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第二章 仲間探求編
65、亜人の国2
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「やはりって……アデルん、知ってたの?」
非常に落ち着いた様子のアデルに尋ねたリオは、彼がその事実を知っていたことに衝撃を受けている。
「あぁ。ルルラルカがそう言っていたのでな」
「ルルラルカって、アデルんが殺した悪魔のこと?」
「あぁ」
亜人の国へ向かう道中、ナギカもアデルたちの様々な事情を聞いていたので、その件で彼女が今更驚くことは無かった。
だがナギカにとって重要なのは悪魔ルルラルカのことでは無く、同郷出身であるエルのことだった。
「あの……アデル様のお師匠様がエルという亜人なら、その方はやはり……亡くなってしまわれたのですか?」
「あぁ……」
「そう、ですか……」
現実を受け入れたくは無かったが、ナギカは受け入れなければいけないと自身を叱咤するように確認した。その声は僅かに震えていたが、アデルの方が何倍も辛いのだと理解しているからこそ、ナギカはその感情を表情には出さなかった。
「それより、早くナギカの無事を知らせた方が良いのではないか?」
「そう、ですね……行きましょうか」
暗くどんよりとした雰囲気を断ち切る様に提案すると、ナギカは早速彼らを案内するように歩き始めた。
亜人の国でエルがどのような扱いになっているのかアデルは少し気になっていたが、国に住まう亜人たちに聞けばいいかと思い立ち、背中に凭れるフードを目深に被るのだった。
********
アデルたちがしばらく人気のない道を進んでいると、農作業をしている亜人の姿が見えようやく住人を見つけることが出来た。知り合いなのか、ナギカは素早く畑へと駆け寄る。
中年女性に見えるその亜人は、ナギカの足音に気づいて顔を上げると、幽霊でも見たかのような顔で目を見開いた。
「……っ!?……ナギカ、ちゃん?」
「っ……はい」
「っ、ナギカちゃん!」
少し声を震わせながら肯定すると、彼女は手にしていた鍬を放り出してナギカの元へ駆け寄り、感極まったように力強く抱きしめた。
「心配したのよっ……ミンナちゃんが酷く取り乱した様子で帰ってきて、それで話を聞いたらナギカちゃんが奴隷として連れて行かれたなんて言うじゃない?村のみんな心配して……ご両親なんてショックでずっと寝たきりなのよ?」
「両親が?」
話の流れから〝ミンナちゃん〟というのは恐らく、ナギカが庇った少女のことだろうとアデルたちは朧気に想像した。
涙ぐみながら告げられた情報に、ナギカは思わず神妙な面持ちで尋ねてしまう。
「えぇ……それよりどこか怪我は無いの?酷いことはされなかった?痛いところは無い?」
「……その。色々ありましたが……この方々に救って頂けたので、今は何ともありません」
故郷の亜人たちを心配させまいと、ナギカは少し嘘を交えて答えた。ナギカが奴隷として隷属された日々はとても彼らに伝えられるような内容ではなく、家族が知れば発狂してしまうかもしれない。その為ナギカはその部分を濁し、今無事であることを強調したのだ。
だが、だからと言って今ナギカが何の問題も抱えていないわけでは無い。未だ男性に対する恐怖は完全に払拭できていないので〝何ともない〟というのはナギカの意地なのだ。
ナギカの言葉でようやくアデルたちの存在に気づいた彼女は涙ぐんだ瞳を向けると、静かに会釈する。
「そうだったの……それならお礼をしなくちゃ……そうだナギカちゃん。早くご両親の所に行ってあげなさい。ミンナちゃんにも会ってあげて?あの子、物凄く気に病んでいたから……」
「……分かりました」
ミンナのことと、寝込んでいるという両親のことが気掛かりだったナギカは、彼女の助言を素直に受け入れた。
こうしてアデルたちは、知り合いの彼女を連れてナギカの実家へと向かうのだった。
********
ナギカの実家はよくある二階建ての一軒家で、とても素朴な優しい雰囲気を纏っていた。道中、何人かの亜人に遭遇したのだが、一人の例外も無く全員がナギカの顔を見た途端泣き出してしまったので、彼女が村中から愛されていたことは誰の目にも明らかであった。
そして彼らはこの事実を皆に伝えるために駆け出して行ってしまったので、実家に向かうメンバーは変わっていない。
猫の耳を持つナギカはその聴覚が常人よりも優れているので、知らせを聞いた住人たちの驚き、歓喜、安堵の声が微かに聞こえてきていた。
「シンさーん、スイさーん……ナギカちゃんが帰って……」
「ナギカちゃん!?」
「「…………」」
