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第17話
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ラバールとフンツェルマンは二階の襲撃のあった部屋に戻る。すると、そこではバルバストルが手に何かを持って保安局員と話をしていた。
ラバールはバルバストルに声を掛ける。
「何か手掛かりはありましたか?」
「これが床に落ちているのを見つけました。ちょっと見てください」
バルバストルは、手に持っていた小さな円形の板をかざして見せた。
鈍い銀色をしたその板は、手のひらよりも少し小さく、真ん中あたりに見たことも無い、幾何学模様が描かれていた。
ラバールはしばらく眺めるとバルバストルからそれを受け取り、薄暗い中、表裏を注意深く見るために顔を近づけて観察した。よく見ると幾何学模様だけでなく、小さな文字のような物が幾つか刻まれているのがわかった。手触り、重さから、この板は恐らく鉄製のようだ。裏側を見ると模様は無く滑らかになっている。
「何ですか? これは?」
バルバストルは、ラバールの質問には答えずフンツェルマンにも尋ねた。
「フンツェルマンさんは、これを見たことがありますか?」
フンツェルマンはラバールからその板を受け取り、彼も裏表を何度か見る。
「いえ、見たことがありません。この家の物ではないようですが」
「おそらくですが」と、バルバストルは前置きして話をする。「この部屋へ入るための魔術で必要な物だと思われます」
「と、言いますと?」
フンツェルマンは板をバルバストルに返して尋ねた。
「男がエレーヌ様を襲撃した後、その男が消えたということですが、おそらく魔術を使ってどこかに移動したのでしょう」
それを聞いて、ラバールは眉間に皺を寄せて思わず口にした。
「うーん。まったく別の場所から、ここまで来られる魔術ですか? 壁を通り抜けて?」
「そうです。その魔術を仮に“空間転移魔術”と言いましょうか。それを使ったと思われます」
「そんな魔術は聞いたことがありません」
「実は、保安局にはザーバーランド王国で、このような魔術が最近開発されたという情報が入っております」
「もしそんな魔術があって、要人の暗殺などで使われてしまっては、我々は手の打ちようがありません」
そう言うと、ラバールは再び「うーん」と唸った。
「それと、その板とは、どのような関係があるのでしょう?」
フンツェルマンが尋ねた。
「我々に入っている情報では、空間転移魔術は、どこへでもいきなり移動できるというわけではなく、何らかの“足掛かり”を必要とするようなのです」
「“足掛かり”ですか?」
「そうです。それがこの板だと思われます。この板に何らかの魔術を掛けてこの部屋に置いておき、これを目標に男は空間転移してきたものと思われます」
「ちょっと待ってください、ということは誰かがあらかじめこの部屋にそれを置いたということですか?」
フンツェルマンが驚きを声を上げた。一方のバルバストルは落ち着いて答える。
「おそらく、そうでしょう。エレーヌ様がここにいる事を知っていて、かつ、この部屋に入ったの者は誰かわかりますか?」
「私とメイドの二人、ニコラ様……、それと、ジャン=ポール様ぐらいでしょうか」
「ボディーガードのジョアンヌさんは?」
ラバールがハッとなって尋ねた。フンツェルマンは少し考えてから、それに答えた。
「そうですね……、彼女はひょっとしたら部屋に入っているかも知れません、たまにエレーヌ様と話をしていたようなので。しかしながら、彼女には今までにいくらでもエレーヌ様を襲うチャンスはあったでしょう。あえて魔術を使う暗殺者を呼び込んで襲撃する必要はないと思いますが」
「ただ、犯人を手引きした可能性もあります。彼女は、今はどこに?」
バルバストルは“板”をポケットに入れながら尋ねた。
「今は、一階の廊下で見張りを」
「話を聞いてみますか?」
「いや、この板の件はこの三人のみで留め置いてください」
「念のため、彼女の経歴も洗っておきますよ」
ラバールはそう言った。
「後は、今のエレーヌ様の居る部屋に、この板と同じものが無いかどうか調べておく必要はありますね」
