食べたい2人の気散事

黒川

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16 会いたいけど、会えない、俺。

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さて、兄ちゃんからアドバイスを貰って気分も晴れ晴れとした俺だが。

タットさんに会えていない。
と、言うのも、タットさんとオレが出会ったのは4月半ば。イロトリは、月末が近づくにつれて休みが増えるのだが、5月はずっと忙しい。
基本、月の収益が一定基準を超えると縮小営業に切り替わるイロトリなので、月末は割と暇になる。だから、あの時はタットさんと遊ぶのも比較的予定を合わせやすかった。けど、5月は五月病撲滅月間と称し、収益関係なく店を開け、イベントも目白押しで営業する。勿論、俺も土日平日関係無くバイトのシフトが組まれる。
基本土日はフルシフト。平日も、特に夜間帯で入れるだけ入る。
そうすると、全くタットさんと都合が合わない。

そして、都合が合わないまま、5月生まれの俺は20歳を迎えた。
誕生日当日もバイトだ。
淡い期待で、5月のどこかにタットさんが店の予約取ってくれないかなと思っていたのだが、そこはイロトリクラスタが本気を出した。

どこから沸いてくるんだ?と言いたい位、再来店のお客さまが予約解放後、一瞬で通常営業もイベントの予約も埋めた。
まぁ、俺もイロトリのアルバイトとして長いから知ってる。一瞬で予約が埋まるとはいえ、5月が1番予約が取りやすい。枠が多いから。
イベントも普段より多い人数で枠を開けてる。
なので、常連とまではいかないが、年1~2位で行けたらいいなと思ってるお客さまは、だいたい5月を狙う。因みに、8月も「夏休み子育て頑張ってる保護者を応援月間」で5月と同じような感じで狙われるが、それは割愛。

「ユネさぁん、俺、タットさんに会えてないんですけどー?」

イロトリの営業時間も終わり、片付けをしながら店主のユネさんに愚痴った。そもそも、バイト先がこんなに忙しくなければ5月後半には会えていた筈なのに。

「会えない時間で愛を育むって、何かの恋愛指南書に書いてあったから次会うまで育んどきなさいよ。知らないけど」

「そもそも育む関係じゃないです。俺はタットさんとまた遊びたいんです」

グチグチ言いながらフロアをモップで掃除する。そう言えば、今日は動き回りたい盛りなチビチビ達が良くジュースこぼしてたなぁと思い出しながらキュッキュといつもより念入りに磨いた。

「別に31日連勤なんて鬼みたいなシフト組んでないでしょ?ゆう君が休みの日だと合わないの?」

「えぇー?だって今月の土日はバイトで全部埋まってるし、休みなんて平日じゃないですか。タットさんは土日休みの仕事だし、平日会うってなると夜ですよ」

俺が更に愚痴ると、ユネさんはキョトンとした。

「それのなにが不都合なの?」

「え?」

「夜ご飯を一緒に食べに行ったり、ゆう君も20歳なんだし、飲みに行く事くらい出来るでしょ?」

「え?」

か……考えもつかなかった。俺は、タットさんと会うイコール、ゲームするとか、ゲームするとか、あとゲームくらいしか思い浮かばなかった。要は一緒にCDフィットをするか、テレビゲームで遊ぶくらいの思考しかなかった。
そう言えば、俺も大人の仲間入りしたんだ。行った事はないけど、居酒屋だったり、ちょっと良い雰囲気のバーとかに、2人で行く事だって出来る。

「ユネさん天才か!」

「いや……あのね……まぁ、ゆう君見た目の割には初心うぶちゃんだものね」

ユネさんは、ため息を吐きながら少し笑ってた。
恋愛経験皆無なのは、事実なので反論はしない。
それはそうと、バイトの時間が終わったら早速タットさんを食事に誘おうと、ウキウキしながら終業時間までキュッキュとフロアを磨き続けた。
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