中年の彼女が扉をノックしながらナギカの帰還を知らせると、彼女の言葉を遮る様にその扉が勢いよく開かれ、思わずアデルたちは目を点にしてしまう。
食い気味で飛び出してきたのはピンと立った耳が特徴的な犬の亜人で、ナギカが庇った〝ミンナ〟その人であった。
「……ミンナ、どうして私の家にっ……」
当惑しつつも、何故ミンナが自身の実家にいるのか問おうとするナギカだったが、それはミンナによって遮られてしまう。
涙を浮かべながらクシャっと相好を崩すと、ミンナは倒れこむようにナギカに抱きついたのだ。どうしようもない彼女の感情が流れ込んでくるような感触に、ナギカは一瞬呆けてしまう。
「っ……無事で、よかった…………もう、二度と、会えないかもって……」
「ミンナ……」
嗚咽交じりの不安を直接ぶつけられ、ナギカは何と声をかけていいのか分からなくなってしまう。
ミンナを救うために自身を犠牲にしたナギカだったが、それが本当に彼女の為になっていたのか途端に分からなくなったのだ。
ナギカが奴隷として連れて行かれるのを黙って見ることしか出来なかった彼女は自分を責めただろうし、もしナギカが二度と帰らぬ身になってしまえば彼女は一生自身を許せなくなっただろう。
そんな重荷を背負わせてしまうのであれば、ナギカの行動はただの自己満足だったのでは無いかと自責の念に駆られてしまうが、ナギカの中の酸鼻な記憶がその可能性を全否定する。
自分よりも幼い少女があんな辛い目に遭う方が良かったとは思えるわけも無く、やはりあの状況ではあれが最善だったのだとナギカは自分に言い聞かせた。
「っ、ナギカ……?」
「母さん……」
扉の向こう側――部屋の中から不安気な女性の声が聞こえ、全員がその人物に視線を集めた。
ナギカが彼女をそう呼んだ途端、その人物――ナギカの母親は部屋から一目散に駆け出す。そして玄関先まで辿り着くと、ナギカに抱きついているミンナごと力強く抱きしめた。
ナギカの母親――スイは垂れ耳が特徴的な兎の亜人で、その顔は娘のナギカとよく似ていた。
「あなたっていう子は本当にっ……どれだけ心配したと思ってるの!?もう二度とあんなことしないで!」
「母さん……心配かけて、ごめんなさい」
ナギカが捕まってからこれまで、途轍もない心労を与えてしまったスイに対して、ナギカがかけられる言葉はそれしか無かった。同じ状況下に陥ったとしても、恐らくナギカは同じ選択を取ってしまうだろう。だがそれは、今スイに対して言うべきことでは無い。
「っ……無事でよかったわ。父さんももうすぐ帰ってくると思うから、一緒に待ちましょう?」
「うん」
少しずつ落ち着きを取り戻したスイは、ナギカを含めたレディバグ一行を部屋に招き入れてくれた。
********
それからナギカの父――シンが帰宅すると、彼もスイと同じように取り乱し、痛いぐらいにナギカを抱きしめて涙を流した。
そしてシンが落ち着きを取り戻すと、ナギカはこれまでの経緯を三人に話した。なるべく三人にショックが少ないように。
リオがナギカを買い、メイリーンが彼女の傷を治療したこと。アデルたちが亜人の国までナギカを連れてきたこと。それらを知った両親とミンナは、何度も何度も彼らに礼を言い頭を下げ続けた。
ここまで誰かから感謝されることに慣れていない彼らはひたすらに恐縮してしまうが、同時にこうも思った。
ここまで娘の心配をし、自らを危険に晒した彼女を叱り、無事を安堵し、娘の恩人というだけで見ず知らずのアデルたちに感謝の意を尽くす彼らは、なんて素敵な家族なのだろうと。アデルたちは心の底からそう思った。
レディバグのメンバーは、基本的に家族との縁が薄い者が多い。家族と死別している者。家族から酷い扱いを受けていた者。そもそも家族がいるのかも分からない者。そんな彼らの目には、温かい家族の姿がとても尊いものに見えて仕方が無かった。
因みに、家族ではないミンナがナギカの家を訪ねていたのは、体調を崩していたスイの看病をしていた為だった。
「アデルくん。部屋の中なんだからその暑苦しいフードは取ったらどうかしら?」
談笑していると、スイは一切の悪気無く、何と無しにそんなことを提案した。途端に気まずい沈黙が流れ、リオたちは心配そうな眼差しをアデルに向けている。
一方のスイたち三人は、何故そんな空気になっているのか分からず、キョトンと首を傾げていた。
「……」
「アデル様……大丈夫です。……別の意味で驚いてしまうかもしれませんが、アデル様が危惧している様なことにはならないはずですので」
「……?ナギカがそう言うのであれば……」
アデルの事情も、彼らの性質もよく知っているナギカは、彼らの心配が杞憂であることを伝えた。よくよく考えれば、アデルの容姿を目の当たりにしても平然と接しているナギカを育んだ彼らが、愛し子だからという理由で恩人に対して差別意識を持つとも思えない。