バルバストルがそう言うと、ラバールがすぐに答えた。
「それは直ちにやりましょう」
三人は急いで一階のエレーヌの居る部屋に再び向かった。玄関ホールから廊下への入り口に保安局員が二名、エレーヌのいる部屋の前ではジョアンヌが椅子に座って見張りをしている。バルバストルは保安局員に合図をして後に続くように指示した。
そして、ジョアンヌの前を通り抜け、部屋の前に着く。
フンツェルマンがノックをして扉を開けると、エレーヌはまだ起きて、ベッドで横になっているのではなく、部屋の椅子に座っていた。ランプの灯の中、彼女の手には、この部屋の暖炉にあった火かき棒を持っているのが見えた。また、護身用に使うのだろう。
「エレーヌ様、申し訳ございません。部屋の中を確認させてください」
フンツェルマンが言うと、エレーヌは顔を上げた。
「構わない。もう、目が覚めてしまったからな」
部屋に入ったフンツェルマン、ラバール、バルバストル、保安局員二名は部屋の中を細かく捜索した。
十五分程度、隅々を確認する。エレーヌは静かにそれを見つめていた。
結局、例の板と同じようなの物は見つからなった。捜索していた一同は一旦は安心して、エレーヌに挨拶をして部屋を後にした。
バルバストルはフンツェルマンにこの部屋には、これ以上誰も入れるなと言い、扉の前のジョアンヌにも部屋には絶対に入るなと注意して、この場は解散することにした。保安局員二名も引き続き一階の廊下と玄関ホールを見張りさせるよう命令した。バルバストルも屋敷の中で警戒する。
フンツェルマンは自室に、ラバールは引き続き警備のため屋敷の外への所定の場所へ向かおうとした。玄関ホールで、バルバストルはラバールに別れ際に言った。
「執事、メイド、用心棒、婚約者の全員を洗ってもらえますか?」
「わかりました」
「こちらでも何か情報が無いか調べておきます。あと、朝一番でこれについても、こちらの魔術師に調べてもらいます」
そう言うとバルバストルは、例の幾何学模様の入った板をポケットから再び出して見せた。
ラバールは軽く会釈してその場を後にし、表に出た。時間は早朝となり夜明けも近い。顔を上げると、地平線の空は明るくなり始めていた。
ラバールはバルバストルに声を掛ける。
「何か手掛かりはありましたか?」
「これが床に落ちているのを見つけました。ちょっと見てください」
バルバストルは、手に持っていた小さな円形の板をかざして見せた。
鈍い銀色をしたその板は、手のひらよりも少し小さく、真ん中あたりに見たことも無い、幾何学模様が描かれていた。
ラバールはしばらく眺めるとバルバストルからそれを受け取り、薄暗い中、表裏を注意深く見るために顔を近づけて観察した。よく見ると幾何学模様だけでなく、小さな文字のような物が幾つか刻まれているのがわかった。手触り、重さから、この板は恐らく鉄製のようだ。裏側を見ると模様は無く滑らかになっている。
「何ですか? これは?」
バルバストルは、ラバールの質問には答えずフンツェルマンにも尋ねた。
「フンツェルマンさんは、これを見たことがありますか?」
フンツェルマンはラバールからその板を受け取り、彼も裏表を何度か見る。
「いえ、見たことがありません。この家の物ではないようですが」
「おそらくですが」と、バルバストルは前置きして話をする。「この部屋へ入るための魔術で必要な物だと思われます」
「と、言いますと?」
フンツェルマンは板をバルバストルに返して尋ねた。
「男がエレーヌ様を襲撃した後、その男が消えたということですが、おそらく魔術を使ってどこかに移動したのでしょう」
それを聞いて、ラバールは眉間に皺を寄せて思わず口にした。
「うーん。まったく別の場所から、ここまで来られる魔術ですか? 壁を通り抜けて?」
「そうです。その魔術を仮に“空間転移魔術”と言いましょうか。それを使ったと思われます」
「そんな魔術は聞いたことがありません」
「実は、保安局にはザーバーランド王国で、このような魔術が最近開発されたという情報が入っております」
「もしそんな魔術があって、要人の暗殺などで使われてしまっては、我々は手の打ちようがありません」
