む――もと来た道を、今度はラルフと歩いて帰る。
「はぁー、お守り、ねえ」
「うん。すごいマメよね」
「ふぅーん。ほぉー。で、それ、どうすんの?」
さっきもらったお守りを指さしながら、ラルフは不機嫌そうに声をあげる。
「うーん、試供品みたいなものだからね。無事に異動がおわりますようにって、ギルドの机に置いておこうかな」
「まあ、それくらいなら……」
「……嫉妬、とか?」
「っ……! それはっ……ぐっ……まあ、そういう、のも、あるかな。くそ」
なんて、わかりやすく嫉妬してくれるラルフをなんだか可愛く思っちゃったりして。
だったら今度、ラルフがお守り買ってよ? とか、ちょっとおねだりしてみたら、今度はびっくりするくらい上機嫌になったりしてさ?
そうして、ふたりでわいわい話してたら、あっという間にギルドホールの方に戻ってきた。
で。正面の扉から中に入って、じゃあ、また夜にねって言おうとしたところでさ、また意外な人から声をかけられたんだよね。
「あらー? アンタがお仕事中にいちゃいちゃしてるだなんて、めっずらしいのねー?」
この甘ったるい声。ついでに、においもふわっと漂ってきてさ。
「! ミリアム?」
「オマエ」
すっかり寒くなってきたって言うのに、相変わらずの露出っぷりの女の子がひとり。
「ハァーイ! おふたりさん」
なんて、ミリアムは悠然と構えてみせた。
「オマエ、首都に帰ったんじゃなかったのか?」
「んー? もともとアンタが勧誘できるまで残るつもりだったのよ」
「それはっ」
「攻略が難しいほど、クエストは燃える。わかるでしょ? ……でもね」
はああ、と、わざとらしくため息をついて、ミリアムは肩をすくめて見せた。
「リリーの方から攻めた方がはるかに簡単だったって……もうっ。どうしてもっと早く気がつかなかったのかしら、あたし」
……あー。
これは、彼女も完全に事情を知っているみたいだね。
たしかに、わたしに声がかかってから、わりとすぐに首都行きを決めたもんね?
「もしかして……首都ギルドの方を呼んだのって、ミリアム?」
「感謝しなさいよ?」
「アリガトウゴザイマス……」
やっぱりラルフ釣るためだったんだ、なんて思って複雑だけど。
ラルフと話したとおり、利用させてもらうもんっ。
「完っ全に攻略法間違えてたわ。ラルフは全然かまってくれないし……時間を無駄にした!」
「あはは……」
「――でも、おめでと。首都ギルド、面白いわよ?」
「えーっと。向こうでも、よろしくお願いします」
「せいぜいこき使ってあげるわ」
冒険者にこき使われるギルド職員……それはどうなのかなって思いながら、わたしはへらっと笑う。
なんだかんだ、ラルフにちょっかいさえ出されなければ……まあ……仲良くできる……のかな? うーん、どうかな。
でも、首都のことはいろいろ聞いておきたいこともあるんだよね。
他の冒険者たちに話を聞くことはあったけど、実際住むとなるとさ? ほしい情報は変わってくるわけで。
「ま、アンタもいろいろ不安だろうし? 年明けまではこっちいるから、聞きたいことがあればこたえてあげなくもないわよ?」
「あはは、助かります」
「実際、治安が悪い場所もあるからね。アンタみたいな田舎者の小娘は、住む場所にも気をつかいなさいよ」
なるほどなあ。
たしかに、家については悩むポイントかも。
とはいえ、そこは、とりあえず心配してないんだけど。
「ありがとうございます。とはいえ、ギルドの寮もあるみたいですし」
「えっ」
「えっ!?」
ん!?
なんだかめちゃくちゃ驚かれたのですが!?
住む場所に関しては、最終手段があるからって余裕ぶってたけど。
え? ふたりとも、その顔はなにかな?
「ちょ、待ちなさいよ。アンタ? 正気?」
「いやいや、リリー。ちょっと、決めるの早くないか? まだ、他の選択肢もさ? なっ?」
「えーっ……と?」
なんでふたりして迫ってくるのかな?
あ、ああ。ラルフはね。そりゃ、すぐ近くに住みたいんだろうけどさ。今の環境、なんだかんだ、気に入っているもんね?
でも、ラルフはもっと広いところに引っ越したがってるの知ってるもん。わたしはそこまでお金がないから。ラルフと同じアパートは多分借りられない。
となると、いい選択だと思うんだけどなあ……寮生活。
「でも、空いてるかどうか問い合わせるのは無料だし」
「いやいやいや、いいからっ! そういうの、しなくていいからっ! せっかくだから、オレと一緒に探そう? なっ!?」
「えーっ……」
ラルフが一緒に選ぶとなると。家賃がなあ……。ちょっと心配だよね。
なんでそこでゴネるんだってラルフが肩を落としてるけどさ。それはもう、経済状況のちがいがあるし……うーん……また話しあえばいいか。
「てか、いっそ一緒に住めばいいのに。そしたら、いろいろ安心でしょ?」
「へ?」
「ばっ! ミリアム!!」
まさかの提案に、わたしはぽかーんってしてしまう。
同棲?
いやいやいや。
同棲???
いやいやいやいや。
た、たしかにね?
今の状態を考えても、ほとんど同棲しているようなものだけどっ。
そういえば、つきあい始めのころもさ? ラルフ、冗談でそういうこと言ってたけどっ。
実際にするとなると、別じゃん?
「えっ。ないないないない!」
だからわたしは、両手をぶんぶんふって主張する。
ラルフがものすごい勢いでこっち見たけど。えっ。同棲!? 結婚前の男女が? ないないっ。ないって!
「……」
「あー……ラルフ。話題に出したあたしが悪かったわ。ご愁傷様」
「…………」
わっ。ラルフが何とも言えない顔をしてるけどさ。でも、ラルフだってわかってるでしょ!?
都会だとたしかに、そういうのもあるかもしれないけどっ。
わたしにはちょっと、抵抗あるっていうか。
「えっと。とにかく。どこに住むかは、またラルフとちゃんとっ、相談するからっ」
ミリアムと話していると、ほんと、話題がどこにいくかわかんないよねっ。
ああもう。これは、逃げるが勝ちだ。
「しっ、仕事に戻るねっ。ラルフ、送ってくれてありがと」
「……お、おう……」
だからそんなにしょげないでよ。もうっ。
とにかく続きはまた夜に話すとして。退散しよう。
そういってわたしがミリアムたちに背を向けたところでさ、ふと、ミリアムに呼び止められた。
「あ、ちょ。待ちなって、リリー」
「いやいや、仕事に――」
「そうじゃなくて。さっきから気になってたんだ。あんた、変なモノつけてるよ?」
「は?」
なんていうなり、ミリアムはわたしの方へ歩いてきて、そっと杖をかざす。
赤い魔石がついたそれを、わたしの胸のところにトントンって軽く叩くようにしてさ。
「解呪」
「!」
そう言って、ふっと息を吹きかけるような動作をして。
わたしもラルフもなにも言えずに、ぽかーんと彼女の方を向いていた。
「いつからかわからないけど、なんか、見たことのない変な呪いついてたわよ? ……まあ、効果が微弱すぎて、放置してても問題ないくらいのだったけど」
「へ? うそ??」
「ほんと。人的なものだから、ちょっと気をつけた方がいいかも。アンタも、……ラルフもね? 彼女が大事なら、ちゃんと目を光らせてなさいよ」
それだけ言って、彼女はくるりと背を向ける。
じゃあね~、って手を振りながら、わたしたちの前を去っていった。
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