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Episode#02:精霊術師と死霊術
Episode#02:精霊術師と死霊術1
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まぁ、問題を抱えた学生は大抵人のいない時間に現れるものではある。ものではあるが。
「……寮の門限どころか消灯時間も過ぎてると思うんだけど……どやされるわよ?」
草木も眠る闇牛時、ほとほととシャッターを叩く音に気付いて店を開けてみれば学生がひとり、立っていたのだった──
ここはグリードフォックス魔法学院。
ようやく黙って机に着けるようになったばかりの幼児が湖をひとつ無事に凍らせることができるように、あるいは焼畑一枚を他に延焼させることなくこんがり焼けるように……まぁとにかく一人前になるまでの数年間、魔法の鍛錬を行う学び舎だ。
私はクレープ。学院の購買部で働いている。
実は学院長なんかもやっているのだけど、自分ではこっちが天職だと思っているから生徒達には内緒。
あだ名はシスター。
レディとかマムとか呼んだらゲンコツものなのでそのつもりで。
──話を戻そう。
店の前に立っている学生。校章から高等科の学生であることが判る。廊下の窓から差し込む月明かりに浮かぶのは銀の髪と夜空の瞳、端正な顔の、少年。
「……どうしても売って欲しいものが有るんです」
落ち着いた、静かな…というよりも儚げでおとなしい声。
「……誰にも知られたくなくて……こんな時間にすみません」
あー……何か事情ありきなのは解る。でもなー……ガクインチョーセンセーとしては規則違反はなー……
……ガクインチョーセンセーとしては……
「……見回りに見つかったらコトよね。入って」
窓口横の壁に命じて入口を開かせる。
うん、ガクインチョーセンセーとしては駄目なんだけど……学生達の味方、購買部のシスターとしては困っている生徒を放って置けないのであった……まる。
綺麗な顔立ちの、しかし何処か影の薄い少年はダスクと名乗った。
「購買部の奥ってこんなお部屋になってたんですね……」
「よく言われる」
部屋中で薬草を育てている、半分温室のような部屋が自分の私室だ。家具は簡易なキッチンとニ、三人でお茶ができる程度のテーブルセット、大きくはないベッドに読みかけの本を仮置きする程度の小さな本棚くらい。あとは植物が我が物顔でのさばっていて……まぁ、あんまり居室として分類できる代物ではないかもしれない。
おもてなしには干してある薬草から月詠草を選んだ。こんな夜にぴったりな藍闇色のお茶になる。キラキラシュガーを添えて。
「わ……綺麗なお茶……初めて見ました」
そうじゃろうそうじゃろう。
見開かれた濃紺の瞳に満足しつつ、向かいの席に腰掛けた。
「それで?夜中に人目を忍んで買わなきゃいけないものって何かな?」
自分のお茶を一口すすって促す。
「高等科なら学生に売れない品があるのは知ってるよね。その類だとどうあっても売れなかったりするんだけど」
聞けばダスクはひとつ深く溜息をつき……いや、深呼吸かな。ともかく顔を上げて口を開いた。
「……『聖気盾』を……買いに来ました」
『聖気盾』
それは強い聖気から術師ではなく霊体を守るもので、主に死霊使い達が使用する。
ストックが無いわけではないけれど、この学校に死霊術師のクラスは無い。だから聖気盾の出番といえば研究対象の素材や生物があまりにも光魔法に弱いとか、そんなレアケースのみだ。
しかしこの生徒が付けている校章は。
「君、精霊使い……だよね?」
魔法陣の中に翼をあしらった、召喚魔術科のピンバッヂ。成績優秀者に与えられる星のチャームが下げられている。
しかも2個──優等生じゃないか。
「『聖気盾』か……」
厳重管理品ではないから売れないわけではないが、それにしても。
「……うーん……精霊は聖気の塊だから、君の精霊に使うつもりなら逆に封じることになっちゃうよ?」
そう、『聖気盾』はその性質上霊体を包み込んで発動する。動きとしては『聖気』を遮断する衣服やヴェールのようなもの、というだけだから、もちろん死霊だけではなく精霊にも使えるのだけれど……外からの力を受け付けないということは当然の如く内からの力も通らないわけで。
「……はい……それで、良いんです」
ダスクの細い指がティーカップを包む。