そう言うと、ラバールは再び「うーん」と唸った。
「それと、その板とは、どのような関係があるのでしょう?」
フンツェルマンが尋ねた。
「我々に入っている情報では、空間転移魔術は、どこへでもいきなり移動できるというわけではなく、何らかの“足掛かり”を必要とするようなのです」
「“足掛かり”ですか?」
「そうです。それがこの板だと思われます。この板に何らかの魔術を掛けてこの部屋に置いておき、これを目標に男は空間転移してきたものと思われます」
「ちょっと待ってください、ということは誰かがあらかじめこの部屋にそれを置いたということですか?」
フンツェルマンが驚きを声を上げた。一方のバルバストルは落ち着いて答える。
「おそらく、そうでしょう。エレーヌ様がここにいる事を知っていて、かつ、この部屋に入ったの者は誰かわかりますか?」
「私とメイドの二人、ニコラ様……、それと、ジャン=ポール様ぐらいでしょうか」
「ボディーガードのジョアンヌさんは?」
ラバールがハッとなって尋ねた。フンツェルマンは少し考えてから、それに答えた。
「そうですね……、彼女はひょっとしたら部屋に入っているかも知れません、たまにエレーヌ様と話をしていたようなので。しかしながら、彼女には今までにいくらでもエレーヌ様を襲うチャンスはあったでしょう。あえて魔術を使う暗殺者を呼び込んで襲撃する必要はないと思いますが」
「ただ、犯人を手引きした可能性もあります。彼女は、今はどこに?」
バルバストルは“板”をポケットに入れながら尋ねた。
「今は、一階の廊下で見張りを」
「話を聞いてみますか?」
「いや、この板の件はこの三人のみで留め置いてください」
「念のため、彼女の経歴も洗っておきますよ」
ラバールはそう言った。
「後は、今のエレーヌ様の居る部屋に、この板と同じものが無いかどうか調べておく必要はありますね」
バルバストルがそう言うと、ラバールがすぐに答えた。
「それは直ちにやりましょう」
三人は急いで一階のエレーヌの居る部屋に再び向かった。玄関ホールから廊下への入り口に保安局員が二名、エレーヌのいる部屋の前ではジョアンヌが椅子に座って見張りをしている。バルバストルは保安局員に合図をして後に続くように指示した。
そして、ジョアンヌの前を通り抜け、部屋の前に着く。
フンツェルマンがノックをして扉を開けると、エレーヌはまだ起きて、ベッドで横になっているのではなく、部屋の椅子に座っていた。ランプの灯の中、彼女の手には、この部屋の暖炉にあった火かき棒を持っているのが見えた。また、護身用に使うのだろう。
「エレーヌ様、申し訳ございません。部屋の中を確認させてください」
フンツェルマンが言うと、エレーヌは顔を上げた。
「構わない。もう、目が覚めてしまったからな」
部屋に入ったフンツェルマン、ラバール、バルバストル、保安局員二名は部屋の中を細かく捜索した。
十五分程度、隅々を確認する。エレーヌは静かにそれを見つめていた。
結局、例の板と同じようなの物は見つからなった。捜索していた一同は一旦は安心して、エレーヌに挨拶をして部屋を後にした。
バルバストルはフンツェルマンにこの部屋には、これ以上誰も入れるなと言い、扉の前のジョアンヌにも部屋には絶対に入るなと注意して、この場は解散することにした。保安局員二名も引き続き一階の廊下と玄関ホールを見張りさせるよう命令した。バルバストルも屋敷の中で警戒する。
フンツェルマンは自室に、ラバールは引き続き警備のため屋敷の外への所定の場所へ向かおうとした。玄関ホールで、バルバストルはラバールに別れ際に言った。
「執事、メイド、用心棒、婚約者の全員を洗ってもらえますか?」
「わかりました」
「こちらでも何か情報が無いか調べておきます。あと、朝一番でこれについても、こちらの魔術師に調べてもらいます」
そう言うとバルバストルは、例の幾何学模様の入った板をポケットから再び出して見せた。
ラバールは軽く会釈してその場を後にし、表に出た。時間は早朝となり夜明けも近い。顔を上げると、地平線の空は明るくなり始めていた。
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