色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

文字の大きさ
31 / 66
人民革命

北へ

しおりを挟む
 首都を脱出したユルゲンは、ルツコイ達の後を追う。
 しかし、ユルゲンは途中、自分の屋敷に立ち寄ったため、彼らの姿はもう見えなかった。かなり先の方まで行ってしまったのだろう。しかし、行き先はわかっている。帝国の北の国境線に近い都市プリブレジヌイだ。陛下の一行もそちらに向かっているはずだ。
 ユルゲンもプリブレジヌイへ向かう。

 その日の夜遅く、ユルゲンは小さな村に到着した。
 家々の窓から明かりが漏れている。
 村の中を少し進むと、見慣れた馬車があった。皇帝の馬車だ。皇帝は今のところ無事に逃げ延びているようだ。馬車の周りには親衛隊が見張りとして数名立っていた。
 ユルゲンは親衛隊に声を掛けた、一瞬、彼らは警戒して剣に手を掛けるが、ユルゲンをよく見て安堵のため息をついた。
「副司令官!ご無事でしたか!」
「ああ、なんとかね」。
「陛下は、この民家の中です。副隊長もおられます」。
 ユルゲンは隊員の一人に招かれて、小さな民家の中に入った。
 そこには、副隊長のベルナツキーと数名の親衛隊が椅子に座って何やら話し合っていた。
「副司令官!」ベルナツキーは私の顔を見ると立ち上がって近づいてきた。「よくご無事で」。
 彼と部下は安堵の表情を見せ、立ち上って敬礼した。
 ユルゲンは敬礼をする。
「途中、ルツコイ司令官達とはぐれてしまったが、彼らもプリブレジヌイへ向かっている」。
「では、あちらで合流できるでしょう」。
「実は、ヴァーシャが行方不明だ」。
 クリーガーは不安そうに話す。
「隊長が?」
「そうだ。あの後、家に立ち寄ったら、召使いしかいなかった」。
「隊長はお腹が大きいのでは」。
「ええ、妊娠六か月です。その上、街があの状況で出かけるとは思えない」。
「きっと、早めに退避したんですよ」。
 ベルナツキーはユルゲンを慰めるように言う。
「そうだといいが」。ユルゲンはため息をついた。そして気を取り直して尋ねた。「陛下は?」
「奥の部屋で休まれています。さすがに、馬車の中で、とは言えませんでしたので」。
「この家の住民は?」。
「大金を払って、今夜だけ他のところへ行ってもらいました。宿泊するのが皇帝だというと、驚いていました」。
「無理もない」。
「副司令官もお休みになっては?と、言っても床に、ですが。我々も順番で休んでおりますので、お気兼ねなく」。
「わかったありがとう」。
 もう、遅い時間だったし、明日の出発も早い。そして、さすがに今日は疲れた。ユルゲンは床に横になり、眠ることにした。

◇◇◇

 翌朝。ユルゲンは目を覚ました。眠りが浅かったのか、すっきりしない感じだった。懐中時計を見るともうすぐ日の出の時間のはずだ。
 ベルナツキーと親衛隊員数名はまだ床に横になっていた。他の親衛隊員数名が起きて見張りをしていた。
 ユルゲンは起き上がると、眠っている全員を起こす。

 ユルゲンは皇帝イリアも起こそうと奥の部屋につながる扉をノックした。皇帝はすでに起きていたようで、返事をするとすぐに扉を開けて出て来た。
 彼女はユルゲンを見て驚いたようだった。
「クリーガー。追いついたのですね」。
「はい、陛下。プリブレジヌイまでお供いたします」。
「心強いです」。
「では、急ぎましょう」。
 ベルナツキーはそう言うと、皇帝を馬車へ誘導する。そして、皇帝が馬車に乗り込むのを見ると隊員達と馭者に出発の合理を掛ける。一行は村を出発した。ユルゲンもその後に続く。

 村を出発して街道を北へ進み数時間後、時間はそろそろ正午になろうとしていた。
 後方を警戒させていた親衛隊員の一人が声を上げた。
「追っ手です!」
 ユルゲンたちは予想外の早い追っ手に困惑した。反乱兵は我々の行く先は知らないはずだ。なぜ、彼らはこんなに早く追いつけるのだろうか。
 皇帝の専用馬車ではそれほど速さが出せない。すぐに追いつかれるだろう。
 街道の後方、遠くに見えた追っ手は五十名はいる。
 こちらは四十名ほどだ。
 数名に陛下の馬車の護衛を任せて先を急がせ、ユルゲン、ベルナツキーとほかの隊員達はむきを変え追っ手を待ち構える。

 追っ手は、ユルゲン達を見ると馬の速度を落とした。
 先頭の男がゆっくりと前に進みだす。
 ユルゲンはその男の顔を確認する。彼には見覚えがあった。反政府勢力のリーダー、ヴィクトル・ナタンソーンだ。

 ナタンソーンは声の届くところまで来るとユルゲンに気が付いて語りかけて来た。
「ユルゲン・クリーガーか。以前、一度会ったことがあるな」。
 彼とは三年前、首都で顔を合わせたことがある。ユルゲンはナタンソーンが街で演説中に、たまたま遭遇したことがあるのだ。
「そうだな」。
 ユルゲンは静かに答えた。
 ナタンソーンは続ける。
「もう帝国は崩壊だ。抵抗は無意味だ。降伏しろ」。
「降伏はしない」。
 そう言うと、ユルゲンは剣を抜いた。
 その言葉を継ぐようにベルナツキーも剣を抜き怒鳴った。
「陛下がおられる限りな!」。
 親衛隊たちも剣を一斉に抜く。
 ナタンソーンは笑いながら言った。
「仕方ないな」。
 そして手で合図をする。追っ手の仲間は剣を抜いた。
「こちらの方が数は多いぞ」。
 ナタンソーンの手下たちは突撃してきた。ユルゲンたちは応戦する。

 しばらくの戦いのあと、追っ手の半分以上が倒された。ユルゲン達の側の犠牲者は数名だ。
 その状況を見てナタンソーンはぎょっとした。
「我々は精鋭だ。同じ程度の数では戦いにならないぞ」。
 ユルゲンは叫んだ。
 ナタンソーンは狼狽して「退却だ!」。と言って慌てて手綱を打って馬を返した。
 ユルゲンたちは彼らを深追いをせずに、皇帝の後を追うことにした。

 馬を急がせるベルナツキーはユルゲンに話しかけた。
「しかし、これでは、また追いつかれます」。
「その時は、また撃退するほかない」。
 そうは言ったものの、今度はもっと大勢で追ってくるだろう。さらに、皇帝の馬車はさほどスピードを出せない。何とか追いつかれる前にプリブレジヌイに到着せねば、と誰もが考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...