〝別の意味〟というナギカの言葉を理解することは出来なかったが、アデルは遠慮がちにゆっくりとそのフードを取った。
「「…………」」
「大丈夫であるか?気分が悪くなったりしておらぬか?」
真っ黒な髪と、血のように赤いその瞳を目の当たりにした三人は、衝撃を受けた様に目を見開き、そのまま硬直して動けなくなってしまう。だがその驚いている瞳に嫌悪感や恐怖は含まれてはいなかった。
それでも未だアデルの不安は拭えず、彼は眉を下げて尋ねた。
「っあ、ごめんね、変な風に驚いて……昔この国にも愛し子が生まれたことがあるから、少し驚いちゃって……」
「……」
「大丈夫でしたでしょう?」
「あぁ……」
ハッと意識を取り戻し、慌てた様に陳謝したスイを目の当たりにし、今度はアデルが目を見開く番になってしまう。
「貴殿たちは、その愛し子のことを知っているのであるか?」
「え、えぇ……それが」
コンコンコン。スイが問題の愛し子について語ろうとした時、控えめなノックがこの部屋に響き渡り、全員が扉へと視線を向けた。
来客かと、ナギカの父親であるシンが扉を開けると、数人の年老いた亜人の男性たちが彼らの視界に飛び込んでくる。
「皆様……どうされたのですか?」
「ナギカが戻ってきたと聞いたのでな……無事を確認したくてのぅ」
どうやら彼らはナギカの帰還を人づてに聞いたらしく、わざわざ安否確認の為に訪ねてきたようだった。彼らが会話を始める中、アデルたちは突然の来訪者が何者か分からず首を傾げている。
「あの者たちは?」
「この村と、国全体を管理している古株の方々です。九百歳を超えている方がほとんどですね。因みに父と話しているのはグレイル様という方です」
「わぁお……人生経験絶対パネェじゃん」
「意味不明な言語で話すな」
九百歳というあまりにも現実味の無い年齢に、リオは語彙力皆無な感想を零してしまい、アマノから鋭いツッコみと睨みを受けてしまう。
一方アデルたちは家族でもなく、その上この国の重要人物である彼らが一人の娘の為に時間を費やしているという事実に、この国の温かさを感じていた。そして、こんなにも温かい国が大事なエルを育んだ環境なのだと思うとどうしようもない嬉しさが込み上げてきて、アデルは自然に優しい笑みを零してしまう。
ふと、グレイルとアデルの視線が交錯し、彼は目を見開く。
「っ……し、シンよ……そこの彼はまさか……」
「あぁ、はい……ナギカの恩人らしく、今彼らにお礼をしていたところで……」
「そ、そうか……いやはや、珍しいお客人に驚いてしまったわ」
悪魔の愛し子であるアデルが部屋の奥にいることに気づいたグレイルは、スイたちと同じような反応で驚いたが、やはりあっさりと平静を取り戻した。
バッチリと彼らと目が合った為アデルが軽く会釈をすると、グレイルがゆっくりと彼の元へ歩み寄ってきた。何事かと、全員が当惑気味に首を傾げてしまう。
「……何の因果じゃろうか……この国に、こんなにも大きく成長した悪魔の愛し子が訪れるとは……」
ふわふわとした顎髭に触れながら感慨深い様に目を細めると、彼は意味深なことを口にした。直感的に、この人物ならエルとエルの殺した愛し子について何かを知っているのでは無いかと思ったアデルは、神妙にその口を開く。
「それは……エルという亜人が殺した愛し子のことであるか?」
「「っ!」」
同じ愛し子であるアデルから、かつての存在のことを尋ねられたことで、レディバグ一行以外の全員が衝撃と困惑で目を見開くのだった。
非常に落ち着いた様子のアデルに尋ねたリオは、彼がその事実を知っていたことに衝撃を受けている。
「あぁ。ルルラルカがそう言っていたのでな」
「ルルラルカって、アデルんが殺した悪魔のこと?」
「あぁ」
亜人の国へ向かう道中、ナギカもアデルたちの様々な事情を聞いていたので、その件で彼女が今更驚くことは無かった。
だがナギカにとって重要なのは悪魔ルルラルカのことでは無く、同郷出身であるエルのことだった。
「あの……アデル様のお師匠様がエルという亜人なら、その方はやはり……亡くなってしまわれたのですか?」
「あぁ……」
「そう、ですか……」
現実を受け入れたくは無かったが、ナギカは受け入れなければいけないと自身を叱咤するように確認した。その声は僅かに震えていたが、アデルの方が何倍も辛いのだと理解しているからこそ、ナギカはその感情を表情には出さなかった。
「それより、早くナギカの無事を知らせた方が良いのではないか?」
「そう、ですね……行きましょうか」
