【R18】嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

浅岸 久

文字の大きさ
50 / 59
第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。

3−10

しおりを挟む

 ラルフたちが魔素だまりを消滅させるために出かけてから、しばらくが過ぎた。

 あのパーティだったら、まず間違いなく成功させて帰ってくるとは思っているからね?
 さほど心配はしていないから、わたしもわたしのほうで業務に打ち込んでいた。


 というわけで、今日は職人ギルドのアレクシスさんとの約束がある。
 一応わたしも、来月いっぱいまではここのギルドで働くつもりなんだけどさ。職人ギルド関連業務は、新しい担当の子にかなり移行していてね? 業務の方はまかせて、今日はわたしひとりで、年末の挨拶めぐりやってきたってわけ。もちろん、異動の挨拶もかねてね。

「リリーさん、お忙しいところ、ご足労ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」

 で、今日は、職人ギルドではなくて、倉庫街の方へときてるんだよね。
 倉庫街は街の西の端の方でさ。ちょーっとギルドホールからも距離があるし、来にくい場所なんだ。
 現場の職員さんたちに会いに来たわけなんだけど、それにアレクシスさんがわざわざつきあってくれてるってわけ。
 なんでも、アレクシスさんも部署替えが決まったとかで、職人ギルド側でも引き継ぎがあるのだとか。わたしと合流する前に、この倉庫街の方で業務があったから丁度いいんだって。
 そういうわけで、急遽、いっしょに挨拶めぐりをしてたんだよね。
 ちょっと不思議な感じではあるけれど。



「帰りは送っていきますよ。馬車、用意してるので」

 行きは辻馬車でやってきたんだけど、帰りはアレクシスさんが提案してくれた。
 こういうところ、流石のスマートさだよなあって思う。
 わざわざ迎えの馬車を寄越してくれてたらしくてさ。冒険者ギルドまで連れてってくれるんだって。
 っていうか、貸し出しじゃなくて、自分で馬車を持ってるとかすごくない?
 しかもギルドのモノじゃなくて、個人のモノでだよ?

「うちは家業が商人でしたからね。そのときの名残なんです」
「でした?」
「ああ。両親はもう身罷りまして。そのときに、畳んでしまったので」
「――あ。すみません」
「いいえ。もう前の話ですし。こうやって、雇われの身の方が性にあってますし」

 って、笑いながら、扉を開けてくれてさ。

「どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく。お願いします」

 なかに足を踏み入れるだけで、ふわーって香る優しいにおいもあいまって、なんだかお嬢さまになった気分だ。
 すごいなあ。
 クッションもいいし、なんだか装飾も凝ってるし。こういうのって無縁だったから、ちょっと得意な気分になっちゃう。

 わたしが先に乗って、向かいにアレクシスさん。
 なんだか個人の馬車まで持ってて、御者まで雇えるひとが普通にギルド職員って不思議な感じ。
 あー……でも、そのあたりは冒険者ギルドと、職人ギルドとの差なのかもしれないけどね。

 職人ギルドの方は上の地位にお金持ちのひとが多いらしい。ちなみに、商人ギルドはもっと……みたいだけどさ。
 そういえばアレクシスさんも、わたしみたいな平の冒険者ギルド職員を気にかけてくれてるけど、本当は上の地位のひとだもんね。
 今回の部署替えも、もっと上にいくためのものなのかな?


「そういえば、先日はお守りありがとうございました」

 がらがらと馬車が走り出してから、わたしはアレクシスさんに向きなおる。

「いえ、ほんの気休めですし。あれはリリーさんが仕事に打ち込めるように、という追加のまじないもいれておきましたからね」
「追加? わざわざですか?」
「ええ。――あれ、言ってませんでしたっけ? 僕、これでも魔力持ちでして」
「え!? そうだったんですか!!」

 わたしもそうなんだけどさ、ちょっとした生活魔法使えるくらいだと、仕事の役にはたたないもんね。わざわざ魔力持ちだって自己紹介するひとの方が少ないといいますか。
 ……でも、物にまじないを乗せられるって、それ、アレクシスさん結構魔力強くない? え? 魔法をお仕事に使えるレベルってことだよね?

 もらったお守り、なんだか凝った解説書がついててさ。
 魔石数種を特殊な装置で溶かして、再構築しなおしてるって書いてあったんだよね。
 つまり、その上にアレクシスさんの魔力を重ねがけしてたってこと?
 ……うん、わたし、魔法はほんとうに初歩中の初歩しか使えないからよくわからないけど……やっぱり、すごい気がする。

「商品開発は、商人ギルドの方にも負けていられませんからね」
「へええ。素材の管理以外にも、いろんな仕事をしていらっしゃるのですね」

 なんて、魔法とお仕事の関係とかのお話聞いてたらさ、ふと、外の景色の変化に気がついた。

 ……あれ?
 これ、冒険者ギルドと方向ちがうんじゃないかな。倉庫街の方あんまり詳しくないけど。
 近道かなにかかな?
 ちょっとだけ疑問に思って、小さな窓の向こうと、アレクシスさんの顔を交互に見る。

「? どうされました?」
「いえ。わたし、この辺の道あまり詳しくないんですけど。こっちから行くと、近道なんですか?」
「はい。この道であってますよ?」

 って、アレクシスさんはにっこり笑うけどさ。

 ……………あれ?

「あれ、リリーさん――ああ」

 ふわーって。
 やっぱりいい匂いがして、ぐらりと視界が揺れる。

「ようやく効いてきましたか。…………うーん。呪いおまもりの、ききが悪かったのかな」
「ぇ」
「あ、大丈夫ですよ。向かうべき場所へ、ちゃんと送り届けますから。今は、ゆっくり眠って――」
「……」
「おやすみなさい」

 あれ……。

 これ、まずい…………かも…………?


 なんだか、ね……む……………、
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

『完結・R18』公爵様は異世界転移したモブ顔の私を溺愛しているそうですが、私はそれになかなか気付きませんでした。

カヨワイさつき
恋愛
「えっ?ない?!」 なんで?! 家に帰ると出し忘れたゴミのように、ビニール袋がポツンとあるだけだった。 自分の誕生日=中学生卒業後の日、母親に捨てられた私は生活の為、年齢を偽りバイトを掛け持ちしていたが……気づいたら見知らぬ場所に。 黒は尊く神に愛された色、白は"色なし"と呼ばれ忌み嫌われる色。 しかも小柄で黒髪に黒目、さらに女性である私は、皆から狙われる存在。 10人に1人いるかないかの貴重な女性。 小柄で黒い色はこの世界では、凄くモテるそうだ。 それに対して、銀色の髪に水色の目、王子様カラーなのにこの世界では忌み嫌われる色。 独特な美醜。 やたらとモテるモブ顔の私、それに気づかない私とイケメンなのに忌み嫌われている、不器用な公爵様との恋物語。 じれったい恋物語。 登場人物、割と少なめ(作者比)

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

処理中です...