色彩の大陸1~禁断の魔術

谷島修一

文字の大きさ
61 / 68

拘束

しおりを挟む
 アグネッタとニクラスは、断続的に稲妻を放ち、チューリンを空中から床の方へ追い込む。
 ソフィアは、剣を構えチューリンに切りかかる。チューリンは、それを躱すだけで精いっぱいなようだ。チューリンといえども、アグネッタとニクラスほど強力な魔術師二人からの攻撃はさすがに厳しいらしい。チューリンは徐々に高度を下げてきた。
 下では、私はじめ、オットー、アクーニナ、親衛隊員達が待ち受けている。
 一方で、帝国軍の兵士や重装騎士団は戦いに参加する様子がなく、通路の奥の方へ下がっている。ソローキンは、傍観するつもりなのか。チューリンに加勢しないだけ良しと思うか。

 チューリンが剣の届きそうな高度まで下がってきた。私はゆっくりと最後のナイフを出してチューリンに投げつけた。ナイフはチューリンの首元に突き刺さった。チューリンは怯み、稲妻を出すのを止めた。アグネッタとニクラスの稲妻がチューリンの体を貫く。チューリンは床にたたきつけられた。すかさず、ソフィアがチューリンの脇に降り立ち、剣を振り下ろした。
 チューリンの首は斬り落された。

 アグネッタとニクラスも地上に降り立った。私、オットー、アクーニナ達もチューリンの遺体のそばに近づいた。
 私はチューリンの遺体の横にひざまずき、彼の魔石をもぎ取った。
 しばらくすると、遺体は土と化した。なかには驚きのあまり声を上げる者もいる。
 私はさほど驚かなかった。予想通りだった。このチューリンも傀儡魔術によるものだった。そうなると、島に居たチューリンもそうだが、一体、だれが操っていたのか。

 私はアグネッタ、ニクラス、ソフィアにこの戦いで、援護してくれた礼を言おうと立ち上がったが、その時、後ろから声を上げる者がいた。
「そこを動くな!」
 チューリンの遺体を見ていた全員が、声の方を振り向いた。
 声を上げたのはソローキンだ。兵士たちも、ぞろぞろと瓦礫の山と化した部屋の中へ入ってきた。
「チューリンを殺害した罪で、お前たちを全員拘束する」。
 ソローキンは叫んだ。
 兵士達は我々を取り囲もうと左右に展開する。
「これは傀儡魔術による土だ、人間ではない」。
 アクーニナはチューリンだった土の塊を指さして叫んだ。
「そんなことは、どうでもいい」。
 ソローキンは言った。
「どうでもいいだと?」ソローキンの言葉に驚いて、アクーニナは訊き返した。
 それを無視するようにソローキンは、「全員武器を捨てろ、魔術師は魔石もだ!」と、再び叫んだ。

 アグネッタとニクラスは目配せして、突然空中へ舞い上がった。
 ソローキンは「待て!」と叫んだ。弓兵が矢を放ち、帝国軍の魔術師が炎や稲妻を放つが、二人はうまく躱し、どこか遠くに去って行った。
「捜索させろ」と、ソローキンは近くの兵に言った。そして、残された我々の方を向いて再び叫んだ。「早く武器を捨てろ」。
 ここで抵抗しても、ある程度の兵は倒せるだろう。しかし城内には何百もの兵士がいる。城から脱出できるとは到底思えない。
 私は持っていた剣を捨てた。オットーとソフィアもそれに続いた。それを見てアクーニナも剣を捨て、彼女の部下たちも続いた。
 帝国軍の兵士達が我々を取り囲み、縄で縛り始めた。
「連行しろ」。
 と、ソローキンは兵達に言う。
「貴様、こんなことをしてただで済むと思うなよ」。
 アクーニナが怒鳴った。ソローキンはそれを無視して、縄で縛られる我々を確認するように眺めていた。

 しばらくすると、部屋の奥の扉がゆっくりと開いた。
 なんと、皇帝が出てきたのだ。ソローキンはと兵士たちはあわてて跪いた。
「何事だ。随分と騒がしかったようだが」。
 皇帝はゆっくりと話し、ゆっくり部屋を見回した。天井が落ち、壁の大部分が崩れている。床には瓦礫と親衛隊員達の遺体も見える。
 この惨状を見た割には、皇帝は全く驚いていない様子だった。これにはさすがに違和感を覚えた。

「チューリンを殺害した罪で、この者達を拘束しました」。
 ソローキンは言った。
「そうか」。
 皇帝は静かに答えた。そして、縄で縛られた我々を見た。皇帝は私を指さし、ゆっくりと話す。
「ユルゲン・クリーガーと話をしたい。彼だけは縄を解け」。
 側近のチューリンを殺害されたと聞いても、特に驚く様子がない皇帝に、やはり私は違和感を覚えずにはいられなかった。
 兵士は私の縄を解いた。
「こっちへ来たまえ」
 皇帝は私を手招きした。そして、ソローキンには、「護衛はいらん」と言った。
 ソローキンは、「しかし」と言うが、皇帝は手で制した。
 そして、皇帝は私に改めて「来たまえ」と言って、部屋の中に入っていった。
 私は言われた通りに皇帝の後に続き部屋に入っていった。

 ソローキンは、それを見送ったあと、兵士に扉を閉める様に言い、ソフィア、オットー、アクーニナ達を連行していった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...