暗くどんよりとした雰囲気を断ち切る様に提案すると、ナギカは早速彼らを案内するように歩き始めた。
亜人の国でエルがどのような扱いになっているのかアデルは少し気になっていたが、国に住まう亜人たちに聞けばいいかと思い立ち、背中に凭れるフードを目深に被るのだった。
********
アデルたちがしばらく人気のない道を進んでいると、農作業をしている亜人の姿が見えようやく住人を見つけることが出来た。知り合いなのか、ナギカは素早く畑へと駆け寄る。
中年女性に見えるその亜人は、ナギカの足音に気づいて顔を上げると、幽霊でも見たかのような顔で目を見開いた。
「……っ!?……ナギカ、ちゃん?」
「っ……はい」
「っ、ナギカちゃん!」
少し声を震わせながら肯定すると、彼女は手にしていた鍬を放り出してナギカの元へ駆け寄り、感極まったように力強く抱きしめた。
「心配したのよっ……ミンナちゃんが酷く取り乱した様子で帰ってきて、それで話を聞いたらナギカちゃんが奴隷として連れて行かれたなんて言うじゃない?村のみんな心配して……ご両親なんてショックでずっと寝たきりなのよ?」
「両親が?」
話の流れから〝ミンナちゃん〟というのは恐らく、ナギカが庇った少女のことだろうとアデルたちは朧気に想像した。
涙ぐみながら告げられた情報に、ナギカは思わず神妙な面持ちで尋ねてしまう。
「えぇ……それよりどこか怪我は無いの?酷いことはされなかった?痛いところは無い?」
「……その。色々ありましたが……この方々に救って頂けたので、今は何ともありません」
故郷の亜人たちを心配させまいと、ナギカは少し嘘を交えて答えた。ナギカが奴隷として隷属された日々はとても彼らに伝えられるような内容ではなく、家族が知れば発狂してしまうかもしれない。その為ナギカはその部分を濁し、今無事であることを強調したのだ。
だが、だからと言って今ナギカが何の問題も抱えていないわけでは無い。未だ男性に対する恐怖は完全に払拭できていないので〝何ともない〟というのはナギカの意地なのだ。
ナギカの言葉でようやくアデルたちの存在に気づいた彼女は涙ぐんだ瞳を向けると、静かに会釈する。
「そうだったの……それならお礼をしなくちゃ……そうだナギカちゃん。早くご両親の所に行ってあげなさい。ミンナちゃんにも会ってあげて?あの子、物凄く気に病んでいたから……」
「……分かりました」
ミンナのことと、寝込んでいるという両親のことが気掛かりだったナギカは、彼女の助言を素直に受け入れた。
こうしてアデルたちは、知り合いの彼女を連れてナギカの実家へと向かうのだった。
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ナギカの実家はよくある二階建ての一軒家で、とても素朴な優しい雰囲気を纏っていた。道中、何人かの亜人に遭遇したのだが、一人の例外も無く全員がナギカの顔を見た途端泣き出してしまったので、彼女が村中から愛されていたことは誰の目にも明らかであった。
そして彼らはこの事実を皆に伝えるために駆け出して行ってしまったので、実家に向かうメンバーは変わっていない。
猫の耳を持つナギカはその聴覚が常人よりも優れているので、知らせを聞いた住人たちの驚き、歓喜、安堵の声が微かに聞こえてきていた。
「シンさーん、スイさーん……ナギカちゃんが帰って……」
「ナギカちゃん!?」
「「…………」」
中年の彼女が扉をノックしながらナギカの帰還を知らせると、彼女の言葉を遮る様にその扉が勢いよく開かれ、思わずアデルたちは目を点にしてしまう。
食い気味で飛び出してきたのはピンと立った耳が特徴的な犬の亜人で、ナギカが庇った〝ミンナ〟その人であった。
「……ミンナ、どうして私の家にっ……」
当惑しつつも、何故ミンナが自身の実家にいるのか問おうとするナギカだったが、それはミンナによって遮られてしまう。
涙を浮かべながらクシャっと相好を崩すと、ミンナは倒れこむようにナギカに抱きついたのだ。どうしようもない彼女の感情が流れ込んでくるような感触に、ナギカは一瞬呆けてしまう。
「っ……無事で、よかった…………もう、二度と、会えないかもって……」
「ミンナ……」
嗚咽交じりの不安を直接ぶつけられ、ナギカは何と声をかけていいのか分からなくなってしまう。
ミンナを救うために自身を犠牲にしたナギカだったが、それが本当に彼女の為になっていたのか途端に分からなくなったのだ。
ナギカが奴隷として連れて行かれるのを黙って見ることしか出来なかった彼女は自分を責めただろうし、もしナギカが二度と帰らぬ身になってしまえば彼女は一生自身を許せなくなっただろう。
