傭兵部隊の任務報告1~物語の始まり

谷島修一

文字の大きさ
6 / 29
グロースアーテッヒ川の戦い

第5話・首都防衛隊

しおりを挟む
 大陸歴1655年3月5日・早朝

 日の出から三十分ほど経っただろうか。

 首都ズーデハーフェンシュタットの街壁で待機をしていた首都防衛隊にも、前線で戦闘が始まったようだと情報が駆け巡った。
 それを耳にした私は、詰所で待機していたが階段を駆け上がり、街壁の上へ到着した。すでに、他の大勢の兵士たちも街壁の上から、遠くのグロースアーテッヒ川対岸で立ち昇る煙を見つめていた。

 私は近くで望遠鏡で戦場の方を覗いているマイヤーの姿を見つけて声を掛けた。
「どうだ、様子は?」
「詳しい状況は、全く見えないな。おそらく、こちら側が草原に火をつけたようだ」
「そうか」
「あれに、どの程度の効果があるのだろうか?」
「目くらまし程度にはなるだろうな」

 私はふと、目線を少し下にすると、海軍の船数隻が川の真ん中あたりで待機しているのが見えた。
 共和国の海軍の兵力は少なく、地上のでの戦いは参戦することは叶わない。せいぜい船上から弓を射るぐらだろう。
 海軍を見て驚いた思わずクリーガーはエーベルに尋ねた。
「あれは?」
「わからない。万一の時、部隊を脱出させる為に待機しているのかもしれんな」
 前線が突破された場合は、首都での籠城戦となるのは間違いない。その“万が一”が無いことを祈ろう。

 エーベルは私の心の中を読んでいたように質問をした。
「もし、籠城戦になった場合は、勝ち目はあるんだろうか?」
 心の中を見抜かれたようで、少々驚いたが、私は答える。
「それは、帝国軍の数によるだろう。あの戦いでどれぐらい敵の戦力を削ることができるかによると思う」
「しかし、敵が川を渡るのには時間がかかるだろうから、少々時間は稼げそうだな」
「いや、時間を稼いでも、こちらに有利になることはないだろう。戦いの始まるのが遅いか早いかだけだ」
「そうか…、そうだな」
 エーベルは変わらず望遠鏡を覗きながら気のない返事をした。

 しばらくして、別の兵士から、首都防衛隊の一部が独断で戦場に向かったという情報が入った。
 その数は三十名程度だそうだが、精鋭の深蒼の騎士がほとんどだという。
 こちらから向かうには、船を使って渡河する必要があるが、海軍は独断の行動に同調しないだろう。そうすると、民間の渡し船を強引に接収するほかない。

 しばらくして、案の定、渡し船が予定外の渡河を始めたのが街壁の上から見えた。
 しかし、川の真ん中あたりで待機していた海軍の船数隻に囲まれてしまい、行く手を阻まれているようだ。
 あれでは、対岸に向かうことは不可能だろう。

 さらにしばらくして、正午頃、エーベルが私のもとへやってきて伝えた。
「さっきの独断で戦場に向かった連中の中に、クラウス・ルーデルが居たらしいぞ」
「そうか」
 私はその名前を聞いて軽くため息をついた。

 クラウス・ルーデルは、私の兄弟子で、かつては同じ師であるセバスティアン・ウォルターから教えを受けていた。師ウォルターが軍を離れてから、この数年はルーデルとは、性格もあまり合わないこともあって、ほとんど交流が無かった。私と彼は対照的な性格で、彼は少々血の気が多いように思っていた。一方の私は冷めすぎているきらいもあるが。
 そういう事もあり、彼の今回の行動をさほど驚きはしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

処理中です...