さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨

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第三章 男神と神子、手にできなかった愛情

新たな神

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「ま、まずゅい……」

「あ?とうとう飽きたのか?それ」



 ある日天界でチーズドッグ片手に武尽・静由ペアの部屋を訪れていた命は、突然顔を顰めたかと思うとおかしな発音でそんなことを言い始めた。



 因みに現在天界は一〇五六七年を迎えており、天界の価値観からすれば命がアランたちに出会った時から然程時間は経過していなかった。



 命の様子がおかしいことに気づいた武尽は、命が七〇年弱も食べ続けているチーズドッグにとうとう飽きたのかと思い、チーズドッグを指さした。



「そんなわけないでしょ!命はまだこのチーズの虜だよ!」

「そ、そうか……」



 だが武尽の予想は的外れだったようで、命は食い気味でそれを否定した。チーズドッグのどこにそこまで命を引き付ける力があるのか理解不能なので、武尽は命の勢いに若干押されてしまった。



「まずいのはチーズドッグの味じゃなくて炎乱の状況だよ」

「あー。そっちか」



 命が〝まずい〟と形容したのはチーズドッグの味ではなく、武尽・静由ペアの世界――炎乱の状況だったのだ。



 命がそう形容する理由に心当たりがあったのか、武尽は炎乱を見渡すことのできるパネルに目をやると納得したような表情をした。



 炎乱は魔法を使うことが出来ない人間が科学、それ以外の種族が魔法を発展させた世界だ。そのせいで長らく大戦が続いていたのだが、それがようやく最近終戦したのだ。



 現在炎乱の西暦は二六九四五年。なんと驚くことに炎乱はこの大戦を約二五六七〇年も続けていたのだ。この大戦争は魔法の国――魔導連邦国の勝利ということで幕を閉じた。



 というのは魔国の勝利はとても勝利とは言い難いものだったからだ。



 確かにこの大戦争は科学の国――采国が降伏したことで魔国側の勝利ということになったが、その時には既に魔国側も十分に疲弊していて正直どちらが負けてもおかしくない状態だった。



 そもそも最初は小さな土地を巡った争いだったのが、どんどん拡大化していってここまでの大戦になったのだ。そのせいで今となっては最早何のための戦争だったのだろう?と思わざるを得ない。



 もちろん土地を巡って……というのはただの口実にすぎず、科学と魔法という決定的な違いが二つの国に亀裂を入れた要因だ。それでも両者、最初はこの戦争がこんなにも長く続くなんて思ってもいなかったのだろう。



 結局この戦争で得たものは、殺戮に対して殺戮で対抗しても何の意味もなく、悲劇と憎しみしか生まないということを学べたことぐらいなのだ。



 この点に関しては武尽の思惑通りだった。武尽がわざわざ抗争を生みやすい世界にしたのは、二度とこんな戦争を、悲劇を起こさないようにするためだったのだから。



 だがこの戦争の期間が大きな誤算になってしまった。それが今、命が危惧している問題でもあるのだ。





 長すぎた戦争のせいで今炎乱は全体的に疲弊しており、安全な環境で腹を空かすことなく暮らせている人間などこの世界にはいなかった。世界全体がスラム街のような状態で、命はその状況をまずいと形容したのだ。



「まさかこの世界の連中がここまでアホだったとはな」

「後に引けなくなっちゃったんだろうね。采国も魔国も」



 武尽がため息をつくと、命は何やら思案するように顎をつまんだ。



「よし。神様と神子を造ろう」

















 天界の広間に神々全員を集めた命は教団のようなものの上に立って神々を見渡した。



「神と神子を創造なさるのですか?」

「そう。神様二人と神子を一人造ろうと思う」



 事のあらましを説明した命にデグネフは質問をぶつけた。神の創造は命が創造主として誕生した際に行った一回きりで、神子にいたっては初めての試みだったので神々が驚いてしまうのも当たり前のことだった。



「炎乱には今こそ命たち……というか、神の救済が必要だ。だから神子を造って神々の声を世界の住人に届けてもらうんだ。ま、ここまで来たら宗教に頼るしかなくなったってことなんだけど」



 神子は神に仕え、神意ををうかがい神託を告げるのが主な仕事だ。ここまで来たら世界に干渉するしかないので、命は神子を造るという決断に至ったのだ。



「神子を造る理由は分かりましたです。でも神はどうしてもう二人造らないといけないんですか?」



 そこで疑問を上げたのはクランだった。炎乱という世界を救うために神子の存在が必要不可欠であるということは理解できた。だが何故ここで神を増やさなければならないのか?それは他の神々も疑問に思っていたことだった。



「えー、だって武尽と静由。神子とコミュニケーション取れないでしょ?」

「「あーー……」」



 命が薄ら目で武尽と静由に視線を向けると、他の神々は納得したような声を上げた。



「武尽は弱い生き物すぐ見下すし、静由はほぼ寝てるし。無理ゲーってまさにこのことだよね」



 神子という存在は世界の住人に神託を告げるので、当然世界の住人から選ばなくてはならない。そして神子は神から僅かな力も与えられる。



 そんな感じで神子と神はいろいろな場面で対面するのでそれなりの信頼関係がいるのだが、炎乱を管理する武尽と静由ではそれが不可能だと命は思ったのだ。



「と、いうわけで。武尽・静由ペアには新しく造る世界を任せるから、炎乱はこれから新しく創造する神の二人に担当してもらうよ。異論はない?」



 神子と神二人を創造しなければならない理由を理解した神々は、命の質問に頷くことで返した。よって最終的に命がこれから創造するのは、神二人と神子一人と世界一つということになった。