そんな重荷を背負わせてしまうのであれば、ナギカの行動はただの自己満足だったのでは無いかと自責の念に駆られてしまうが、ナギカの中の酸鼻な記憶がその可能性を全否定する。
自分よりも幼い少女があんな辛い目に遭う方が良かったとは思えるわけも無く、やはりあの状況ではあれが最善だったのだとナギカは自分に言い聞かせた。
「っ、ナギカ……?」
「母さん……」
扉の向こう側――部屋の中から不安気な女性の声が聞こえ、全員がその人物に視線を集めた。
ナギカが彼女をそう呼んだ途端、その人物――ナギカの母親は部屋から一目散に駆け出す。そして玄関先まで辿り着くと、ナギカに抱きついているミンナごと力強く抱きしめた。
ナギカの母親――スイは垂れ耳が特徴的な兎の亜人で、その顔は娘のナギカとよく似ていた。
「あなたっていう子は本当にっ……どれだけ心配したと思ってるの!?もう二度とあんなことしないで!」
「母さん……心配かけて、ごめんなさい」
ナギカが捕まってからこれまで、途轍もない心労を与えてしまったスイに対して、ナギカがかけられる言葉はそれしか無かった。同じ状況下に陥ったとしても、恐らくナギカは同じ選択を取ってしまうだろう。だがそれは、今スイに対して言うべきことでは無い。
「っ……無事でよかったわ。父さんももうすぐ帰ってくると思うから、一緒に待ちましょう?」
「うん」
少しずつ落ち着きを取り戻したスイは、ナギカを含めたレディバグ一行を部屋に招き入れてくれた。
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それからナギカの父――シンが帰宅すると、彼もスイと同じように取り乱し、痛いぐらいにナギカを抱きしめて涙を流した。
そしてシンが落ち着きを取り戻すと、ナギカはこれまでの経緯を三人に話した。なるべく三人にショックが少ないように。
リオがナギカを買い、メイリーンが彼女の傷を治療したこと。アデルたちが亜人の国までナギカを連れてきたこと。それらを知った両親とミンナは、何度も何度も彼らに礼を言い頭を下げ続けた。
ここまで誰かから感謝されることに慣れていない彼らはひたすらに恐縮してしまうが、同時にこうも思った。
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因みに、家族ではないミンナがナギカの家を訪ねていたのは、体調を崩していたスイの看病をしていた為だった。
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談笑していると、スイは一切の悪気無く、何と無しにそんなことを提案した。途端に気まずい沈黙が流れ、リオたちは心配そうな眼差しをアデルに向けている。
一方のスイたち三人は、何故そんな空気になっているのか分からず、キョトンと首を傾げていた。
「……」
「アデル様……大丈夫です。……別の意味で驚いてしまうかもしれませんが、アデル様が危惧している様なことにはならないはずですので」
「……?ナギカがそう言うのであれば……」
アデルの事情も、彼らの性質もよく知っているナギカは、彼らの心配が杞憂であることを伝えた。よくよく考えれば、アデルの容姿を目の当たりにしても平然と接しているナギカを育んだ彼らが、愛し子だからという理由で恩人に対して差別意識を持つとも思えない。
〝別の意味〟というナギカの言葉を理解することは出来なかったが、アデルは遠慮がちにゆっくりとそのフードを取った。
「「…………」」
「大丈夫であるか?気分が悪くなったりしておらぬか?」
真っ黒な髪と、血のように赤いその瞳を目の当たりにした三人は、衝撃を受けた様に目を見開き、そのまま硬直して動けなくなってしまう。だがその驚いている瞳に嫌悪感や恐怖は含まれてはいなかった。
それでも未だアデルの不安は拭えず、彼は眉を下げて尋ねた。
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「……」
「大丈夫でしたでしょう?」
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ふと、グレイルとアデルの視線が交錯し、彼は目を見開く。
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「「っ!」」
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アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
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