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序章
帝国の侵攻
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大陸歴1655年3月3日
私、ユルゲン・クリーガーはブラウグルン共和国の首都ズーデハーフェンシュタットの首都防衛隊の一員として、街壁の上から街の警備にあたっていた。
街を守るように取り囲んでいる街壁の上に立ち、そこから望遠鏡を覗く。
現在、共和国軍一万八千が遠く先、グロースアーテッヒ川の対岸に陣を張っているのが、かろうじて判別できた。
情報によると帝国軍は明日の夕方にもその近くまで到着するという。明後日には本格的に戦闘が始まるだろう。
私の所属する首都防衛隊はその戦闘に参加しない。我々の任務は前線の共和国軍が敗退した場合、籠城し、ここで街を守ることだ。
ブラウグルン共和国の北側で国境を接していた軍事国家ブラミア帝国は、三年ほど前からブラウグルン共和国はじめ他の隣国への領土的野心を露骨にむき出すようになった。帝国は軍事力を増強し、周到な準備をした上で、十か月ほど前、帝国は圧倒的物量をもって共和国へ侵攻した。
元々、共和国は比較的平和な時代が長かったため、帝国の侵攻まで本格的な戦争は長らく体験していなかった。また、気候が温暖なせいか、人々も穏やかな者が多いため、元々争いごとが少ない国であった。そういう理由で共和国軍は戦い慣れない上に、準備不足であったため、突然の帝国軍の侵攻に対応しきれず国境は易々と突破された。
次に共和国軍は国境から近い共和国第三の都市モルデンを防衛線とした。そこでは、正面から戦うのは不利と考えた共和国軍は、籠城して帝国軍と対峙。ここでは共和国軍は予想を超えた善戦をした。しかし、最終的には帝国軍の激しい猛攻により、約半年で街は陥落。
戦闘とその後の略奪で街の大半が破壊され焼け野原となったという。
モルデン陥落直後から数週間は、街から脱出し首都まで逃げて来たきた住民達を保護する仕事にも当たったことがある。
私は引き続き街壁から望遠鏡で共和国軍の陣を眺めていると、同じ首都防衛隊で友人でもあるエーベル・マイヤーがやって来た。
エーベルは優秀な魔術師だ。短く切り揃えた茶色い髪に茶色い瞳。そして、魔術師らしからぬがっしりとした体格をしている。
「どうだい様子は?」
エーベルは話しかけて来た。
私は望遠鏡を下ろし、彼の質問に答える。
「今のところ、動きは無いな。帝国軍の到着は明日の夕方頃だそうだ」
「明後日には間違いなく戦いが始まるという事か」
「共和国の命運の掛かった戦いだ。総司令官エッケナーの采配に期待するしかない」
「そういえば、噂によると、帝国軍の総司令官は力押しの戦い方で攻めるのが得意らしいな」
「モルデンでもそういう攻め方をしたんだろう?」
「そうだ。城攻めに力押しとはね。敵にも結構な被害が出たらしい」
「だから、ここへ進軍するのが数か月遅れたと言っていたな」
「そのとおり。そんな無謀な戦い方をする敵の司令官だから、ひょっとしたら、こちらにも勝機はあるかもしれないな」
「だといいが」
エッケナーはじめ陣を張っているこちら側の司令官達が、どの程度の策略家かどうかは噂程度でしか知らない。しかし、敵が戦略無しで戦うのであれば、勝てる可能性はあるのかもしれない。
「そういえば」
エーベルが顔を近づけて小声で話しかける。
「さっき、士官の一人がブロンベルク隊長に『我々も街を出て戦いたい』と言っていたな」。
「それでどうなった?」
「隊長殿は『我々の任務は首都防衛だ』と言って、相手にしなかったけれどね」
「当然だな」
血の気が多い隊員が、帝国軍と戦いたがっているというのは聞いた。彼らの数はそれなりに多い様だ。独断で行動をしなければいいが。
私は再び望遠鏡を覗き込んだ。