 命はまず男神と女神、そしてその次に世界を創造することにした。これは命が初めて神々と世界を創造した時の手順と同じである。



 その時と同じように産まれてくる神の絶対条件には、健康な身体を持っていることと世界に関するある程度の知識を持っているという二点にした。



 命がイメージを固めふさわしい魂に神の器を用意すると、広場に男神と女神が現れた。



「こんにちは。初めまして、命は命だよ!」



 命は現れた二人の神にとりあえず大きな羽織を与えると自己紹介をした。今二人の神は全裸だったので、とりあえず命は羽織を渡したのだ。



 男神は身長約一八〇センチと武尽と同じぐらいの背丈に短い茶髪。顎髭を生やした精悍な顔立ちだが、老けているわけではなくむしろ若く見える。そして頭の上には髪と同系色の可愛らしい熊耳がついていて、人間の耳の位置には何もなかった。腰部分には小さくて丸い尻尾もあって、その姿からこの男神が熊の獣人の神――獣神じゅうじんであることは明らかだった。



 女神は身長約一七〇センチ、紫色の髪をショートカットにしており、瞳にはハートのような形が見てとれた。豊満な胸や形のいい尻、そして何より腰から生えた先が逆さのハート形の尻尾と、頭に生えた二本の角から、その女神がサキュバスの神だということは明らかだった。



「命……様?」

「うん!命は創造主だよ!これからよろしくね!」



 命に様という敬称をつけることで男神は命が創造主なのかを尋ねた。命はそれを肯定すると男神に向かって片手を差し出した。



「あらぁ……随分と可愛らしい創造主様なのでありんすね……でもわっちには分かりなんす。創造主様は可愛いお顔をして実はドSなのでしょう?」



 女神は尻尾をくねらせると、まるで品定めをしながら獲物を狙うような目で命を見つめた。サキュバスとしては当たり前かもしれないが創造主相手にはあまり宜しくない行為だ。



「ごめんね。命、子供相手にそういうことするつもりないから」

「こ……子供?……サキュバスであるわっちが……?」



 命がにこやかな表情で間接的な女神の誘いを断ると、女神は信じられないといった表情で慌て始めた。どうやら〝子供〟という単語でおかしな勘違いをしたようだった。



「め、女神ちゃん?命の言ってるのは、親子供の子供って意味だからね?」

「………………あぁ!なるほどでありんす。神々は創造主様の子供ということでありんすね」



 あまりにも顔を真っ青にした女神を見かねて命は誤解を解いた。すると女神はみるみるうちに元気とサキュバスとしての自信を取り戻したようだった。



「男神くんのそれは熊なの?」

「はい、俺は熊の獣神です」



 命が男神の熊耳を指さして尋ねると、男神は我に返ったように跪き命の質問に答えた。その様子からこの男神が創造主に対する忠誠心が強いということが見てとれた。



「へぇ……それにしても可愛いなぁ……ケモ耳。ハクヲは完全に狐で男神くんとは少し違うからなぁ…………はっ!命分かっちゃったよ!この後の展開!」

「「……?」」



 長年命に仕えてきた神々はいつもの突拍子もない何かが始まってしまうとため息をつき、創造されたばかりの二人は訳が分からぬままポカンとしていた。



「ねぇねぇ、ハクヲ。ハクヲって人型になれる?もちろん耳と尻尾は残して」

「……できなくはありませんが」

「じゃあやって!」



 命はどうやら男神のような獣人の姿がお気に召したようで、白狐であるハクヲにも同じような姿になって欲しかったようだ。



 ハクヲは命の勢いに困惑しつつもその姿を獣から獣人へと変化させた。するとハクヲは白狐らしい色白な肌と白髪を持った獣人になった。もちろん白い耳と尻尾はそのままで。



「しっ……失神しそうなぐらい可愛い……」

「どんな例えだ」



 命は両手で口元を押えると目をハートにしてハクヲの可愛さの虜になった。即座に武尽のツッコみが炸裂したが、命は完全無視でハクヲの耳やら頭やらを撫でまくっていた。



「やっぱりケモ耳って正義だね…………」

「なんだ?」



 命は呆けるように呟くと何故か武尽のおでこ部分から生えた立派な一本の角を長々と見つめた。その視線に気づいた武尽は嫌な予感を感じ取ったような顔で尋ねた。



「武尽の角ってさ、二本になる?」

「何でだ?」

「だって武尽の角が二本になったら、擬似ケモ耳みたいになるかもしれないじゃん!」

「ぶっ殺されてぇのか貴様は」



 武尽の鬼神らしい精悍な角は一本だけだ。だがその角を二本に増やすことが出来るのか?そんな質問をする意図が分からず武尽は怪訝そうな顔をした。



 そんな武尽の嫌な予感は大的中で命は随分とどうでもいいことを企んでいた。武尽は蟀谷に血管を浮かばせると怒りのオーラを全身に纏って命の細い首を片手で掴んだ。



「ちぇー、けち」

「吾輩の崇高な角を獣の耳と一緒にするな!」



 もちろんそんなオーラで命が怯むわけもなく、命は不満気な表情で唇を尖らせるだけだった。



 以前命が武尽の角を褒め称えて随分と機嫌をよくしたことがあったが、やはり武尽は自分の角に誇りを持っていたようだ。



「もー、武尽は怒りんぼだなぁ…………あっ、男神くんと女神ちゃんの名前つけないとね!」



 創造した二人の神にまだ名前を付けていないことを思い出した命は思案し始めた。



「よし。男神くんの名前はかい、女神ちゃんの名前はルミカだよ。あ、それと命のことは命って呼んでね!」

「かしこまりました」

「了解でありんす」



 廻は跪いたまま、ルミカは上品なお辞儀と共にお礼と了解の言葉を述べた。



 こうして天界に新たな神――廻とルミカが誕生したのだ。





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