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ヘルビーストの真実
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シュウはマナ達に連絡を取り、事の詳細を把握した。
「なるほど……アイカにそのような秘密が……」
「わたしがアイカともっと模擬戦していれば良かったのだろうか……」
リリーシャは少し申し訳なさそうに狼狽えていた。
シュウの護衛が任務である彼女は常にシュウの側にいないとならない。
その点で言えば、彼女は間違えた訳ではない。
「リリーシャ。あなたが気に病む必要はありません。遅かれ早かれそうなっていた事です。今は如何にアイカを救うか考えましょう」
「そうだな……悩んでも仕方ないか」
この中で一番ショックを受けているのは恐らく、リリーシャだ。
彼女とアイカは付き合い事短いがそれでも良き友人でありある意味で対等な関係を築いていた。
互いに高め合うライバルとも言える友人だ。
それを失うと言うのは察するにあまりある気がした。
だが、本当に悩んでいる暇はなかった。
通信越しにマナが矢継ぎ早に事を進める。
「わたし達はギルドから直接、宇宙に上がるわ。アンタ達も早く来なさいよ!それとこれ、今回開示された情報だから、道中にでも目を通して、じゃあ!」
マナはそう言って一方的に通信を切った。
「向こうも相当焦っているようですね。ともあれ、我々も急ぎましょう。」
「あぁ、そうだな」
シュウとリリーシャは急いでこの街にあるAP格納庫に向かった。
◇◇◇
今回の件に際してイベントで公開された情報とギデオンクラスターに開示された情報の2つがある。
まず、イベント関連に関する情報だ。
今回のイベントは公式公認のラスボスと言う事もありラスボス戦仕様のシステムが使える事になった。
“ネェルアサルト”と“アサルト”と言うシステムだ。
これは量子回路に組み込む形で搭載される量子兵器であり前者は使用機体の時間をゼロに近づける事により疑似的に速度を光速に近づけると言った仕様であり実質、光速戦闘を可能にするチート兵器だ。
後者の場合は1日3回まで任意の座標に対して移動が可能なシステムだ。
一度行った事がある場所は勿論、機体のセンサーが捉えた位置情報を基に移動する事も可能な上に妨害の類を一切受けない“転移”の一部上位互換だ。
公式見解では、「アイカが封印していた悪魔がその封印を破り、アイカの意識を乗っ取った!総員、アイカを救う為に終焉の女神“アイカ”を討伐して下さい。彼女に救う悪魔の再封印にご協力下さい」と言う感じだ。
アイカはNO世界ではアイドル的な人気がありプレイヤーの中にはアイカを傷付ける事に抵抗感を抱く者もいた。
だが、アイカを救うと言う言い回しで討伐する旨を伝えれば「アイカのHPを減らせば、悪魔を再封印できる」とゲーム的に考えるので上手いフレーズだ。
そして、ここからはギデオンクラスターのメンバーだけが知らされた情報だ。
今回の戦闘ではもしかすると、敵の“存在”がヘルビーストを配置する可能性がありいつぞやの模倣体ではなくオリジナルが召喚される可能性があると言うモノだった。
そして、ヘルビーストに殺された者は「死ぬ」と千鶴が説明していた。
無論、ゲームのシステム側でそれを防備できるがそれも完全ではなくプレイヤーの因果力や忍耐力に大きく左右されるところがあり完全な防備はできないと言われている。
そして、ギデオンクラスターの密かな任務としてヘルビーストが出現した場合、できる限りヘルビーストにプレイヤーを殺させないようにする任務が与えられた。
その最大の要因として、ヘルビーストとは人間の成れの果てだからだ。
ヘルビーストとは、低次元《じごく》堕ちた人間の魂が量子的な次元圧縮作用により“変異”した存在の事を指す。
本来、地獄に堕ちれば“焼却”されるのだが、悪魔が台頭するこの時代では“焼却”されず“変異”と言う形で存在を残す個体もいる。
ただし、その場合、人間としての自我は失われ、元となった人間の罪の本性を発露させるので非常に獰猛な獣に堕ちる。
彼らの残された本性として「酷い口渇感を癒す」事を根差し、口渇感を解消する為に人の魂を喰らい、その本質故に人を死に誘う。
彼らに「救済」の本性が無いからだ。
それにより殺された人間は運が悪ければ、そのまま死に地獄に堕ち、新たなヘルビーストとなる。
仮に戦闘中にプレイヤーが殺された場合、その戦力がそのまま相手に還元される可能性が高いのだ。
なので、ギデオンクラスターの任務としてプレイヤーの撃墜は避けなければならないと言う制約も加えられた。