「……それさえあれば……後はわたしがなんとかできるから」
大きな目が瞬いた。
「危ないことには使いません。他人様に迷惑もかけないと誓います。ただ、クラスメイトや先生たちに知られたくないだけなんです……」
「……寮の門限どころか消灯時間も過ぎてると思うんだけど……どやされるわよ?」
草木も眠る闇牛時、ほとほととシャッターを叩く音に気付いて店を開けてみれば学生がひとり、立っていたのだった──
ここはグリードフォックス魔法学院。
ようやく黙って机に着けるようになったばかりの幼児が湖をひとつ無事に凍らせることができるように、あるいは焼畑一枚を他に延焼させることなくこんがり焼けるように……まぁとにかく一人前になるまでの数年間、魔法の鍛錬を行う学び舎だ。
私はクレープ。学院の購買部で働いている。
実は学院長なんかもやっているのだけど、自分ではこっちが天職だと思っているから生徒達には内緒。
あだ名はシスター。
レディとかマムとか呼んだらゲンコツものなのでそのつもりで。
──話を戻そう。
店の前に立っている学生。校章から高等科の学生であることが判る。廊下の窓から差し込む月明かりに浮かぶのは銀の髪と夜空の瞳、端正な顔の、少年。
「……どうしても売って欲しいものが有るんです」
落ち着いた、静かな…というよりも儚げでおとなしい声。
「……誰にも知られたくなくて……こんな時間にすみません」
あー……何か事情ありきなのは解る。でもなー……ガクインチョーセンセーとしては規則違反はなー……
……ガクインチョーセンセーとしては……
「……見回りに見つかったらコトよね。入って」
窓口横の壁に命じて入口を開かせる。
うん、ガクインチョーセンセーとしては駄目なんだけど……学生達の味方、購買部のシスターとしては困っている生徒を放って置けないのであった……まる。
綺麗な顔立ちの、しかし何処か影の薄い少年はダスクと名乗った。
「購買部の奥ってこんなお部屋になってたんですね……」
「よく言われる」
部屋中で薬草を育てている、半分温室のような部屋が自分の私室だ。家具は簡易なキッチンとニ、三人でお茶ができる程度のテーブルセット、大きくはないベッドに読みかけの本を仮置きする程度の小さな本棚くらい。あとは植物が我が物顔でのさばっていて……まぁ、あんまり居室として分類できる代物ではないかもしれない。
おもてなしには干してある薬草から月詠草を選んだ。こんな夜にぴったりな藍闇色のお茶になる。キラキラシュガーを添えて。
「わ……綺麗なお茶……初めて見ました」
そうじゃろうそうじゃろう。
見開かれた濃紺の瞳に満足しつつ、向かいの席に腰掛けた。
「それで?夜中に人目を忍んで買わなきゃいけないものって何かな?」
自分のお茶を一口すすって促す。
「高等科なら学生に売れない品があるのは知ってるよね。その類だとどうあっても売れなかったりするんだけど」
聞けばダスクはひとつ深く溜息をつき……いや、深呼吸かな。ともかく顔を上げて口を開いた。
「……『聖気盾』を……買いに来ました」
『聖気盾』
それは強い聖気から術師ではなく霊体を守るもので、主に死霊使い達が使用する。
ストックが無いわけではないけれど、この学校に死霊術師のクラスは無い。だから聖気盾の出番といえば研究対象の素材や生物があまりにも光魔法に弱いとか、そんなレアケースのみだ。
しかしこの生徒が付けている校章は。
「君、精霊使い……だよね?」
魔法陣の中に翼をあしらった、召喚魔術科のピンバッヂ。成績優秀者に与えられる星のチャームが下げられている。
しかも2個──優等生じゃないか。
「『聖気盾』か……」
厳重管理品ではないから売れないわけではないが、それにしても。
「……うーん……精霊は聖気の塊だから、君の精霊に使うつもりなら逆に封じることになっちゃうよ?」
そう、『聖気盾』はその性質上霊体を包み込んで発動する。動きとしては『聖気』を遮断する衣服やヴェールのようなもの、というだけだから、もちろん死霊だけではなく精霊にも使えるのだけれど……外からの力を受け付けないということは当然の如く内からの力も通らないわけで。
「……はい……それで、良いんです」
ダスクの細い指がティーカップを包む。
「……それさえあれば……後はわたしがなんとかできるから」
大きな目が瞬いた。
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