色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

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証言者たち

ソフィアの証言~隠された策謀~その2

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「“ソローキン反乱”の後に別に知られていない話もあるのよ」。ソフィアは話を続ける。「ソローキンを打ち取ったベセルー川での戦いの後、私たちは、一旦、首都に戻ったんだけど、すぐに別の命令で出撃することになったのよ」。
「「そうなんですか?」」
 イリーナとクララは驚いた。そんなことはどこの書籍にも載っていない。
「私たちは首尾よくソローキンを倒し作戦を終えることができました。しかし、帝国軍の多くが公国との国境に移動していたので、それを機会と捉えた共和国領内の独立派が反乱を起こしたの。そして、私たち遊撃部隊にその独立派を討伐しろとの命令が出た」。
「独立派?」
「そのころ共和国は帝国に占領されていたから、共和国を帝国から再独立させようとした人達ね。実は、師は彼らと裏で通じていたのよ」。
「裏で?」。
 クララが驚いて声を上げた。
「それも初耳です」。
 イリーナもメモを取っていた手を止め、顔を上げて言う。
「師が通じていたのは結構前からで、“チューリン事件 ”で最初に皇帝に呼び出されたとき、旅の途中、全くの偶然で独立派と出会うことがあったのよ」。
「そうだったんですね」。
 イリーナとクララは再び驚いて見せた。書物を読むより当事者に聞く方が、より隠された真実を詳しく知ることができる。

「それで、話を戻すと、皇帝からの命令では最初の目的地はベルグブリッグだったけど、師の考えですぐにモルデンに変更になったわ」。
「なぜ、ベルグブリックが目的地だったのですか?そして、なぜ、モルデンに変更になったのですか」。
 クララが尋ねる。
「共和国内で反乱を最初に起こした勢力がベルグブリックで集結していたのよ。それで、最初の皇帝の命令はそれを討伐せよと。でも、遊撃部隊の隊員達は、私のようにほとんどが共和国の出身者でしたから、同じ共和国の人間を討つのは抵抗があったのでしょう。後から聞いた話ですが、師によるとオットーは、ベルグブリックに到着したら遊撃部隊から離れて共和国派に付くと言っていたそうです。おそらく他の多くの隊員達もそう思っていたのでしょう。私もそうしたと思います。そうなると師は命令を遂行することができない」。

「お爺様自身はベルグブリックで共和国派に付こうとは思わなかったのでしょうか?それで、どうしてモルデンに目的地を変更したのでしょうか?モルデンの共和国派はそんなに数が多かったのですか?帝国軍と戦うことの出来るそれなりの人数がいたのでしょうか?」
 クララは立て続けに質問をした。
「いいえ」。そういうと、ソフィアはなぜか微笑んで見せた。「師は悩んだ挙句、結局はモルデンで共和国派に付くのだけれど、ベルグブリックの共和国派と合流しても帝国軍には勝目はないと思った様ね。ベルグブリックに居た共和国派は千人程度、それに遊撃部隊を含めても千二百人しかいないから、数千、数万の帝国軍に攻められたら勝ち目はないと思ったのでしょう。数も少ない上に、ベルグブリックには城や砦が無い小さな街だったので、それで帝国軍に攻め込まれたらひとたまりありません。一方、モルデンは城、街壁もありますし、ベルグブリックで戦うよりはモルデンで戦う方がまだ勝てる可能性は少しはあるだろうと。ただ、師は、結局、戦闘になったら市民も巻き込まれて犠牲者が多く出るので、なんとか戦いになることは避けたいと思ったようです。だから、師は一計を謀ったのよ」。
「一計?」
「そう。偽の命令書を作って、モルデンの帝国軍の副司令官をだましたのよ」。
「偽の命令書?」クララが驚きの声をあげた。「そんなことが可能なんですか?」
「師は似たような命令書をいつも見ていたから偽造は簡単だったと言っていたわ」。
「その偽の命令書はどういうものだったのですか?」
「師がモルデンに駐留していた帝国軍の司令官に任命するというような命令書よ。ベセルー川の戦いのために、モルデンの本当の司令官は街を離れていたので、その留守を突いて副司令官に見せたの。結局、モルデンに残っていた副司令官はその命令書を信じて師はモルデンを掌握したのよ」。
「たった一枚の命令書で旅団と都市を掌握するなんて、お爺様、やりますね」。
「まさに大胆不敵」。
 イリーナとクララは感嘆の声を上げた。

「モルデンを掌握した後はどうなったのですか?」
 イリーナは興味津々の様子で尋ねる。オレガは変わらず静かに話を続ける。
「ベセルー川の戦いから戻って来たルツコイ司令官達の旅団が、すぐそこに迫って来たので、それをどうにかしなければいけなかったのよ。その数は六千。帝国軍の司令官のルツコイという人は戦上手だったから、師は戦っても勝てる可能性は少ないと思っていたのよ。だから師は降伏することを選んだわ」。
「せっかくモルデンを掌握したのに、降伏したのですか?」
「言葉が足りなかったわね」。ソフィアは息を継いでからはなしを続けた。「師は一人で降伏したのよ」。
「一人で?!」イリーナとクララは驚いて叫んだ。「どういうことですか?」
「まず、師は時間稼ぎをしようと思ったのよ。そして、モルデンに残った私たちには、帝国軍とは戦っても勝ち目はないからなるべく籠城して、ルツコイ達とは戦わないようにと言ってね」。ソフィアはコップの飲み物を飲み干してから話を続けた。「それに、師は降伏することで囚人として首都に護送されるのは間違いないから、そこで皇帝に共和国を解放するように説得すると」。
「それで、説得できたんですか?」
 イリーナは尋ねた。
「ええ、もともと共和国の統治は帝国にとって大きな負担になっていたし、共和国を占領したのは、魔術師アーランドソンが前皇帝の体を乗っ取ってやったことだから、アーランドソンが現れる前の状態に戻そうということも、そもそも検討していたみたい」。ソフィアはふと思い出したように尋ねた。「魔術師アーランドソンは知っているわね?」
「はい、オットーさんから聞きました」。イリーナは答える。「“チューリン事件”の時、皇帝の体を乗っ取っていたとか」。
「そうね。それで、そういう事もあって師は皇帝を説得することに成功したようです」。
「歴史の本にはそんなこと書いてありません」。
 クララが驚きの口調で尋ねる。
「そもそも、遊撃部隊がモルデンにいて共和国に寝返ったことは、帝国の本にも共和国の本にも書いていないはずよ」。
「どうして、歴史の本には、それが書いていないのでしょうか?」
「共和国では、エリアス・コフが再独立を自分の手柄にするためには、その事実は都合が悪かったんでしょう、だから隠されているのだと思います。帝国のほうで知られていない理由は分からないわ。皇帝と側近たちで秘密にすると決めたのではないのかしら?」

 やはり何か歴史書には書かれていない真実があるとイリーナは再認識した。今知った秘密の理由は、別の誰か、もしくは、他になにか資料が見つかれば、その真実がわかるかもしれない。
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