「ただでさえ、難しそうな任務なのに……」
「余計困難だよね……」
マナとカナは改めて開示された情報を見直した。
ただでさえ、勝てるかどうか分からない初回ラスボス戦で誰も撃墜されずにクリアしろと言うのはゲームでも難しい。
それに僅かばかり抵抗があった。
「わたし達、もしかしたら、人殺しをするかもなんだよね……」
「そこは何とも言えないわね。ベースが人間ってだけでもう人間とは言えないし……」
ヘルビーストが元人間と言う事実は少なくともこの2人にとっては衝撃だった。
少し前に自分達にこの事を伝えていたなら人殺しと言うモノに抵抗を抱いただろう。
しかし、“魔王の文明”での人間が戦争をすると言う空気感に触れた事が相まって少なくとも命を奪う事に関して慣れた訳ではないが耐性は持てた方だ。
だから、「任務だから」と割り切ってヘルビーストを殺す事は多分、できる。
だが、断言できるところまでは踏み切れていなかった。
「ちょっと複雑だよね……その人達の事を同情すべきなのか……」
「普通に考えたら同情すべきじゃないわね。それに百合も言ってたけど、その人達が地獄に堕ちたのは警告を無視したその人達の咎であり誰の責任でもないって言ってたし自業自得なんじゃない?」
「それはそうかもだけど、少しドライじゃない?」
「かも知れないけど……だからってわたし達が気を使ったところでヘルビーストが救えるわけじゃないんだしもう殺すしかないじゃない。それ以上欲を掻く必要はないわ」
マナはBAMに取り込まれてからこう言った死生観が少しドライになっていた。
一度、死を身近で体感しただけに「死」に対する価値観がカナよりも達観しておりカナよりも割り切る事を覚えていた。
「そうだね……お姉ちゃんが正しいよ」
少なくともカナ自身、自分が何かを意識したところでヘルビーストになった人間を救える訳ではないと言う事は同感だった。
それなら他人に迷惑をかける前に殺してしまった方が……いかに殺すか考える方が建設的だと考えた。
「そうと決まったら、早く宇宙に上がりましょう。」
マナに後押しされてカナはコックピットに搭乗した。
そのままカタパルトから射出される形でメンバーは次々と宇宙に上がった。
他のプレイヤー達も次々と宇宙に上がっていく。
ネェルアサルトにより大気圏を離脱するだけの加速を得た機体が大気圏を離脱していく。
その様はまるで星が宇宙に目掛けて飛翔するかのような圧巻の光景だった。
「なるほど……アイカにそのような秘密が……」
「わたしがアイカともっと模擬戦していれば良かったのだろうか……」
リリーシャは少し申し訳なさそうに狼狽えていた。
シュウの護衛が任務である彼女は常にシュウの側にいないとならない。
その点で言えば、彼女は間違えた訳ではない。
「リリーシャ。あなたが気に病む必要はありません。遅かれ早かれそうなっていた事です。今は如何にアイカを救うか考えましょう」
「そうだな……悩んでも仕方ないか」
この中で一番ショックを受けているのは恐らく、リリーシャだ。
彼女とアイカは付き合い事短いがそれでも良き友人でありある意味で対等な関係を築いていた。
互いに高め合うライバルとも言える友人だ。
それを失うと言うのは察するにあまりある気がした。
だが、本当に悩んでいる暇はなかった。
通信越しにマナが矢継ぎ早に事を進める。
「わたし達はギルドから直接、宇宙に上がるわ。アンタ達も早く来なさいよ!それとこれ、今回開示された情報だから、道中にでも目を通して、じゃあ!」
マナはそう言って一方的に通信を切った。
「向こうも相当焦っているようですね。ともあれ、我々も急ぎましょう。」
「あぁ、そうだな」
シュウとリリーシャは急いでこの街にあるAP格納庫に向かった。
◇◇◇
今回の件に際してイベントで公開された情報とギデオンクラスターに開示された情報の2つがある。
まず、イベント関連に関する情報だ。
今回のイベントは公式公認のラスボスと言う事もありラスボス戦仕様のシステムが使える事になった。
“ネェルアサルト”と“アサルト”と言うシステムだ。
これは量子回路に組み込む形で搭載される量子兵器であり前者は使用機体の時間をゼロに近づける事により疑似的に速度を光速に近づけると言った仕様であり実質、光速戦闘を可能にするチート兵器だ。
後者の場合は1日3回まで任意の座標に対して移動が可能なシステムだ。
一度行った事がある場所は勿論、機体のセンサーが捉えた位置情報を基に移動する事も可能な上に妨害の類を一切受けない“転移”の一部上位互換だ。
公式見解では、「アイカが封印していた悪魔がその封印を破り、アイカの意識を乗っ取った!総員、アイカを救う為に終焉の女神“アイカ”を討伐して下さい。彼女に救う悪魔の再封印にご協力下さい」と言う感じだ。
