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銀陽の戦乙女

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 わたしは国境に向かっていた。
 APで移動しようとも考えたがマイト国にこちらがアンティークを持ち出したと思われ刺激して開戦するかも知れないと思い馬を使って移動した。

 ただ、わたしが到着しリオン陛下から賜った書状を部隊指揮官の男性に渡した頃に伝令の兵士が天幕に駆け込んで来た。
 どうやら、敵のアンティークと歩兵部隊が一斉行軍を開始したようだ。
 わたしは陛下との約束通りに敵部隊の前に出た。





 敵の部隊は目視できるだけで歩兵15万にアンティーク200機と言ったところだった。
 かなりの戦力を揃えているようにアンティークがぎこちなく剣を装備しながら大地を走っている。
 わたしからするとAPがスラスターを噴かさないのは中々、奇異な戦い方をしているように見えた。

 とにかく、遅い。
 普通のAPならここまで接近するのはそう時間はかからない。
 その分、わたしは大分、余裕だ。
 わたしは指揮官に伝えた通り初撃を放つ為に左腕を天に掲げた。

 それとともにこちらの部隊がわたしの後ろに隠れる。
 わたしはそのまま上空に上がり左手に火球を作り上げた。
 フレイムスフィア……だと、流石にやり過ぎになりそうなので下級魔術であるファイアボールを全力で展開した。

 ただ、その火球は最低威力しかないと言われるボールと呼ぶにはあまりに大きく、火球が一気に膨張して学園で放ったフレイムスフィアの3倍以上の大きさで熱量は10倍以上に跳ね上がった太陽が出現した。

 学園での惨状を起こさない為に友軍に対する被害を考慮して既に神刻術で友軍周辺には熱が届かないように細工してあるので2次被害は起きない。

 ただ、それでもそのあまりの膨大で圧倒的な眩い光にこちらの兵士達は目を覆い、マイト国は兵士達の一斉に行軍をやめた。

 アレはヤバイ……

 そのように本能が疼いていた。
 それはまるで地上に現れた特大の太陽。
 この世界において太陽は絶対的な力の象徴とも呼べ畏れられる存在だ。

 だから、誰もが本能的に逆らう事をやめてしまう。
 だが、容赦はしない。
 わたしは左手からそれを投擲した。

 太陽はその巨大さに見合わず音速を超える速度で飛ばされマイト国軍の中心付近で爆ぜた。
 わたしの制御を外れた太陽の熱量が暴発し火球が膨張、爆発する。

 ズドドドドと言う轟音が鳴り響き、天地を揺らす。
 地面から舞い上がった粉塵が辺りを包みキノコ雲を作っていた。

 爆心地には僅かに生き残ったマイト軍と抉られドロドロと溶けた地面から地中の水分が蒸発し煙を立てる。
 周りの空気が一気に暖まり上昇気流が発生し辺りは晴れから曇り空に変わる。

 辺りには静寂が立ち込め誰もが現実を直視するまで時間を要し雨が頬に滴り落ちた時にようやく、現実を直視し目の前の少女が満足げに微かに微笑んでいるのが見えて狂気が奔った。

 わたしとしては思ったよりも威力がありこれで大抵の邪神を殺せるだけの力は得ただろうと言う確証が得られた安堵の笑みだったのだが、マイト軍は別の受け取り方をしたらしい。



「う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ば、化け物だぁぁぁぁぁぁ!」

「悪魔だ!焼き殺される!」

「お、オレはまだ、死にたくない!」



 生き残ったマイト軍は敗走した。
 だが、わたしはそんな彼らの背中から一気に迫り後方で待機し今、逃げようとしていた指揮官らしき立派な鎧を着た男にスタンガンの応用で首筋に雷鳴魔術を放ち、誰にも気づかれないままに指揮官を背負って味方の陣地まで戻った。

 茫然と立ち尽くす友軍にわたしはパンと手を叩き、彼らは我に帰る。



「敵の指揮官を捕まえた。誰か連れて行ってくれる?」



 わたしの仕事はあくまで国防であり尋問ではない。
 必要な時には尋問するが役割は明確に示した方が後々、問題になりにくい。
 況して、わたしにとって国として初陣だ。
 役割を明確にしておかないと不要な例外などを作り、例外を作りたい時に例外が作りにくくなる。
 そう考えて指揮官を兵士に突き出した。
 連行する兵士はわたしを見て怯え震えながらも指揮官をこちらの指揮官の前に連れて行く。

 これでわたしの任務は完了かな……さっさと帰って次のダンジョンに備えないと……わたしは指揮官に軽く挨拶を済ませてから王都に帰還した。

 それから7日後、マイトと交易のあった商人を介してある噂が広まった。

 銀陽の戦乙女によりマイト軍主力が大敗した。
 その乙女は太陽の化身ではないのだろうか?
 この国は太陽神の加護を得たのかも知れない。

などと言う噂が流れていた。

 正直、太陽神如きと比べられるのは心外だなどと思いながらわたしは国内にあるダンジョンに向かった。



 ただ、この戦いは近隣諸国の衝撃を奔らせた。
 レティシアがいるユイール王国とマイト、更にその周辺国は震撼した。
 マイトとユイールの国力で言えば、ほぼ同等とされていたが兵士の質などではマイトが上回っており誰もが戦争が起きればマイトが勝つと思い、マイトがユイールに戦争を仕掛ける兆しを察知しマイトに取り入ろうとした国も多く、その利権に預かろうとユイールに対する食糧輸出規制をかける一歩手前だった。

 だが、それも銀陽の戦乙女の存在により変わってしまった。
 情報を集めると天地を裂くような魔術を放ち15万いた兵士の大半とアンティークをまるで藁でも燃やすように殲滅したと言う神話の登場人物でも具現させたような冗談のような存在だった。

 だが、マイトとユイールの国境を確認すると実際、“そう言った戦闘が行われた”形跡があり一概に否定も出来なかった。

 その事からユイールはアンティークに取って代わるほどの強大な力を持った魔術師を国元に抱えている事が周知となった。

 今でもこれだけの騒ぎになっているのだ。
 もし、レティシアがダンジョンの武器を多数所持している事や個人で自作したアンティークの所持などが明るみになっていたら今頃、周辺国が血眼になっていただろう。

 周辺国の関心は2つだ。
 1つ、その魔術師を自国に取り込めないか?
 金や名誉、ユイールよりも好待遇で持て成せばどうにかなるのではないか?と言う考えだ。

 そして、2つはその魔術師をユイールが侵略行為に使わないか?と言う事だ。
 これは1の理由にも繋がるがユイールが侵略行為をする前に自分達の内に取り込みたいのだ。
 そして、あわよくば、自分達が侵略戦争をするためにだ。

 相手が銀髪であり迫害対象である事から差別的な意見をする者もおり太陽神を国教とする国は銀髪の少女が太陽の化身のように言われている事を快く思わず「異端」として処断しようとする動きもあったが、人間とは現金なモノで差別していても秀逸的な力があれば差別する理由も無くなる。

 人間とは自分よりも見劣りする部分を造り出し自分が上に立とうと高慢になる。
 だが、見劣りする部分を覆すファクターがあれば迫害などすぐに止める。
 人間とは“チョロイ”のだ。

 高い知能を持った知的生物を気取っていても実は動物以上に動物的であり動物と違い悪意を多く持つのだ。
 
 そんな事を知る由もないレティシアは王都を離れ次のダンジョンを目指していた。
 それと並行してレティシアを賭けてユイール王国と他国との間で水面下の攻防が行われる事になる。
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