色彩の大陸1~禁断の魔術

谷島修一

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“預言者”

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「チューリンを排除するような動きはないのですか?」
 私は、浮かび上がってきた疑問をぶつけた。
「表立ってはないな。そういう噂を聞いたこともないね。皆、不満を述べる程度だ」。イワノフは付け加えた。「そうそう、どうも奴は魔術師らしい。というのも魔石のペンダントをこれ見よがしに付けているからね。魔術師などのそれとわかる者が見たら、相当強力な魔術を使おうとしないと、あれほど見事な魔石は持つ必要がないと言っていたな」。
「ほう」。
 私は、思わず声を上げた。
「まあ、チューリンが魔術を使うところを見たものはいないがね」。
 イワノフはそう言うと笑って見せた。偽物かもしれないね、と言わんばかりに。
「帝国軍の魔術師だったということは?」
「それはないね。あれほど見事な魔石は持つ必要がないと言っていたのは、帝国軍一番の魔術師だからね。彼は、チューリンの顔を見たことがあるので、もし、過去に“預言者”が、軍にいた者であれば、わかるだろう。全くの外部の者だ」。
「帝国の出身者ではないということですか?」
「それはわからない。帝国の首都でも、地方の街でも軍に属していない魔術師というものそれなりにいる」。
「魔術師と言えば、ヴィット王国が思い浮かびますが」。
「“雪白の司書”かい?。チューリンもヴィット王国の者かもしれないね」。イワノフはハッとして続けた。「そういえば、ここにヴィット王国の者がたまに来るよ」。
「そうなんですか?」私は驚いて聞いた。「どういった用件で?」
「なんでも、武器を輸入したいということで、私はさっき紹介したように武器をまとめて卸す仕事を始めたからね。私としては顧客は帝国軍だけでなく、ほかの国でも歓迎だよ」。
「国はそれを許しているんですか?」
「もちろん許可は得ている」。イワノフは壁に貼ってある大陸地図を指さして言った。「帝国とヴィット王国の間にはテレ・ダ・ズール公国があり、直接国境を接していないので、脅威にならないということで許可が下りた」。
「ヴィット王国は平和主義の国と聞きましたが、武器の購入とは意外です」。
「わたしも最初はそう思ったよ、あの国にも軍隊はあるが、構成要員の多くが魔術師で、剣と斧とかはさほど多くは必要が無いから、そういう武器は自国で生産しているもので足りていると思っていたので、意外だったね。宗旨替えでもしたんじゃないか。理由はどうあれ、私は稼げるから、ありがたいしね」。
 と言うと、イワノフは笑って見せた。
 私は改めて、室内を見回した、武器を大量に卸している割には質素な家だ。そんなに儲からないのだろうか?
 そんな私の考えを見抜いたのか、イワノフは言った。
「私は、退役してからそんなに経ってないから今までで、軍とはまだ一度しか取引してないよ。そもそも軍との取引は年に二、三回しかない予定だ。それで、一年分の稼ぎになる予定だよ」。
 なるほど、軍に居たツテで取り入っているのだろう、安泰な隠居生活だ。

 私は、続けて質問した。
「そういえば、皇帝親衛隊というのがあると聞いたのですが。あれはいったいどういうものですか?」
「その名の通り、城内で陛下や皇女を身近でお守りする部隊のことだ。軍でも特に腕が立ち、かつ、忠誠心が高い者を採用している。大体五十名程度の小規模なものだ。そういえば、チューリンが現れてからは、陛下の近くには、ほとんど近づけないと聞いているがね。何のための親衛隊だか。だから、今は、主に皇女を護衛しているようだよ」。
「そもそも陛下は、普段は全く姿を現さないのですか?」
「陛下は、新年と建国記念日に挨拶で一般の前に姿を現すだろう?」
「はい」。
 と、私は言った。いや、本当は知らないが。
「それ以外では、衛兵達や他の城内にいる者ですら誰も姿を見ていないと言っている」。
 私は皇帝がすでに死んでいて、それを“預言者”をはじめ取り巻きが隠しているのかも、と思ったが、年に二回姿を見せるなら、それは違うようだ。

「なるほど、参考になりました」。
 私は深々と頭を下げた。
「私の話はお役に立てたかな?」。
 イワノフは改めて姿勢を正した。
「十分です。本当にありがとうございました」。
 と言って、私は立ち上がった。
「また聞きたいことがあったらおいで。大抵私はここにいるからね」。
 イワノフは立ち上がった。初めて立ち上がった彼の姿をみた。思ったより大柄で、私よりも少し高い。体格もがっしりしている印象だ。さすが若いころ斧使いで成らしたというだけのことはある。
 私も立ち上がり、はっと思いついたことを聞いた。
「最後にもう一つ。ズーデハーフェンシュタットに傭兵部隊がいると聞きました。彼らの評判はどうですか?」。
「ああ、知っている。確かルツコイの発案で戦後すぐに編成されたと思う。ズーデハーフェンシュタットでの帝国軍の人員不足を補うためが主な目的だ。二百名ぐらいの部隊で部隊長が優秀だと聞いているよ」。
「そうですか、いろいろお話いただいて、ありがとうございます」。
 私とイワノフは、別れの挨拶をするため、お互い手を差し出した。
 イワノフの握手は力強かった。
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