アイカはNO世界ではアイドル的な人気がありプレイヤーの中にはアイカを傷付ける事に抵抗感を抱く者もいた。
だが、アイカを救うと言う言い回しで討伐する旨を伝えれば「アイカのHPを減らせば、悪魔を再封印できる」とゲーム的に考えるので上手いフレーズだ。
そして、ここからはギデオンクラスターのメンバーだけが知らされた情報だ。
今回の戦闘ではもしかすると、敵の“存在”がヘルビーストを配置する可能性がありいつぞやの模倣体ではなくオリジナルが召喚される可能性があると言うモノだった。
そして、ヘルビーストに殺された者は「死ぬ」と千鶴が説明していた。
無論、ゲームのシステム側でそれを防備できるがそれも完全ではなくプレイヤーの因果力や忍耐力に大きく左右されるところがあり完全な防備はできないと言われている。
そして、ギデオンクラスターの密かな任務としてヘルビーストが出現した場合、できる限りヘルビーストにプレイヤーを殺させないようにする任務が与えられた。
その最大の要因として、ヘルビーストとは人間の成れの果てだからだ。
ヘルビーストとは、低次元《じごく》堕ちた人間の魂が量子的な次元圧縮作用により“変異”した存在の事を指す。
本来、地獄に堕ちれば“焼却”されるのだが、悪魔が台頭するこの時代では“焼却”されず“変異”と言う形で存在を残す個体もいる。
ただし、その場合、人間としての自我は失われ、元となった人間の罪の本性を発露させるので非常に獰猛な獣に堕ちる。
彼らの残された本性として「酷い口渇感を癒す」事を根差し、口渇感を解消する為に人の魂を喰らい、その本質故に人を死に誘う。
彼らに「救済」の本性が無いからだ。
それにより殺された人間は運が悪ければ、そのまま死に地獄に堕ち、新たなヘルビーストとなる。
仮に戦闘中にプレイヤーが殺された場合、その戦力がそのまま相手に還元される可能性が高いのだ。
なので、ギデオンクラスターの任務としてプレイヤーの撃墜は避けなければならないと言う制約も加えられた。
「ただでさえ、難しそうな任務なのに……」
「余計困難だよね……」
マナとカナは改めて開示された情報を見直した。
ただでさえ、勝てるかどうか分からない初回ラスボス戦で誰も撃墜されずにクリアしろと言うのはゲームでも難しい。
それに僅かばかり抵抗があった。
「わたし達、もしかしたら、人殺しをするかもなんだよね……」
「そこは何とも言えないわね。ベースが人間ってだけでもう人間とは言えないし……」
ヘルビーストが元人間と言う事実は少なくともこの2人にとっては衝撃だった。
少し前に自分達にこの事を伝えていたなら人殺しと言うモノに抵抗を抱いただろう。
しかし、“魔王の文明”での人間が戦争をすると言う空気感に触れた事が相まって少なくとも命を奪う事に関して慣れた訳ではないが耐性は持てた方だ。
だから、「任務だから」と割り切ってヘルビーストを殺す事は多分、できる。
だが、断言できるところまでは踏み切れていなかった。
「ちょっと複雑だよね……その人達の事を同情すべきなのか……」
「普通に考えたら同情すべきじゃないわね。それに百合も言ってたけど、その人達が地獄に堕ちたのは警告を無視したその人達の咎であり誰の責任でもないって言ってたし自業自得なんじゃない?」
「それはそうかもだけど、少しドライじゃない?」
「かも知れないけど……だからってわたし達が気を使ったところでヘルビーストが救えるわけじゃないんだしもう殺すしかないじゃない。それ以上欲を掻く必要はないわ」
マナはBAMに取り込まれてからこう言った死生観が少しドライになっていた。
一度、死を身近で体感しただけに「死」に対する価値観がカナよりも達観しておりカナよりも割り切る事を覚えていた。
「そうだね……お姉ちゃんが正しいよ」
少なくともカナ自身、自分が何かを意識したところでヘルビーストになった人間を救える訳ではないと言う事は同感だった。
それなら他人に迷惑をかける前に殺してしまった方が……いかに殺すか考える方が建設的だと考えた。
「そうと決まったら、早く宇宙に上がりましょう。」
マナに後押しされてカナはコックピットに搭乗した。
そのままカタパルトから射出される形でメンバーは次々と宇宙に上がった。
他のプレイヤー達も次々と宇宙に上がっていく。
ネェルアサルトにより大気圏を離脱するだけの加速を得た機体が大気圏を離脱していく。
その様はまるで星が宇宙に目掛けて飛翔するかのような圧巻の光景だった。
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