食べたい2人の気散事

10 冒険者は、飯食らう。

「何コレうんまっ！！！」

俺はメンチカツにかぶりつき、そのまま白米をかき込んだ。俺の知ってるメンチカツじゃない。サクサクなのはもちろんだけど、ガブッと噛むとジュワーと肉汁がこれでもかと溢れてくる。俺は確信した。メンチカツは飲み物だ。俺は口いっぱいに拡がる肉汁を堪能しながらモギュモギュと噛み締めた。

「思った通り、気持ちいい食べっぷりだねぇ。こっちも美味しいよー、白米にめっちゃ合うから」

差し出されたのは茶色い肉の塊。ラフテーと言うらしい。外側がプルプルしてるのは、皮が付いたままだからなのだそうだ。スっと箸を入れたらホロホロと肉が零れる。外側のプルプルもツルンと切れたのでパクッと口に入れる。

もう衝撃。

目を見開いてタットさんをると、してやったりな顔してる。俺がこう言う反応すると分かっていたんだろう。タットさんの手のひらの上で転がされてる感が半端ないが今はそれどころではない。再び俺は急いで白米をかき込んだ。モギュモギュと噛み締めると甘辛いタレ、ホロホロと崩れた肉と脂身、皮のプルプルが白米に絡まる。口の中が満足してる筈なのにダラダラと唾液が溢れてくる。ずっと口の中に入れておきたい俺と、残ってるメンチカツとラフテーを早く食べたい俺がせめぎ合う。名残惜しいがゴックンと飲み込むと、今度はメンチカツとラフテー、どちらを食べたら良いか迷ってしまう。

「肉料理は強いね。でも、もずくの天ぷらもなかなかだよ」

第3の刺客が送られてきた。けど、もずく。肉に並ぼうなんざ……良く見るともずくの濃い色の中に細いピンク色が混ざってる。これももずく？俺がじーっと見てるとタットさんが教えてくれた。

「ここのお店はランチョンミートを混ぜてるんだよね。ピンク色のやつはお肉だよ。加工肉ね。塩気があるからこのまま食べても美味しいけど、ゆん君の好きな様に食べるといいよ」

家で出る天ぷらは、いつも醤油を付けて食べるけど、タットさんの言われるがままに何も付けずに1口かじる。サクッという食感のあとに来るフワッとした感触。モグモグと噛むと確かに塩気のある肉っぽい何かが居る。……コレも美味しい。醤油は要らない。白米に合うかと言うとちょっと違う。単品でいつまでもサクサクフワフワ食べられる。もずくよ、スマン。俺はお前を見くびってた。多分これ、ナントカミート入ってなくても十分美味いと思う。入ると更に美味しくなるやつってだけで、もずくそのもののポテンシャルが高い。あと青パパイヤのサラダも美味かった。青パパイヤも初めて食べたけど、シャキシャキしててゴマドレッシングととても合った。
俺は一口一口を噛み締めて大事に食べた。単品メニューは半分以上俺の腹の中に入ったと思う。最後に、ラフテーの煮汁を白米にかけてカカカっと書き込んでフィニッシュを迎えた。

「ほぅ……」

思わずため息が漏れる。相変わらずタットさんはニコニコしながら俺の事を見てる。

「お先にごちそうさまでした。なんか単品メニューほとんど俺が食べてましたね」

手を合わせて、もうそろそろで食べ終わるタットさんに向かって頭を下げる。

「うんうん！美味しそうに食べてたね。見てて気持ちがいいよ。ゆん君に食べて欲しくて頼んだメニューだし、料理達もきっとキミに食べてもらえて喜んでるんじゃない？」

ズゾッとタットさんも最後の麺をすすり、フィニッシュした。俺と同じく手を合わせて「ごちそうさま」と呟いてる。俺の食べてる姿を散々気持ちが良いって言ってるけど、タットさんの食べ方も見てて気持ちが良いと思う。それは「イロトリ」で見た時から思っていた。タットさんは食べ物1つ1つ、大事に味わって食べてるし、食事をとても楽しんでいる。そう言う人と一緒に食事をすると、こっちも楽しくなるよな。

「まだ食べ足りない？」

手を合わせたまま、コテンと首をかしげて聞いて来る仕草が可愛い。

「いえ、もう満足です。めっちゃ美味しかったです。またここに来たいです」

「そっかー。気に入ってくれて良かったよ。他にも連れて行きたいご飯屋さんはたくさんあるけど、ここもまた一緒に来ようね」

食後のお茶(なんかコレも沖縄のお茶らしいのだが名前は一瞬で俺の記憶から消えた)を飲んで一息つく。見ると既に客席は満員で外では何組かお客さんが待ってる。
そんなに人気なお店だったのか。

「お客さんも増えてきた事だし、そろそろ出ようか？」

「はい」

タットさんに言われて席を立つ。伝表は既にタットさんが持ち出しレジで会計を始めてた。素早っ！俺も後ろから金額を覗いて財布から半分用意する。するとタットさんは俺の方を振り向いて

「今回は初回限定で俺の奢り。次は割り勘だかんね」

とイタズラっぽく笑ってた。