(絵:warutu@ワルツ 様)
私、ユルゲン・クリーガーはブラウグルン共和国の首都ズーデハーフェンシュタットの首都防衛隊の一員として、街壁の上から街の警備にあたっていた。
街を守るように取り囲んでいる街壁の上に立ち、そこから望遠鏡を覗く。
現在、共和国軍一万八千が遠く先、グロースアーテッヒ川の対岸に陣を張っているのが、かろうじて判別できた。
情報によると帝国軍は明日の夕方にもその近くまで到着するという。明後日には本格的に戦闘が始まるだろう。
私の所属する首都防衛隊はその戦闘に参加しない。我々の任務は前線の共和国軍が敗退した場合、籠城し、ここで街を守ることだ。
ブラウグルン共和国の北側で国境を接していた軍事国家ブラミア帝国は、三年ほど前からブラウグルン共和国はじめ他の隣国への領土的野心を露骨にむき出すようになった。帝国は軍事力を増強し、周到な準備をした上で、十か月ほど前、帝国は圧倒的物量をもって共和国へ侵攻した。
元々、共和国は比較的平和な時代が長かったため、帝国の侵攻まで本格的な戦争は長らく体験していなかった。また、気候が温暖なせいか、人々も穏やかな者が多いため、元々争いごとが少ない国であった。そういう理由で共和国軍は戦い慣れない上に、準備不足であったため、突然の帝国軍の侵攻に対応しきれず国境は易々と突破された。
次に共和国軍は国境から近い共和国第三の都市モルデンを防衛線とした。そこでは、正面から戦うのは不利と考えた共和国軍は、籠城して帝国軍と対峙。ここでは共和国軍は予想を超えた善戦をした。しかし、最終的には帝国軍の激しい猛攻により、約半年で街は陥落。
戦闘とその後の略奪で街の大半が破壊され焼け野原となったという。
モルデン陥落直後から数週間は、街から脱出し首都まで逃げて来たきた住民達を保護する仕事にも当たったことがある。
私は引き続き街壁から望遠鏡で共和国軍の陣を眺めていると、同じ首都防衛隊で友人でもあるエーベル・マイヤーがやって来た。
エーベルは優秀な魔術師だ。短く切り揃えた茶色い髪に茶色い瞳。そして、魔術師らしからぬがっしりとした体格をしている。
「どうだい様子は?」
エーベルは話しかけて来た。
私は望遠鏡を下ろし、彼の質問に答える。
「今のところ、動きは無いな。帝国軍の到着は明日の夕方頃だそうだ」
「明後日には間違いなく戦いが始まるという事か」
「共和国の命運の掛かった戦いだ。総司令官エッケナーの采配に期待するしかない」
「そういえば、噂によると、帝国軍の総司令官は力押しの戦い方で攻めるのが得意らしいな」
「モルデンでもそういう攻め方をしたんだろう?」
「そうだ。城攻めに力押しとはね。敵にも結構な被害が出たらしい」
「だから、ここへ進軍するのが数か月遅れたと言っていたな」
「そのとおり。そんな無謀な戦い方をする敵の司令官だから、ひょっとしたら、こちらにも勝機はあるかもしれないな」
「だといいが」
エッケナーはじめ陣を張っているこちら側の司令官達が、どの程度の策略家かどうかは噂程度でしか知らない。しかし、敵が戦略無しで戦うのであれば、勝てる可能性はあるのかもしれない。
「そういえば」
エーベルが顔を近づけて小声で話しかける。
「さっき、士官の一人がブロンベルク隊長に『我々も街を出て戦いたい』と言っていたな」。
「それでどうなった?」
「隊長殿は『我々の任務は首都防衛だ』と言って、相手にしなかったけれどね」
「当然だな」
血の気が多い隊員が、帝国軍と戦いたがっているというのは聞いた。彼らの数はそれなりに多い様だ。独断で行動をしなければいいが。
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(絵:warutu@ワルツ 様)
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