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賢者は真白き居城にて遠く翠の夢を見る
#10 白砂原
しおりを挟むライトの言葉のおかげか、気分はずいぶん軽くなった。けれど延々と続く砂岩の道は遠く、変わらぬ景色は自分達の歩みを不安にさせる。せっかく晴れた心も歩みを進めるうちに澱んで重くなっていった。
お喋りでもできれば違うのかもしれないが……ちらりと横目にライトを見上げる。気晴らしできる望みは薄そうだ。ライトは寡黙というほどではないものの口数は決して多くはない。無駄な体力を使わないという点ではライトの振舞いが正しいのかもしれないが、しかし今まで神殿の仕事に追われて忙しい日々を過ごしてきた身にとって何も無いに等しい砂原をただただ歩き続けるだけという状況はなかなかに耐え難いものでもあり……
気付かれぬよう小さく溜息を漏らす。
ひたすら続く淡黄色の道と、銀色の植え込み。その向こうに広がるのは緩やかに波打つ白い砂原。時折現れる石塚や赤い実をつけた肉厚の植物もそうそう長く興味を保てる対象ではなく、一度見慣れてしまえばもはや同じ景色が延々と続くのみだ。
更に言えば、曇っているとはいえ陽の光は滞り無く地上に届きチリチリと身体を乾燥させてゆく。日除け布を被っていてもそれは同じだ。道は舗装されていてなお積もる砂を蹴って歩かざるを得ず、体力を奪う。
永遠に続く、白い道。
目的地が決まっている以上必ず終点は有る筈なのに、この道には限りが無いという幻想に押し潰されそうになる。不安を拭うように煽ろうとした水筒が思ったよりも軽くなっているのに気付いて慌てて蓋を閉め直した。
意を決し、小走りにライトの隣へ移動する。
「ライトさん、まだかかるんですか?」
「ああ……そうだな、だいたい三、四日ってところか」
すう、と血の気が引いた。
「……あ、あの、ライトさん……僕、お水……」
言いかけたところでライトが立ち止まる。叱られると思い首をすくめたが、ライトの視線は前方に向けられたままだ。
「……あの……?」
「見えるかね」
ライトの腕が上がり、道の向こうを指し示す。
「あの影が今夜の宿だ」
────────────────────
その建物は日に干して作る煉瓦を積み上げて作られていた。街道を往く者の休憩所なのだそうだ。三、四日掛かるというのは最終的な目的地のことだったようで、ほっと胸を撫で下ろす。
オアシスで見る建物よりもかなり窓が小さいのは風のカーテンによる加護を受けていないからだろう。砂嵐や熱気に冷気、加護から外れた白砂原の環境は厳しい。大きな窓では砂や外気が簡単に入り込んでしまうのだと何かで読んだ記憶があった。
建物の脇では荷竜車が一台と荷竜が数頭の小規模なキャラバンがキャンプを作っていて……ざっと見たところ人員は十人程だろうか。雰囲気の違う数人は雇われ護衛か。
建物に入らない様子が気にはなったが、眺めているうちに荷車を守るためだと気付いて納得した。
流石に荷車や荷竜たちは中に入れない。そして広大な白砂原で積荷は大変魅力的だ。人間にも、大砂蟲をはじめとした害獣たちにも。
「よぉ」
先客の一人がこちらを見て手を挙げた。
既知の仲であるのか、ライトが慣れた様子で先客に近づいてゆく。
「ライトの旦那、今日はどうする」
「水だな。四本」
水なら自分も欲しいのだが……
口を出そうとするがなかなか隙が無い。あわあわオロオロしていると、ライトの分厚い手が差し出された。
「クリス、水筒」
「へ?」
「水が無いだろう。入れてもらおう」
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