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賢者は真白き居城にて遠く翠の夢を見る
#05 白き森の大賢者2
しおりを挟む並べられた碗は一般的に訪問客用として出される素焼きの碗ではなく、つるりとした釉薬も滑らかな陶器の器だった。素焼き碗に茶が滲み出るまでには終わらない話であることを実感する。
「さてもさても……何からお話したものやら。私としましてはまだ早いと思っておりましたからな」
三つの碗に乳茶の甘い香りを含んだ湯気が行き渡ると、神官長はポットを机の端に置いて椅子に向かった。
造り付けで石膏造りの机は足の悪い神官長が頼っても揺れることはないが、甘椰子の繊維を編んだ籠椅子は軽く、しゃりりと音を立てる。慌てて立ち上がり、ずれる椅子を支えた。
「おぉ、ありがとう。この椅子は先日おもりが取れてしまいましてな……ところで、お誕生日の画集は何冊になりましたかな?」
「十六冊です、お祖父様」
即答すれば、神官長は目尻の皺を深くして目を細める。
「結構、結構。大きくなられましたな……私も歳をとるはずだ」
「……そんな」
俯く目の前にしわがれた手が差し出された。座れということらしい。
席に着く。神官長が乳茶を一口啜ったので自分も器に口をつけた。強い甘味としっかりしたスパイスの香り。神官長の淹れてくれる乳茶はいつどんな時でも美味しい。
「さて、ライト殿。失礼な質問であるとは思いますが大賢者様についてはご存知かな?」
「まあ、ある程度は。名前はラルク・フレア。現在白砂原となっている旧聖都出身の冒険者……ああ、こっちには該当する言葉が無いな。簡単に言えば、流れの便利屋といったところか。キャラバンの護衛が毎回違ったりするだろう、アレだ」
「旅人ではないのですか?」
「旅人の一種ではあるんだが、彼らは特定の目的を果たしたら帰るのではなく、『目的を渡り歩いている』者たちだ。旅先で情報と仕事と報酬を得ながら興味を持てる目的をその都度探し続けて旅をする」
世の中には色々な生き方が有るものだ。
心のままに旅をするという彼らを少々羨ましく思いながら、乳茶の碗を掌で包んだ。
ライトは続ける。
「大賢者ラルクはまさにそういった生き方をしていた。元はといえば、折りの悪かった神力と魔力の融合法を研究した所為で生家から勘当されて、帰る場所が無くなったからなんだが」
「……勘当されていたのは初耳です」
素直に告げると、ライトは少し笑った。
「英雄譚ばかりが語り継がれるからな。実際、巷で語られるのは殆ど『大地の大釜』のくだりだけだ」
「確かに……だいたいの書物では大賢者様が聖都で編成された義勇軍に参加してからですものね」
画集や伝記の内容を思い返して頷く。
「生家は神官の家系だったそうだから余計に、だろう。勘当されたあとは冒険者仲間や後の聖乙女と出会い、各地を転々としながら紀行記をしたためていたらしい。もっとも、その書物も今は白き森に封じ込められたままだが……彼らが冒険者として請け負った案件のいくつかについては各地の商工会や施設に記録が残っているな」
「大賢者様たちはどんなお仕事をなさったんですか?やはり世のため人のためになる尊いお仕事を?」
「……いや、魔獣の駆除をすることもあったようだが、配達や護衛、行方不明者の捜索、手に入りにくいマテリアルの収集が中心だったようだ。屋根修理の手伝いなんて小さな仕事も有れば任務失敗の記録も有る。残念ながら世間が夢見るような万能者ではないな」
話を聞きつつ黙って乳茶を啜っていた神官長が静かに頷く。
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