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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。
3−10
しおりを挟むラルフたちが魔素だまりを消滅させるために出かけてから、しばらくが過ぎた。
あのパーティだったら、まず間違いなく成功させて帰ってくるとは思っているからね?
さほど心配はしていないから、わたしもわたしのほうで業務に打ち込んでいた。
というわけで、今日は職人ギルドのアレクシスさんとの約束がある。
一応わたしも、来月いっぱいまではここのギルドで働くつもりなんだけどさ。職人ギルド関連業務は、新しい担当の子にかなり移行していてね? 業務の方はまかせて、今日はわたしひとりで、年末の挨拶めぐりやってきたってわけ。もちろん、異動の挨拶もかねてね。
「リリーさん、お忙しいところ、ご足労ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
で、今日は、職人ギルドではなくて、倉庫街の方へときてるんだよね。
倉庫街は街の西の端の方でさ。ちょーっとギルドホールからも距離があるし、来にくい場所なんだ。
現場の職員さんたちに会いに来たわけなんだけど、それにアレクシスさんがわざわざつきあってくれてるってわけ。
なんでも、アレクシスさんも部署替えが決まったとかで、職人ギルド側でも引き継ぎがあるのだとか。わたしと合流する前に、この倉庫街の方で業務があったから丁度いいんだって。
そういうわけで、急遽、いっしょに挨拶めぐりをしてたんだよね。
ちょっと不思議な感じではあるけれど。
「帰りは送っていきますよ。馬車、用意してるので」
行きは辻馬車でやってきたんだけど、帰りはアレクシスさんが提案してくれた。
こういうところ、流石のスマートさだよなあって思う。
わざわざ迎えの馬車を寄越してくれてたらしくてさ。冒険者ギルドまで連れてってくれるんだって。
っていうか、貸し出しじゃなくて、自分で馬車を持ってるとかすごくない?
しかもギルドのモノじゃなくて、個人のモノでだよ?
「うちは家業が商人でしたからね。そのときの名残なんです」
「でした?」
「ああ。両親はもう身罷りまして。そのときに、畳んでしまったので」
「――あ。すみません」
「いいえ。もう前の話ですし。こうやって、雇われの身の方が性にあってますし」
って、笑いながら、扉を開けてくれてさ。
「どうぞ」
「じゃあ、遠慮なく。お願いします」
なかに足を踏み入れるだけで、ふわーって香る優しいにおいもあいまって、なんだかお嬢さまになった気分だ。
すごいなあ。
クッションもいいし、なんだか装飾も凝ってるし。こういうのって無縁だったから、ちょっと得意な気分になっちゃう。
わたしが先に乗って、向かいにアレクシスさん。
なんだか個人の馬車まで持ってて、御者まで雇えるひとが普通にギルド職員って不思議な感じ。
あー……でも、そのあたりは冒険者ギルドと、職人ギルドとの差なのかもしれないけどね。
職人ギルドの方は上の地位にお金持ちのひとが多いらしい。ちなみに、商人ギルドはもっと……みたいだけどさ。
そういえばアレクシスさんも、わたしみたいな平の冒険者ギルド職員を気にかけてくれてるけど、本当は上の地位のひとだもんね。
今回の部署替えも、もっと上にいくためのものなのかな?
「そういえば、先日はお守りありがとうございました」
がらがらと馬車が走り出してから、わたしはアレクシスさんに向きなおる。
「いえ、ほんの気休めですし。あれはリリーさんが仕事に打ち込めるように、という追加のまじないもいれておきましたからね」
「追加? わざわざですか?」
「ええ。――あれ、言ってませんでしたっけ? 僕、これでも魔力持ちでして」
「え!? そうだったんですか!!」
わたしもそうなんだけどさ、ちょっとした生活魔法使えるくらいだと、仕事の役にはたたないもんね。わざわざ魔力持ちだって自己紹介するひとの方が少ないといいますか。
……でも、物にまじないを乗せられるって、それ、アレクシスさん結構魔力強くない? え? 魔法をお仕事に使えるレベルってことだよね?
もらったお守り、なんだか凝った解説書がついててさ。
魔石数種を特殊な装置で溶かして、再構築しなおしてるって書いてあったんだよね。
つまり、その上にアレクシスさんの魔力を重ねがけしてたってこと?
……うん、わたし、魔法はほんとうに初歩中の初歩しか使えないからよくわからないけど……やっぱり、すごい気がする。
「商品開発は、商人ギルドの方にも負けていられませんからね」
「へええ。素材の管理以外にも、いろんな仕事をしていらっしゃるのですね」
なんて、魔法とお仕事の関係とかのお話聞いてたらさ、ふと、外の景色の変化に気がついた。
……あれ?
これ、冒険者ギルドと方向ちがうんじゃないかな。倉庫街の方あんまり詳しくないけど。
近道かなにかかな?
ちょっとだけ疑問に思って、小さな窓の向こうと、アレクシスさんの顔を交互に見る。
「? どうされました?」
「いえ。わたし、この辺の道あまり詳しくないんですけど。こっちから行くと、近道なんですか?」
「はい。この道であってますよ?」
って、アレクシスさんはにっこり笑うけどさ。
……………あれ?
「あれ、リリーさん――ああ」
ふわーって。
やっぱりいい匂いがして、ぐらりと視界が揺れる。
「ようやく効いてきましたか。…………うーん。呪いの、ききが悪かったのかな」
「ぇ」
「あ、大丈夫ですよ。向かうべき場所へ、ちゃんと送り届けますから。今は、ゆっくり眠って――」
「……」
「おやすみなさい」
あれ……。
これ、まずい…………かも…………?
なんだか、ね……む……………、
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